11 一生の夢 【11-1】

「宮崎あずさです。始めまして」


あずさは、杏奈の彼、広夢の登場に驚きながらも、頭を下げる。

杏奈は、広夢は仕事が早く終わると、お兄さんのお店を手伝うのだと話してくれた。


「そうなんですか」

「そうなんです。人件費がかかると、経営できないでしょう。こんな小さな店だと」


広夢は親指と人差し指を重ねるようにして、『小さい』を強調する。

そんな広夢に、兄が厨房から『小さいは余計だ』と声を出す。


「広夢、あずさとゆっくり話すから、仕事を手伝いなさいって」

「はいはい」


広夢はあずさに『どうぞごゆっくり』というと、その場を離れ、汚れた皿を洗い出した。

あずさと杏奈は、とりあえずと乾杯をする。


「で、どうなの? 仕事の方は。少しは希望が見えてきた?」


杏奈には、入社した日からの出来事を、それなりにメールで伝えていたため、

状態はよくなったのかと、そう聞いてくる。


「とりあえず、もがき中」

「もがき? それじゃ、よくなっているわけではないのね」


杏奈は、冷静に外側から流れを聞いていて、

『アカデミックスポーツ』という会社自体、先があるのかどうかと言い始める。


「どういう意味?」

「だって、あずさのしていることを考えたら、紙一重じゃない。
会社自体は具体策も出せていないし、結局、運任せというか……」


杏奈は広夢が運んでくれたサラダを、あずさの前に1つ置く。


「運任せって言われたら、そうかもしれないけれど。でも……」

「ねぇ、この際『BEANS』に再就職させてもらうっていうのはどう?」


杏奈は、家賃、食事、就職つきと笑い出す。


「そんなことできるわけないでしょう」


あずさは岳のそばにいるようになり、

『BEANS』の社員たちが、どれだけ優秀な大学を出ているのかと話し、

『建築』の知識もない自分が、とても関われる内容とは思えないと言いながら、

何度も首を振る。


「まぁ、そうだよね。相手は大手、一流企業の『BEANS』だもの」

「うん」


二人の前に、広夢が『デミグラスソース』のたっぷりかかった

オムライスを運んでくれる。


「『BEANS』って、『豆風家』の経営もしているよね」


広夢はそういうと、以前、厨房に入れてある業務用の冷蔵庫を搬入するため、

『翠の家』に行ったことがあると、話し出す。


「そうなの? 広夢」

「あるよ。俺は『ツネザワ』で、結構優秀な営業マンなんだからさ」


広夢はそういうと、両手を腰に当て、少しカッコをつける。

杏奈はいちいち話しに入ってこないでと言いながら、広夢を手で払ってみせた。





あずさが杏奈と食事をしている頃、岳も友人と会っていた。

『室伏悟(さとる)』。2年間のイタリア修行を終えた『靴職人』になる。

悟の家は、全国の百貨店などに店舗を持つ『WALKEL』で、

父親が3代目の社長となっていた。銀座や横浜、神戸などにある店舗では、

高級オーダーの靴を扱っているため、武彦や岳もお世話になっている。


「2年ぶりの再会に、乾杯」

「あぁ……」


岳と悟の出会いは、『桜北大付属中学』に遡る。

大学時代は工学部と経済学部という別学部だったが、気の会う相手として、

長い間、ベッタリしすぎない関係を続けている。

悟は、高校生の頃から外国に興味を持っていたため、

この靴修行は、満を持しての時間だった。

これから自分なりの店を展開していくのだと、『夢』を語る。


「向こうにいる間に、
お前が『BEANS』の社長になりますと、手紙くらいくるかと思っていたよ」


悟はそう言いながら、ワイングラスをあっという間に空にする。


「なるわけがないだろう。お前のように順風満帆じゃないよ。
近頃、思い通りにならないことが多くて、ストレスがたまる一方だ」


岳はグラスの中に光る、ワインの色を見る。


「逸美、婚約したんだってな」


悟は、岳と逸美の関係を知っていたため、そう言った。

岳は『相手はエントリアビール』の次男だと、愁矢のことを話す。


「あぁ、知っている。お前たちはなんだかんだ言っても、
ちゃんとするのかと思っていたよ。正直、親からの情報で知って、ビックリした」


悟は愁矢の父、隆三が長い間、『WALKEL』の靴を愛用してくれているので、

その情報を知ったと、さらにワインをオーダーする。


「まぁ、あいつも守らないとならないものがあるし、難しかったか」


悟はそういうと、日本のワインは飲みやすいと話す。


「だとすると、岳の相手は『三国屋』のお嬢さんか」


悟の言葉に、岳が顔をあげる。


「あのさ、言っておくけれど、俺はお前のストーカーなわけじゃないぞ。
靴屋という職業柄、あちこちに出入りするから、情報だけは入るんだ。
青木梨那。彼女とも付き合いがあるのだろう」


悟にそう言われて、岳は確かにその通りだと頷いていく。


「まぁ、相手としては悪くないね」


悟はそういうと、何かもう少し頼もうかとメニューを見る。


「なぁ……『結婚』ってそれほど大切か」


岳の言葉に、悟は考え方だろうと言葉を戻す。


「お前みたいなのが相手だと、自分のものだと思うには、形を得るしかないと、
そう考えるんじゃないか」


悟は以前、『三国屋』で見かけたけれど、梨那がかわいらしい女性だったと感想を言う。


「妙な考えだというのはわかっているんだ。でも、気付いたことがある」

「気付いた?」

「あぁ……今まで取れていたバランスが、今は全く取れない。
梨那に対して、気持ちがないわけじゃない。でも、『結婚』だと言われると、
とてもそういう気持ちに、自分がならないから」


岳は、逸美との別れも、いつか来るものだと思っていたし、

自分の立場も理解しているつもりだけれどと、グラスに口をつける。


「岳……お前も一度、外国にでも行けよ。
そうすると今の自分に満足できるかもしれない」


悟はそう言いながら笑うと、ウエイターを呼んだ。



【11-2】



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