17 女の幸せ 【17-5】

帰省ラッシュの混雑予想の日付と、1日ずれているからかもしれないが、

それほどの渋滞にはならないまま、車は順調に流れていく。


「あ……」

「どうした、何か忘れたのか」

「いえ……」


あずさは、実家の親や夏子に、こうして送ってもらうことになった話を、

一切していなかったことに気付いた。

それこそ、誰も来ないからと、だらけた格好で、

こたつで居眠りでもしている可能性が高い。

スマホを取り出すと、母親の美佐あてに連絡を入れていく。


「織田って言ったよな」

「エ……」


岳の言葉に、あずさはスマホから視線をあげる。


「宮崎さんに、クラリネットを教えた先輩」

「……はい」

「俺に似ているってそう言っていた」

「……はい」


岳は車線変更をし、さらにスピードをあげていく。


「土地の売り込みメールを見ていて、偶然、母の田舎の土地を見つけたんだ。
昔と今では事情が違うので、ずいぶん価値が変わっていて……」


岳は、この機会に、祖父母の墓に手を合わせようと思ったことを話す。


「たとえ母が亡くなっていても、祖父母なのだから、墓参りは当然なのだろうけれど、
祖父が亡くなった時には、今の母や、敦たちが相原家に入っていて。
『織田の家』を持ち込むのが、どこか悪いなという気持ちがあったのかもしれない」


岳は、今回、あずさを送ることを利用してしまったと、そう話す。


「そうだったのですか」

「地図を見ていたら、宮崎さんの実家と、それほど離れていなかったんだ。
もちろん、腕のヒビの理由もしっかり知って、決めたことでもあるけれど」


あずさは、祖父母の墓参りという事情を聞き、

ほんの少しだけ車を出してもらったことに対する、申し訳なさが消えていく。


「本当に悪かったな……関係がないのに巻き込んで」


岳はそれだけを言うと、『階段から押された』ことについて会話を止めた。



『本当に悪かったな……』



あずさは、岳は全てを知っているのだということが、あらためてわかった。

それでも、同級生であり、おそらくそれなりの付き合いがあった人だからこそ、

あまり、醜いような言葉を、並べたくはないのだろう。

あずさは、地元のジムに残っているはずの雅臣のことを思い出す。

人は悪くなかったし、優しいところもたくさんあった。

過ぎてしまった思い出は、いいものを選んで残しておきたい。


「怪我の効果はすごいですよ。プラモの村田さんが、気にしてくれました。
どうしたんだって」

「村田……あぁ、あのチラシの」

「はい。それまであまり会話が出来なかったのに、
この見た目で、少しだけ話しが出来たんです。
話してあげないとかわいそうだと思われたのかな。
だからマイナスばかりではありません。プラスもありましたよ」


あずさは、村田が昔、トランペット奏者で、

庄吉が『リラクションルーム』に呼んでいた、バンドのメンバーだったことも話す。


「トランペットか」

「はい。だからお誘いしました。私が借りている時間に、
ぜひぜひ吹きに来てくださいって」


あずさは、自分が1週間のうち数回、支払ったスタジオの時間なら、

トランペットを思い切り吹くことが出来ると言い、ストレス発散になりますよと、

嬉しそうに笑う。


「今度は開き直りだな」

「エ?」

「自分が帳尻合わせのために借りていると、今ここで白状した」


岳は運転しながら、そうあずさに言い返す。


「帳尻合わせ……まぁ、そうかもしれませんが、きちんと賃料はお支払いしますから、
問題ないですよね。正式に借りているわけですし。
理由はなんであれ、用途もなんであれ、こうなったら、どんどん開き直ります」


あずさは、今更何を言われても、絶対に譲りませんと言った。

少し口を尖らせたあずさを見て、岳の表情も、やわらいでいく。


「全く……」


二人を乗せた車は、そこからも順調にあずさの実家を目指した。





「あら……」

「あらららら……」


あずさが実家に到着すると、迎えに出てくれた夏子と美佐の視線は、

目の前の岳に釘付けとなった。

あずさは、夏子と美佐が、自分の怪我を心配するかと思っていたのに、

二人はとにかくお茶でもと、岳を居間に案内する。

居間には『橙の家』からすでに戻ってきていた玉子が、

みかんを持ったまま、こたつに入っていた。


「すみません、年末のお忙しいときに。すぐに失礼しますので」

「そんなこと言わずに」

「あのね、夏子さん。岳さんは目的があってこっちに来たの。あんまり無理に……」

「あずさがお世話になっております、祖母の夏子です」

「……母の美佐です」


あずさの言葉など聞く気持ちもなく、二人は並んで、岳に頭を下げる。

玉子も二人の様子を見て、細かい理由はわからないが頭を下げた。

岳は祖父、庄吉が話していた人がこの人なのかと、視線を玉子に向ける。

玉子は背も小さく、置物のようにそこに存在しているが、

顔つきは穏やかで、優しそうな目をしていた。


「相原岳です。今回は、あずささんに仕事中、
怪我をさせるようなことになってしまって、申し訳ありませんでした」


岳は、自分の仕事を手伝ってもらっているときに、

手の骨にヒビが入ってしまったと、頭を下げる。


「いえいえ、元々、落ち着きのない娘ですから。小さい頃から、年中、
体のあちこちに擦り傷や打ち身で」

「そうそう、そうよね」

「骨もアクシデントには慣れているでしょうから、すぐに治りますよ」

「そうそう、治る、治る」


美佐の言葉に、夏子は楽しそうに相槌を入れた。

岳はどう答えたらいいのかわからず、なんとか笑おうとするが、うまくいかない。


「ところで……」


あずさの心配どおり、人寄せの大好きな夏子の話しは絶好調に進む。

お茶だけと話していた岳だったが、

宮崎家を出たのは、到着から3時間後のことだった。





【ももんたのひとりごと】

『宮崎家』

あらためて、あずさの家族を紹介します。
まずは庄吉の永遠の女神、玉子。その娘夏子があずさの祖母になり、
その娘は美佐と妹の聖美となります。ちなみに聖美は広島に嫁いでます
つまり、宮崎家は、3代連続、お婿さんを迎えた家なのです。
さて、『女系家族』、あずさの将来は……いかに。




【18-1】



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