18 兄弟の選択 【18-1】

嵐のような時間が過ぎ、滝枝からのお土産をこたつの上に置くと、

あずさは、玉子と向かい合い、あらためてお茶を飲んだ。

玉子は湯飲みを両手で持ったまま、口を動かしている。


「ねぇ、あずさ」

「何?」


キッチンにいた美佐が、あずさの後ろから声をかける。

急須を手に持ち、居間に入ってきた。


「落ち着いて考えてみたのだけれど、ここまで送ってもらうだなんて、
まさか……あずさ、相原さんのお孫さんと……」

「そうそう、二人で戻ってくるなんてね」


別の場所から戻ってきた夏子は、あずさが岳と結ばれたら、

都内に一軒家が持てるかもしれないと、豪快に笑い出す。


「お母さん、変なことを言わないで。あずさはねぇ……」


美佐は、自分はふざけて聞いているわけではないと、夏子の顔を見る。


「そうだよ夏子さん。本当にお墓参りのついでだってば。
だから引き止めないでって話したのに」

「ついで……」


美佐は、今ひとつ納得がいかないような表情を保ちながら、

あずさと玉子の湯飲みに、お茶を足していく。


「引き止めないでって、それはすぐにさようならとはいかないでしょう。
相原さんに毎日あずさがお世話になっているのだもの。
腕の怪我のことも、本当ならすぐに聞こうと思ったけれど、
あずさからメールで聞いていたでしょ。それを相原さんの前で、深刻に話したら、
向こうが申し訳なく思うじゃない」


美佐は、階段から落ちて、頭は大丈夫だったのかと、あらためて心配してくれる。


「大丈夫」

「本当に? 医者には診てもらったの?」


美佐は急須をこたつの上に置くと、どこを打ったのかとあずさの頭を触りだす。


「あぁ、もう、よく覚えていない。きちんと診てもらったから。
ホテルから救急車で行ったし」

「エ? 救急車」

「うん……」

「気をつけなさいよ」

「うん……」


あずさは、本当は自分のことを心配していたという美佐や夏子の本音を知り、

やはり家族はいいものだと、そう思った。

あずさは、東京に行ってからの3ヶ月間、岳と一緒に行動することがあり、

華やかな場所に行くことが出来たと、

お茶を飲みながら立食パーティーのことなどを話した。


「へぇ……そうなの」


夏子は、今時の人たちはわざわざ立って食事をするのかと、目をまるくする。


「そうなの。なんだろう、みなさんドレスアップして、別世界というのかな」


あずさはそう言いながら、こたつの上にあった小さな羊羹を包み紙から取り出し、

口に入れる。甘さ控えめなどのスイーツがもてはやされるが、

昔からある田舎のお菓子は、『甘さ』の主張が力強い。


「あずさ、お帰り……」


玉子は急にそういうと、みかんでも食べなさいと、かごを押してくれる。


「うん、玉子さん、ありがとう。たくさん食べるよ」


あずさは玉子の気持ちに応えようと、みかんを一つ取り、横に置いた。

玉子は少し疲れたからと、夏子と一緒に奥の部屋の布団に向かう。

あずさは二人が襖の向こうに消えたのを見た後、視線を台所に向ける。

母の美佐は、里芋の皮を包丁で丁寧に剥いていた。

玉子の言葉に相槌を打つ、夏子の声も耳に届く。

あずさは、こたつに入ったままで、家族の色々な行動が確認できると、

ひとりではないことがよくわかった。


「あぁ……うちがやっぱりいい。だらんと出来るのは、ここだけだもの」


あずさの言葉に、美佐は『そうでしょうね』と笑った。





宮崎家を出た岳は、祖父母の家があった埼玉に向かった。

あずさを実家に届け、怪我をさせてしまったことだけを謝罪して、

すぐに出てくるつもりだったのに、

宮崎家の熱すぎる歓迎に、思った以上の時間、気付くと過ごしていた。

古い年賀状の住所を確認し、記憶を頼りに祖父母の墓地を目指す。

地図の距離よりも、実際車を走らせてみたらもっと近いことがわかり、

今度は予想以上に到着が早くなった。

岳は舗装し切れていない砂利道を歩いて、墓地の並ぶ場所に向かう。



『岳……待って、ゆっくり歩いて』



相原の家にあずさが来てから、どういうわけなのか、

亡くなった母を思い出すことが増えた。

庄吉から何度も玉子の話を聞いて、その縁からあずさが家に来たこともわかっていたが、

長い間、利用してこなかった洋室を、使うことになったからなのか、

『母』が自分に残してくれた『クラリネット』という楽器を、あずさも吹くからなのか、

『織田』という『母の旧姓』と同じ名字を持つ人の話を聞いたからなのか、

どれが正解というわけではないが、積み重なるものがどこかにあったのだろう。

長い間、遠ざかっていた場所に、自然と足が向いた。

墓石の名前を見ながら歩いていくと、『織田』のものを見つける。

途中で見つけた店で買った花を、それぞれの花立に入れようとしたが、

そこにはまだ捨ててはいけないくらい綺麗な花が入っていた。

岳は買ってきた花が邪魔にならないよう、別の花立に入れて、そばに置く。

線香など何も用意していなかったので、そのまましゃがむと手をあわせた。



岳の祖父が亡くなったのは、今から15年ほど前のことだった。

すでに相原家には浩美や敦が入ってきていて、

父、武彦は岳にとって、状況は変われども祖父なのだからと、

葬式に参列するように言ってきたが、

母が亡くなってから、『織田家』とあまり交流を持たなかったこともあり、

年齢もちょうど中学から高校に移る微妙な時期だったため、

気恥ずかしさもあったのか、直接、式に出ることはしなかった。

そのため、祖父母が中に入ってから墓参りに来るのは、初めてになる。

岳は立ち上がり、少し斜面になっている祖父母の墓の前から開けている景色を見た。

木々の葉は落ち、木枯らし吹くその景色の中に、昔から変わらず流れ続ける川が、

堂々とした姿を見せてくれた。





『織田酒店』



墓参りを終えた後、岳はぼやけたような記憶に中にある、その店を目指した。

母の実家は、確か墓の近所で酒屋を営んでいたからだ。

『自動販売機』の中に、商品を入れていく仕事を見るのが好きで、

幼い頃、何度かやらせてもらった覚えがある。

岳は車をゆっくり走らせながら、それらしき店を探すが、

見えてくるのは『酒屋』ではないものばかりだった。

だからといって、時代に押されシャッターが閉まったという店もない。

昔に比べて広くなった通りには、大きな駐車場を持つドラッグストアや、

曲がり角には小さな美容室と、コンビニエンスストアがあった。

岳は駐車場に車を止めて、住所が間違っていないのか店員に聞くことにする。

コンビニの店内に入り、レジの場所にいる女性に声をかけた。



【18-2】



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コメント

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ありがとうございます

拍手コメントさん、こんばんは
すみません、お返事が遅れました。

>私も9歳若い時に -----。 月日の経つのは早いこと。
 でも 作品の多さに、感激です。

そうですね、私も9年前と考えたら、子供も小学生でしたから、
若かったなと(笑)
作品が多いのは、ただ、好きだということだけで、
読み直すと『うーん』となりそうなものもありますよ。
それでも、過去作品を読んでくれている方がいる印があると、
それはそれで、嬉しいものです。

『リミット』からのお付き合い、本当にありがとうございます。
咲も亮介も9歳(いや、連載時からするともっとかな)、年を取ったのかもしれません。
これからもぜひぜひ、遊びに来てください。

あらためて『アンケート』について、お願いすると思います。
よろしくお願いします。