11 一生の夢 【11-3】

午後から会議が続くと言われ、あずさはその日、午前中で『肩もみ』終了となった。

すぐに昼休みがやってきたため、『アカデミックスポーツ』の小原とほたるを待ち、

一緒にランチをする。


「データですか」

「はい。日曜日も埋まり始めたという話をしたら、岳さんにすぐどれくらいなのかと、
突っ込まれました。油断も隙もないですよ……実際、どれくらい埋まっていますか」


あずさは、何か切り返されると、ダメなのかとドキドキしてばかりいると、

小原に愚痴をこぼす。


「ドキドキは別の意味じゃないのかしら」

「エ?」

「いえいえ」


小原は、日曜日は7割くらい埋まっているが、

平日はまだまだ空きが多いと教えてくれる。


「そうですよね、平日仕事が終わってからということですからね」

「こっちも7割くらい埋まればね、予定のお金くらいになるのだけれど」


1、2階に事務所や店舗を持っている、長い付き合いの人たちに、

値上げなく1年間の時間を与えるには、もう少しスタジオが回らないと、

その分の利益が出なくなる。

あずさは、あと1ヶ月の中で、その目処が立たないと、

『打ち切り』になる可能性が高いと思い、『きつねうどん』を食べながら、

何かいい手はないかと考えた。





『BEANS』の第1会議室。

『BEANS』の数ある会議室の中でも、一番広い部屋がここで、

社長が加わる会議に関しては、いつもこの場所で行われた。

楕円形のテーブルは人数によって、大きくも小さくもなる。

入社の浅い社員たちは、それぞれのグループがプレゼン出来るように、

スクリーンの準備もしっかりと行った。

今回の議題は、昨年、新しい形の分譲マンションを売り出すという決定に従い、

『稲倉』と『岸田』。どちらの土地に手をあげていくかを決めるものだった。

岳は、価格設定、購買層などを予想し、2つ候補地が挙がっていることを知っていて、

そのうち、『稲倉』という場所を狙い、そのための予算などもくみ上げていた。

『稲倉』は、元々小学校のあった場所になる。

全国的にも子供の数は減っているが、都心では特に子供たちの数に差が生まれ、

いくつかの学校が統廃合されたことで、空きの場所が出た。

役所もただ、土地を管理しているのではお金もかかるため、

それを業者にさばく動きがいくつかあり、入札も盛んに行われている。

立地条件は悪くないため、もちろんライバル会社も目をつけているが、

情報を先取りし、動いてきただけに、しっかりとしたデータさえ組めたら、

勝てるという自信も、岳にはあった。

それぞれの担当者が席につき、最後に社長を始めとした役員たちが席につく。


「それでは、会議を始めさせていただきます」


担当者がそれなりに意見を述べ、どれくらいの収益になるのか、

インパクトがどれくらいあるのかなど、プラス部分を語っていく。

スクリーンに映し出したCGのマンションは、

『1歩前に』という『BEANS』のスローガンにもしっかり合っていると、

担当者は説明を終え、席についた。

決定権のある人間たちの表情を見ながら、岳はタイミングを見て手を挙げる。


「補足として……よろしいですか」


岳は、『なぜ稲倉なのか』というポイントをさらに押し出した。

『BEANS』の建築には、長い歴史があり、特に分譲マンションに関しては、

その力は全国レベルになっている。


「先日のホテル新館についてもそうですが、これからいよいよ『BEANS』は、
商業施設に関しての建築にも、力を入れていくつもりです。となると、
高収入の層が狙うマンション。ホテルに入るようにな贅沢さをポイントにし、
土地にもこだわらなければなりません」


岳は、自分よりも年齢が上の社員に対しても、しっかりと目を見て話をした。

今までの『BEANS』から、さらに大きくなるための第一歩。

そう思うからこそ、力も入っていく。

正々堂々と意見を言い、周りを納得させようとしている岳の姿を、

泰成は見つめながら、『それはその通りだ』というように、頷いていく。


「『BEANS』の新しい一歩を示すマンションは、ぜひ、『稲倉』で……」


岳は発表を終え席に座ると、一度大きく息を吐いた。





「配送OKですので、集荷お願いします」


あずさは昼食を終えてから、久しぶりに地方のジムに送る荷造りを手伝っていた。

午後から出社した柴田は、近所に出来たお店で美味しい和菓子があったと言い、

みんなに『みたらしだんご』を持ってきてくれる。


「あら、それなら3時は日本茶ですね」

「そうだね」


あずさはダンボールを組み立てながら、壁にかかる時計を見た。

あと10分ほどで3時。あずさは、次の荷物まで作ろうと思い、

Tシャツのサイズが書かれたメモを見る。

すると、首にかけていた携帯が鳴りだした。

相手を見ると、『相原岳』となっている。


「あれ?」

「どうしたの」

「今日は終わりだって……言われたのに」


あずさは首をかしげながら、それでもとりあえず電話に出た。


「あの……」

『予定が変わった、すぐに来てくれ』


岳はそういうと、すぐに電話を切ってしまった。

あずさは口をあけたものの、岳のスピードに何も言うことが出来ず、

開いた口を閉じるタイミングがないままになってしまう。

岳の、理由がわからないけれどどこか不機嫌そうな口調に、

また何か言われるのだろうかとため息をついた。


「どうしたの」

「今日はもういいと言われたはずなんです。でも、予定が変わったようで」

「あら」


あずさは荷造りを小原に任せると、バッグを持って『アカデミックスポーツ』を出た。



【11-4】



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