18 兄弟の選択 【18-2】

「はい」

「すみません、このあたりに、『織田酒店』というお店は……」

「『織田酒店』……あ、ちょっと待ってください。店長」


レジの女性は、店内で商品を出している男性に声をかけた。

メガネをかけた男性が、『なんでしょう』とレジの前に来る。


「あれ……」


男性はかけていたメガネをずらし、自分の目で岳を見る。

岳は見覚えのある顔に、軽く頭を下げると、自分の名刺を取りだした。

それを受け取った男性は、もう一度岳を見る。


「……岳か」


その男性は、自分は『織田清志(きよし)』だと名乗る。


「やはりそうですか」

「そうだ、そうだ。いやぁ……おい、岳。お前」


岳は、目の前にいるのが亡くなった母、麻絵の1つ違いの弟、清志だとわかり、

あらためて頭を下げた。清志は思いがけない甥の登場に、しわのある顔を、

クシャクシャにする。


「お久しぶりです。コンビニにしたのですね」

「あぁ……時代の流れだよ。元が酒店だろ。酒を売る免許があったからね、
ぜひぜひって言われて。でも、24時間店を開けているから、大変だ」


清志は実家はマンションに建て直して、今は一番上に住んでいると説明する。


「お父さんもお元気か」

「はい」

「毎年、丁寧に年賀状をいただいているよ」

「そうですか」


岳は、仕事で、このあたりの土地が売りに出ていたのを見て、懐かしく感じ、

車を走らせてきたと、そう清志に話す。

清志は、店があるからここを離れられないけれどと言いながら、

岳を事務所の中に入れ、コーヒーを入れると持ってきてくれる。


「すみません、急に来て」

「何言っているんだ。姉さんが亡くなっても、私が叔父であることはかわらないんだ。
遠慮することなんてない」


清志はそういうと、今、コンビニのコーヒーはレベルが高くなっていると、

そう自慢げに語る。


「はい、時々仕事の途中で買いに行きます」

「そうか」


清志はそういうと、何か食べたいものはないかと、岳に言う。


「大丈夫です、昼はもう済ませました」

「そうか、まぁ、この時間ならそうだな」


岳は、ここに来る前、祖父母の墓参りをしてきたと報告する。

清志は、それは二人も嬉しいだろうと、かけていたメガネを机に置いた。


「考えてみたら、きちんとおじいさんたちのお墓に向かうのは、初めてでした」

「そうか……」

「すみません」


岳は、あまりにも長い間、疎遠になっていたと頭を下げる。


「いや、お前にはもう、新しい家族が出来ているのだから、それは気にしなくていい」


清志はそういうと、みなさんもお元気かと聞いてくる。

岳は『はい』と小さく頷いた。


「花を買ってきましたけれど、まだ綺麗な花が入っていたので、
別の入れ物に入れてきました。すみませんが、枯れたら処分してください」


岳は、お墓も綺麗になっていたと、清志に頭を下げる。


「いや、それは俺じゃないよ。それは幸代さんだろ」

「幸代さん」


岳にとって、初めて聞く名前だった。


「岳は知らないのか」


清志にそう言われ。岳は幼い頃の記憶を、必死に呼び起こしてみた。

祖父の面影はあるものの、そう言われてみると、祖母のイメージは確かになかった。

なぜ墓参りをした記憶があるのかも、ぼやけていたが、

その頃すでに『祖母』は亡くなっていた。


「そうですよね、おばあさんは亡くなっていたから、
母と墓参りをした記憶があったわけで……」

「ん? あ……そうだな」


清志は、麻絵と自分の母、岳の祖母が亡くなってから、

祖父は祖母の妹と再婚したことを教えてくれる。

岳は、祖父と話しをするとき一緒にいた女性が、そういえばいたことも思い出す。

しかし、祖母という記憶と混じっていたので、『幸代』の顔など、覚えていない。


「妹……」

「うん。5人兄弟の一番上が俺と姉さんの母親で、幸代さんは一番下の妹だ。
看護士になってね、よく母の面倒も見てくれた。そんな付き合いの中で、
父もまだ若かったから、残りの人生、一人は寂しいと思ったのだろう」


40代後半で最初の妻を亡くした祖父は、その数年後、幸代と再婚した。


「この実家を俺に渡して、父は幸代さんと別の場所に住んだからね。
一人息子が生まれたが、その子が一人前になる前に父が亡くなって、
幸代さんは息子と二人で頑張っていたけれど、その子も……数年前に……」

「子供もですか」

「あぁ……祐は小さい頃から体があまり強くなくて……」

「祐……」

「ん? 岳は祐を知っているか。いや、わからないよな。
幸代さんを覚えていないのだから」


清志は、そういえば生きていたら、27か28くらいだったなと、祐のことを話す。


「織田祐って、あの、その幸代さんは、埼玉に住んでいましたか」

「いや、幸代さんは群馬の病院に再就職して、
そこが祐にとってもいい病院だからと、確か」

岳は自分と祐の思いがけないつながりに驚き、さらにと清志に尋ねた。





『初詣は、3日でどうかな』


敦は涼子からのメールを受け取り、すぐに返信を入れた。

午前中に部屋の掃除を済ませた後、お気に入りの音楽を聴きながら、ベッドで横になる。

のんびりした年末を迎えながら、これから訪れる新しい年のことを、

自分なりに予想した。

父、武彦に異動の相談をしてから、まだ正式な返事をもらったわけではないが、

敦の気持ちは、ほぼ『豆風家』の方に向かっていた。

『翠の家』をさらに発展させ、規模を大きくした『翡翠の家』はホームの下を、

保育園にすることが決定している。介護を職業にしてもらう代わりに、

働く母たちの子供を、ホームで一緒に育てていくことは、お年寄りにとっても、

いい効果のあることだと、そう計画表に書いてあった。

敦は自分が、『豆風家』の組織に入ることが出来たらと想像し、

その近くで働く涼子の顔を想像する。

カレンダーを見ながら、今から3日が待ち遠しいと、そう考えた。



【18-3】



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