38 男と女の事情 【38-5】

思わぬ事故で建設が止まっていた『岸田』のマンションが、また動き始め、

泰成は新人のまどかを連れて、現場の動きを確認した。

工程表も見直し、担当者も余裕を持たせた。

そのことで、多少の費用のズレが生じることになったが、

2回目のトラブルなど、絶対に起こせないため、上層部からも承認された。

ヘルメットを被り、現場の担当者と打ち合わせをする。

まどかは最上階になる7階の場所に立ち、県境になる川の流れを見た。

自分の田舎とは違い、やはり東京には高い建物が多い。

しかし、目を引くものといえば、それほどなかった。


「朝原」

「はい」


泰成に呼ばれ、まどかは元の場所に戻る。


「石井先輩」

「ん?」

「先輩は、どんなマンションを建てたいと思いますか」


まどかはデザインや場所。こだわりはどんなところにあるのかと、泰成に聞いた。

泰成は、自分の理想が全て入るようなものはなかなか出来ないと笑う。


「そうでしょうか。これだけのものが出来上がっている時代です。
こだわりがないようなものは、受け入れられないと、そう思いますが」


まどかは、自分のアイデアを岳がどう評価するのか、それが気になっていた。

提出してから2週間近くが経過している。


「まぁ、新人の頃は誰でも夢を見るものだ」


泰成はそういうと、本社に戻ろうとまどかに声をかける。


「はい」


まどかはヘルメットを脱ぐと、

現場の担当者たちに『よろしくお願いします』と頭を下げた。





あずさは仕事を終えた後、友華と駅前のコーヒーショップに入り、

耕吉が『BEANS』を嫌っている理由を知ったと、猪熊の話しをした。

友華はそうだったのかと頷き、あずさに『ごめんなさい』と頭を下げる。


「ううん……富田さんがそんなこと」

「でも、宮崎さんが拒絶されるなんて、やっぱりおかしいし」


祖母が亡くなり、自分の味方がいないと思う耕吉が、

意地を張っているのだろうと、友華はそう言った。

あずさは、まだ花が存命中なら、なんとか出来たかもしれないけれどと、

ストローでガムシロップを入れたアイスコーヒーをかき混ぜる。


「おじいちゃん、本当に頑固になったの。
前にも、家の隣の敷地にある駐車場を借りている人と、言いあいになって」


友華は、借主さんの車が廃車になっていたことの報告がないまま、

知り合いの車を預かって停めていたという。


「契約上は、駐車は登録された車の許可なのよ。
もちろん、うちだってたまにお友達が来たのでと言われたら、
ダメとは言わないけれど……。それで文句を言ったら、言い返されて」

「そうなんだ」

「昔かたぎというか、融通性がないというか……。
だからお父さんや叔母さんともうまくいかないの」


友華は、もう年齢も年齢だから、仕方がないけれどと諦めたような笑みを見せる。


「それで、宮崎さんは、いい物件見つかった?」


友華は、あずさの生活が始まらないと心配する。


「それがなかなか難しい。時期もあるから、夏くらいまで待たないとダメかなって」

「そう……」


友華も同じようにストローでアイスコーヒーをかき混ぜる。


「でも、居場所はあるから心配しないで」


あずさは友華に心配させるのも、また筋違いな気がして、精一杯元気に振舞って見せた。





「ただいま」


友華はあずさと別れ、家に戻った。

友華の母、玲子は駐車場の契約者から受け取った書類を、あれこれ束ねている。


「お母さん、これ、温めていいの?」

「うん、ごめんね友華」

「平気だよ、自分でやるから」


友華はそういうとレンジにおかずを入れる。

祖父の世話も、富田家が貸しているアパートや駐車場の契約者とのやり取りも、

この家の息子や娘である父や叔母は何も手伝うことがない。


「お父さんは? 戻ってきているのでしょう」

「戻ってきたけれど、友達に誘われて飲みに出かけてしまったわ」


玲子はそういうと、書類の箱を開け、中に紙を入れる。

風呂からあがった耕吉が、台所に戻ってきた。


「おじいちゃん」

「どうした」

「今日、宮崎さんから『BEANS』の話しを聞いた。猪熊さんのこと」


友華の言葉に、耕吉は露骨に嫌な顔をする。


「やめてくれ、これから飲む酒がまずくなる」

「猪熊さんって人は、おばあちゃんとのことを今でも悔いていて、それからずっと、
アンケートの1枚1枚を大事にしているって」

「お前はあの宮崎とかいうのに、そんなことを言われて来たのか。
この爺さんを口説けと」

「そんなこと宮崎さんは言ってない。とっても『フラワーハイツ』を気に入ってくれて、
借りられないことが残念だと思っているだけ」

「あのアパートは、ばあさんのものだった。私が認めない人間は認めない」

「身勝手なのはおじいちゃんでしょう」

「友華!」


いつもなら黙っている友華の、強い言葉に、

玲子は思わず部屋に行きなさいとそう指示をする。


「わしが身勝手か」

「そうよ。自分がって言いながら、こうして仕事はお母さんにさせている。
お父さんと叔母さんと、子供が2人いるのだから、
あの2人に相談して手伝ってもらえばいいじゃない。お父さんはお父さんで、
家にいたくないから、いつも出歩くし、叔母さんはお金のことしか言わない。
何も言わないで黙っているお母さんだけを使って……ズルイよ」


友華は、いつも黙っていたけれど、ずっと思ってきたことだとそう言った。


「あいつが悪い、こいつが悪いって、おじいちゃんは逆らってこない人に、
ぶつけているだけでしょう。私は、宮崎さんがあのアパートを気に入ってくれたのが、
とても嬉しかったの。彼女はいい人だし、友達にもなれたし……」


友華は自分が健康で、一人暮らしが出来るのなら、こんな家から出て行くとそう言い、

台所から出て行ってしまう。


「友華……」

「辞めなさい玲子さん」

「でも……」

「そのままでいい」


耕吉はそういうと、冷蔵庫から小さな日本酒のカップを取り出し、

自分の部屋に行ってしまう。

玲子はレンジに残されたおかずを出し、思いを爆発させた友華のことを考えた。





【ももんたのひとりごと】

『30歳』

『BEANS』の長男、岳の年齢は30歳という設定です。
大学を卒業し、仕事を始めたとして、やはり男性が仕事にやりがいを感じ始める年齢は、
これくらいかなと思っています。生まれたときから社長の息子という岳ですが、
あずさとの出会いで、見えなかったものが見えるようになってきています。
『柔と剛』。そんなパターンが描けていたら、いいのですが。




【39-1】



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テーマ : 恋愛小説
ジャンル : 小説・文学

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育てた怪獣2匹は、すっかりかわいさを無くしたため、今や『犬愛』に目覚めたお気楽主婦です。日々のちょっとしたこと、趣味で取り組んでいる『創作』を、このブログに書いていきたいと思っています。
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