18 兄弟の選択 【18-4】

敦がそんな穏やかな時間を過ごしている頃、

千晴はタクシーを降りると、相原家の玄関前に立った。

インターフォンを鳴らすと、滝枝が開けてくれる。


「おめでとうございます」

「おめでとう……」


千晴は、浩美に会いに来たと話し、玄関を入った。

リビングには誰もいない状態だとわかる。


「叔父さんは……留守?」

「旦那様と岳さんは、『青の家』へ」

「あ……そう」


千晴は、岳も留守なのかとそう思いながら、浩美のいる奥の部屋を目指す。

浩美も千晴が来たことに気付いていたのか、扉を開けて待っていた。





「そうか……それなら」

「はい。役員たちとも相談しまして、
この春からでも、敦を『豆風家』の方へ異動させようと思います」


武彦は、庄吉に敦のことを話すため、『青の家』に来た。

岳は隣に座り黙っている。庄吉は岳の『無』に近い表情を見た。


「岳……お前は敦の異動が不満なのか」

「いえ、不満はありません」


庄吉は、『翠の家』から『翡翠の家』の建設が決まり、動き出した今なら、

敦も仕事に十分携わっていけると、そう嬉しそうに話す。


「正式には4月からと思っていますが、この3ヶ月、スタッフたちと関わらせて、
仕事を覚えさせようと」

「そうだな……そうしてくれ」


庄吉は敦ならと、安心したような顔をする。


「浩美さんには……」

「浩美にはまだ正式に話していません。こんな話しが出ていると言ったときには、
戸惑っているところもあるようでしたが、敦自身が望むことだとわかれば、
納得するでしょう」

「そうか、そうしてもらえると、いいけれど」


庄吉は『青の家』から玉子のいる『橙の家』。

そして東京の奥に出来た『翠の家』。さらに『翡翠の家』。

そして他にもある数々の場所を地図で見ながら、建物を目で追っていく。


「私は、介護だと言って、ただ年寄りを箱に入れたらいいと思っているわけではない。
若い頃なら、新しい土地や人にも適応できるだろうが、年を取ると、それが難しくなる。
だからこそ、自分が生きてきた土地や、思い出と一緒に、
余生をゆっくり過ごせる場所があればと、そう思いながら一つずつ形にしてきた」


庄吉の言葉に、武彦は『はい』と頷き、岳は黙ったまま座っていた。





「ねぇ……あのあつくんが、こういうのを気にするとは思わなかった」

「あのって何……気になるだろう、普通」


初詣に出かけた敦と涼子は、二人揃って『おみくじ』を引いた。

おめでたい正月なのに、『小吉』という、どうなのかと判断に迷うものが出てしまい、

敦は中途半端だと、くじを結んでいく。


「これから始まるのだもの。今が最高ですって言われたら、逆に寂しいでしょう」


涼子は、ものは考えようだからと、楽しそうに笑う。


「まぁ、そうかもしれないけれど」


敦は、考えすぎてしまう自分と違い、明るい涼子の笑顔に、気持ちが安らいだ。



「女性?」

「まだハッキリとはわからないの。
でも、敦が数回『青の家』に行っていることがわかって。
会長に会いに行く用があったのかと仕事を見ても、あまり意味がないし。
その日の予定を調べたら、『染物教室』を開いてくれる人たちの来る日だった」


千晴は、情報を得るために、飲みたくもないお酒を飲まないとならないと、

浩美に愚痴を言う。


「女性に会いにだなんて、そんなこと……」

「叔母さん、敦をいくつだと思っているの? 24の男だもの、そんなこと普通でしょ」


千晴は、小学生ではないのだからと笑ってみせる。


「本当に女の人に会うためなの?」

「100%とは言わないけれど、でも他に考えられないもの。会長の提案があって、
『豆風家』の方に敦をと言う話しは、叔父さんにも岳にも伝わっているらしいわよ」

「えぇ……そうみたいね」

「二人とも反対はしないみたい。まぁ、考えてみたら当然よね。
岳にしたら、敦がいないほうがいいんじゃないの? 自分の地位は安泰だし」


千晴の言い方に、浩美は明らかに嫌そうな顔をする。


「叔母さん、きれい事じゃないわよ。岳だったらそれくらい考えるから。
叔父さんにとって、本当の息子は自分だけだと、自信はあるでしょうけれど、
敦と東子は伯母さんの血を引いているでしょ。今現在は、『川井家』の方が、
相原家と近しいわけだし」


千晴は、岳は自分に都合が悪い相手には、

どんな立場の人間でも容赦ないからとそう言った。

浩美は、今日、敦が出かけていることを思い出す。


「そういえば、今日、出かけている」

「誰と」

「わからない」

「わからない? ダメよ。ちゃんと把握しておかないと。敦がどういう立場にいるのか、
腹黒い女なら、それを利用しようとするからね。敦は岳と違って人がいいし……」


千晴は、財産目当てではないかと、そう浩美に話す。


「とにかく調べてみる。ここのところの『青の家』へ行くことが増えてから、
敦自身、急に気持ちを変えてきているのは間違いない。真面目だし優しいから、
妙な女に騙されかねないわよ。間違って子供でも作ってしまったら……」

「千晴……」

「大丈夫。私に任せて」


千晴はそういうと、自身ありげに足を組んで見せた。





『東青山』の駅に到着したあずさは、

怪我をした手の状態でも、特に問題なく『相原家』に戻ることが出来た。

滝枝や東子にお土産を渡し、夕方近くに戻ってきた岳に、

あらためて実家まで送り届けてもらったことの礼をする。


「いや……」


岳は『ついでのようなものだから』と言うと、そのまま部屋に向かった。

東子は、岳の後姿を見ながら、素直に挨拶を受けたらいいのにねと、あずさに言う。

あずさは、そこが岳らしいと思いながら、笑みを浮かべる。


「お帰りなさい。宮崎家のみなさんはお元気でしたか」

「あ……はい」


あずさは、岳より少し遅れて家に入ってきた武彦に挨拶をした後、

『今年もよろしくお願いします』と頭を下げた。





そして、お正月気分の抜けた平日、あずさは病院に向かった。

診察開始を待っていた年配者など、休み明けらしく混雑していたが、

なんとか1時間待ちくらいで名前を呼ばれ、

ヒビの入った箇所が順調に治っていることを教えてもらう。

大げさに見えるギプスが外れたことで、あずさの手が少し自由になった。


「やっぱり手が動かせるのはいいですね」

「そうでしょう」


昼過ぎに『アカデミックスポーツ』に戻ったあずさに、

小原は、まだ無理をしないほうがいいとアドバイスすると、伝票整理を頼んでくる。

あずさはそれを受け取り、ファイルを棚から取り出した。



【18-5】



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