7 時間の活用法 【7-3】

「パンチョ・ボンバーって、敦さんご存知ですか?」

「パンチョ?」

「はい。子供の番組で、人気のあるお笑い芸人さんなんです。
髪の毛はおかっぱで、ちょっと小太りで。
昔、『アカデミックスポーツ』に勤めていたことがあると、
以前、同僚から聞いたことがあって」


あずさは、そういう縁で、何かが出来ないかなと話しだす。


「何か……」

「はい。『アカデミックスポーツ』は、子供の入会者も多いんですよ。
そういう人たちにアピール出来るようなものが、『パンチョ・ボンバー』なら、
出来そうな気がして」


あずさは、子供向けのものが出来たら、全員に販売できないかと、

設計図を見ながら、つぶやいていく。


「パンチョって芸能事務所、どこなのかな……タダというわけにはいかないけど、
どれくらいあったら出来るのか」


あずさはそういうと、設計図を見ながら、想像力を働かせる。


「あ……そういえば、今、ご親戚の方にお会いしました。とても綺麗な……」

「あぁ……千晴さんか」

「そうです。敦さんにとっては……『いとこ』ってことですよね。
なんだかとっても綺麗な方で」


あずさは、まるでモデルのようだったと、感想を述べる。


「だったからね、一応」

「だった?」

「千晴さんは、元モデルなんだ。だから……」


あずさは、芸能界にいた人なら、なにか『パンチョ・ボンバー』のことを、

知っているだろうかと考える。その瞬間、あずさの携帯が鳴り出した。

相手はもちろん岳になる。


「呼び出しです。また来ます」

「あ、展開図と設計図、コピーしようか」

「いいのですか?」

「うん」

「それなら、後で取りに来ます」


あずさはそういうと、賃貸部門の部屋を出て、エレベーターの前に立った。

敦は、あらためて図面を見る。

岳が言っていた通り、敦も、たとえ期限を3ヶ月延ばしたとしても、

『アカデミックスポーツ』がビルに残るという選択肢はないだろうと、

内心ずっと思っていた。

だからこそ、上から見逃されている限り、ただ、延長していることが、

自分の出来ることだと、そう考えてきた。

しかし、あずさの行動を見ていると、無謀だと思いながらも、

何かが出来るのかもしれないと、思ってしまう。

コピーの機械に触れながら、なぜかおかしくなり自然と口元が動いた。



「どこに行っていた」

「賃貸部門です」

「敦のところか」

「はい」


本日2度目の『肩もみ』タイム。

あずさは、1回目で、もしかしたらという部分を探っていたため、

その部分を中心にし、指を動かしていく。


「何のために」

「今、発表すべきですか?」

「嫌なら、しなくてもいいけれど……」

「嫌ではないですが、まだあまりにもまとまっていないので、辞めておきます」

「どういう意味だ」

「あっという間に、幻にされてしまいそうなので……」


あずさは『未完成』のものを口に出せば、岳に頭から潰されるのではないかと思い、

あえてそう言った。

岳はあずさの気持ちを理解したのか、それ以上追求することなく、

手に取った書類を読み始める。

あずさは、岳の後ろからその書類の中身を見てみたが、

英語や方程式のようなものが並んでいたため、

何が書いてあるのかさっぱりわからなかった。





午後3時。

あずさのいない『アカデミックスポーツ』では、いつものお茶タイムを迎えながらも、

いつもとは違うことが話題になっていた。


「1階のお茶屋『葉香』さんは、やはり値上げは……と」

「そうか」

「2階の相田設計事務所は、残れるのなら残りたいけれど、
1年程度しかいられないのなら、値上げに応じてまではと」

「そうか……」


事務員である小原が、1階と2階を借りている会社や店舗に、

いよいよ『BEANS』から最後通告を受けたことを、話しに行くと、

今まで、どこか誤魔化せたらと目をそらしていた人たちも、

最終的な判断をし始めた。

『アカデミックスポーツ』が3階にあり、

4階は元々、倉庫のような貸し出しがいくつか入っている場所のため、

長期の契約が存在しない。

5階にも借り手はいるが、これ以上無理は出来ないのだろうと、

どこか諦めムードだった。

ほたるは、今よりも家賃の安い場所を探しましょうかと言い始め、

柴田もそれを否定できずにいる。


「もう一人、2階の村田さんは……」

「プラモデルのお店ですよね。何度も声をかけましたが、奥から出てこられなくて。
とりあえず、お話しは以前からしていることなので、もう限界が来たのだと、
わかってくれるはずですが……」


ほたるは、あの人は聞いていても声をあまり出さないからと、そう言った。

小原もそのとおりだと、うなずいていく。


「まぁ、仕方がないですよね。本当は、もっと早くこうなったはずですし。
なんだか、今まで延びてましたけれど」


小原は、今までが楽をしていたのかもしれないと、そう言いながらお茶を飲んだ。

柴田は、まだ庄吉が本社に通勤していた頃のことを思い出す。



『世の中全部が、先端を走ればいいというものではないと思っていてね。
古いものを頼りたい人もいるし、損をしても、目を瞑らないとならないことが、
あると思うんだ』



「時の流れを、受け入れないとならないだろうな……」


今よりも賃料を上げずに、それぞれの店舗を残すためには、

『アカデミックスポーツ』が、利益を生み出せばいいのだが、

形だけの本部であるため、これ以上の『利益』を生み出す力は正直ない。

柴田と小原のセンチメンタルな気持ちの中に、バタバタという足音が聞こえ始め、

すぐに扉が開かれた。


「すみません、宮崎です」


入ってきたのは、首から仮の社員証と携帯電話をぶらさげたあずさだった。



【7-4】



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