6 成り行き任せの女 【6-5】

「宮崎さん」

「はい」

「今日から3ヶ月、しっかりと頼みます」


岳は、自分の車に乗って出社するようにあずさに言うと、

『ごちそうさまでした』と席を立つ。


「エ……車ですか」

「そう。今日は午前中、立ち寄らないとならないところがあって。
でも、おそらく待ち時間が長いと思うので。だから『肩もみ』のチャンスかと」


岳は8時には家を出ますというと、食事の場所から出ていこうとする。


「うわぁ……岳、本当に、本気であずさちゃんに『肩もみ』させるんだ」


東子は両手で自分の体を包むようにすると、『怖い、怖い』と声に出す。


「何を言っているんだ、宮崎さんに肩こりの情報を提供したのはお前だろ」


岳はそういうと、東子を指差した。東子は『そうでした』と舌を出す。

そんな3人の様子を見ていた敦も、挨拶をして身支度を整えだした。



「あの、どこに乗れば」

「客ではないから、前で」

「はい」


あずさは岳の車の助手席を開け、『失礼します』と言いながら席に座った。

実家ではいつも軽自動車か、小さな作業用のトラックにしか乗ったことがないので、

あまりにも『ここちよい』クッションに対して、逆にお尻が落ち着かなくなる。

それでもシートベルトをしめて、荷物を膝の上に置くと、すぐに車は走り出した。

しばらく静かに走っていたので、あずさは何気なく窓から景色を見る。

道の横に『地下鉄の駅』があり、いつもはこの下を通っているのかと道路を見た。


「玉子さんって言ったよね、宮崎さんの……」


岳は、あずさと玉子の関係がなんだったと少し言葉が止まる。


「玉子さんは、私のひいおばあちゃんです」

「ひ孫」

「はい、玉子、夏子、美佐、そしてあずさと、
宮崎家は4代続いて『女』しか生まれませんでした」


あずさは自分の母、美佐には聖美という妹がいるが、

結婚して広島に暮らしていると、そう付け加える。


「そうか、それなら宮崎さんはいずれ、家を守らないとならないわけだ」


岳は、両親が帰ってくるのを楽しみにしているのだろうと、当たり前のように話す。


「家を守る? そんな考えは、ないですよ」


あずさは、今まで生きてきて一度も婿をもらってほしいと言われたこともないし、

家を守れと言われたこともないと語る。


「相原家のように、たくさんの財産や会社があれば別でしょうけれど、
宮崎家は、雨漏りのしそうな古い家と、夏子さんが趣味で耕している小さな畑、
それと母があひると犬を飼える庭、こんなものです」


自分の親は、父が定年退職をしたら、妹夫婦と一緒に、

暖かい沖縄に行き、暮らしたいと言っていることを、当たり前のように話す。


「沖縄」

「はい。父の会社が退職金をくれたら、それでいくし、
くれなかったら、家を売ってもいいのかと、いつも夏子さんに聞いていて……」


あずさは、夏子が、そうしたければそうすればいいと言っていることも付け足していく。


「そうなのか」

「一度だけの人生、それぞれがやりたいことをすればいい。それが『宮崎家』です。
おかしいですか? 我が家」

「さぁ、どうだろうか」


岳はそう言ったものの、内心、

自分が今まで出会ったことのない『家族のタイプ』だと、そう思った。

岳は、生まれたときから当たり前のように今の家があり、疑うこともなく、

『桜北大学』の付属に入学した。

正直、小さい頃には、経済的には余裕のある人たちとしか、関わってこなかった。

高校に入り、付属中学ではない人たちとも初めて縁を持ち、

世界が広がっていくという気持ちがしたが、それがまた岳の殻をひとつ、

生み出してしまう。



『だって……岳と付き合ったら、一生お金に困らないでしょ……』



「あ……すごい! 東京タワーとスカイツリー両方見えます。揃い踏みですね。
なんだか得した気分」


あずさの声に、岳は現実に戻った。


「正直、どうするつもりなんだ」


岳は、3ヶ月待つとして、結果的に『アカデミックスポーツ』は、

他の会社から、値上げを了承させることは難しいのではないかと、そう話す。


「宮崎さんも思っただろ。あの人たちの不適格さを」

「不適格?」

「そう……うちの会長と、柴田社長の父親と、仲間という言葉だけで、
今までを流してきた。だからあの人は、自分にも他人にも厳しいことが出来ない。
あの優しさは、どこかで致命傷になる」


岳はそういうと、右に曲がる。


「あの……」


あずさは、東京に転勤となったのも突然で、

さらに『アカデミックスポーツ』の現状を見たのも一昨日が初めてで、

今は、『先のこと』など考えられないと正直に話す。


「考えられない……か」

「すみません、元々性格がこんな……行き当たりバッタリな人間なので。
とにかく、いただけた3ヶ月の中で、どうしたらいいのかを考えるつもりです。
岳さんの肩を揉んでいるときだって、頭は別のことを考えることが……」

「出来るのか」

「……たぶん」


あずさはそういうと、『あ……』と声を出す。


「あの……」

「何」

「『アカデミックスポーツ』の未使用となっているスペースは、何ですか」


あずさは、エレベーターを降りると、真ん中に立つことになり、

本社としては左側しか使っていないと話す。


「カーテンがかかっていて、中が見えませんでした。何かなと」

「あぁ……リラクションルームのことか」

「リラクション?」

「あのビル、昔は『BEANS』の本社だったからね。
社員が少しずつ増えていく中で、会長があの場所に社員が集えるようにと、
防音設備を整えた。昔は『ジャズ』を流したりしながら、社員たちが食事をしたり、
たまにはプロの演奏家を呼んで、みんなで聴いたりしたと、たしか聞いたことがある」

「防音? そんなにしっかりとした部屋なのですか」

「あぁ……入ったこともないけどね」


岳は首都高速のとある場所に向かうため、左の車線に変更する。


「そうですか、そういった目的で」


あずさは、『BEANS』に向かうと思っていたため、車線変更がわかり、

初めてどこに行くのですかと、岳に聞く。


「これから向かうのは病院だ」

「エ……岳さん、どこか悪いのですか」

「いや、俺じゃない。『建築業界のドン』と言われている人が、
入院している。ようするに見舞いだ」


岳はその人がヘソを曲げると、新しい建物を建てるのにも面倒なことが多いのだと、

そうあずさに説明する。


「何時に誰が来た、誰は来なかったとか、とにかく年寄りだから時間がある。
チェックだけは厳しい。顔を出さないと後から面倒だから」

「へぇ……」


あずさはそうなのですかととりあえず納得し、また窓からの景色を見た。




【ももんたのひとりごと】

『肩こり』

平成28年の調べでは、女性1位、男性2位の悩みが『肩こり』。
日本人は欧米人に比べ、頭が大きいわりに体が小さく、
首から肩の骨格や筋肉がきゃしゃのため、筋肉疲労しやすく
「肩こり」が起こりやすいらしいです。
人頭脳明晰、ルックスもよく、金持ちの岳が唯一、悩んでいる『肩こり』。
それがこれからの話の流れにどう影響するのか、楽しんでもらえたらなと思いつつ、
自分自身も肩こりのため、よく両肩を回している私です(笑)




【7-1】



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