FC2ブログ

55 最高の演出 【55-1】

「みんなも気にしていた『高岩建設』との件だけれど、デザインの取り下げと、
こちらの持ち込みについての打ち消しとで、納めることになった」


『トラブル』が重なりだしてから、空中に浮いていた状態だった話を、

次の日、岳は『経営企画』に揃うメンバーに向けて、話すことになった。

泰成もまどかも、そしてドラマ撮影が空いたため社内にいる千晴にも、

しっかりと内容が届く。


「何かが起こると、はたしてこれでいいのかと、互いに疑心暗鬼になる。
自分ではない誰かが裏切っているのではと、見なくてもいいものを見ようとしてしまう」


『犯人探し』。

岳はその言葉を使うことなく、表現する。


「うちや『高岩建設』だけでなく、自分の待遇が上がるのならと、
周りを騙して、資料などを持ち出すというトラブルが、
色々な企業で起きていることも事実だ。中には徹底的に管理し、
紙1枚も外には出させないという会社もあると聞いている。
でも、俺はそれをしようとは思わない。締め付けても、やろうと思う人間がいれば、
絶対に防ぐことは不可能だ」


泰成は、岳の話しに小さく頷いていく。


「会社は自分を評価しない。このままではダメだと思うのなら、
これからも仲間の目を盗んで、裏切ることを止めることはしない」


岳の、容認とも取れるセリフに、一瞬部屋の中がざわつきだす。


「でも、これだけは覚えておいた方がいい。うちで結果を出せない人間は、
ライバル企業に行っても、結果を出すことはできないと言うことだ。
一瞬、資料の持ち出しで、喜ばれたとしても、それは仕事の評価ではない。
結局、また次をやらないと立場は保てなくなる」


ウソにウソを重ねることは、『自滅』を意味すると、岳は社員たちを見る。


「それでもいいと思うのなら、今、ここにある資料もデータも、
持ち出していけばいい。俺は、それ以上のものをこれからも生み出す力が、
ここにいるメンバーたちにはあると思っている」


岳はそういうと、これで全てが終わるため、犯人探しなどはしないと、宣言する。

千晴は自分の指に触れながら、『ふぅ』と一度ため息をついた。





「そうだったの」

「うん。ごめんね、何も相談しないうちにドタバタと」

「まぁ、いいけどね」


あずさは、仕事が終わった杏奈と待ち合わせをすると、

近頃起きていたトラブルなどを語ることにした。

覚悟を決めて群馬に戻ったのに、あっという間に帰ってきたことことを話すと、

杏奈は何度も頷いてくれる。


「あずさの捨て身が、相手の心を打ったってことか」

「捨て身というより、もう最初から決まっていたことを知らなくて、
私が一人、慌てたってことなのだけれど」


あずさは『退職願』まで出してしまったと、下を向く。


「いや、でも、その勢いと言うか思いを知ったからこそ、
相手は降参と思ってくれたのでしょう。中途半端に迫っていたら、
気持ちはもっと尖った気がするもの」

「そうかな」

「そうよ。あずさは、あずさなりに頑張った」


杏奈はそういうと、あらためて乾杯とグラスを前に出す。


「うん」


あずさもそれに答えるため、サイダーの入ったグラスを前に出す。


「それなら、次は仕事を探すって事だよね」

「……そこなんだよね」


あずさはグラスを置く。


「求人雑誌を買って、私でも出来そうなことを探すしかないかなと」


こういうときに、自分の武器となるような資格がないのは辛いと、

あずさは苦笑いをする。


「岳さん……だっけ? 何か言わないの?」


杏奈の言葉に、あずさは岳が群馬からの帰りに、

『いい提案』があると言ったことを思い出す。


「へぇ……いい提案? いいじゃない、それに乗れば」

「いいよ、岳さんの回りの仕事なんて、私には絶対に無理だし。
それに、こんなときばかり世話になるのも」

「こんなときって……だって、今回仕事を辞めてまであずさが頑張ったのは、
彼のためでしょう。それくらいわかってくれているだろうし、前のときとは違うのよ。
あずさは立派な彼女なわけだから」


杏奈は、何かをひらめいたのか、急に笑みを浮かべる。


「ねぇ、この際だから。『プロポーズ』して欲しいと、迫ってみたら?」


杏奈はそれがいいと一人で盛り上がり、笑い出す。


「何言っているの。まだ岳さんを知ってからだって、それほど経っていないんだよ。
去年の秋に東京へ来るまで、存在もお互いに知らなかったし」

「知らなかったけれど、知ったら好きになったのでしょう」


杏奈の切り返しに、あずさは数秒黙ってしまうが、そのまま頷き返す。


「あずさみたいなタイプ、きっと岳さんにはめずらしいのよ。
こうなったら一気に決めてもらわないと、変に付き合いを長くしていると、
おもしろさに飽きてきて、『あ、もういいや』って言われるかもしれないし」


杏奈は、どういう意味だと不満そうなあずさの顔を見た後、

『冗談』と言うと、また笑い出す。


「もう、人の人生で遊ばないでよ」


あずさはそういうと、グラスに入っているサイダーに口をつけた。





横浜『青の家』

そこでは武彦が庄吉に、今回のトラブルについての流れを説明していた。

庄吉は、ベッドに座り、報告を黙って聞き続ける。


「岳が自分のまわりにいる社員を集めて、『みんなを信用する』と話したそうです」

「うん」


騒動後、『BEANS』内にいた社員が数人、退職届を出したことも合わせて語る。


「全ての社員が、100%納得するような仕事を与えてやりたいと思うのは山々ですが、
なかなかそうはいきません。希望通りの持ち場にならないものもいますし、
競争に負けて、腐ってしまうこともあるでしょう」


庄吉は『そうだな』と声に出す。


「あの岳が、しっかり周りを見るようになったのかと思うと、
親としても、社長としても嬉しくなります」

「うん……」


庄吉は目を閉じ、嬉しそうに頷いていく。


「お父さん」


武彦の呼びかけに、庄吉は『どうした』と聞き返す。


「いや……実はお父さんが、玉子さんの血を引くあずささんを東京に呼ぶと言った時、
私は息子として、少し複雑でもありました。それほどまでに、玉子さんという存在が、
大きいのかと」


武彦は、母である梅子のことを思い出したと話す。


「でも、今は本当によかったと思っています。岳も、敦も、そして東子も、
あずささんが来てくれてから、本当に変わりました。いえ、私も浩美も、
変わった気がします」

「武彦……」

「はい」

「玉子さんのことは確かに思い出になっているし、境遇を知り、
助けてあげたいと考えていた。しかし、それは梅子にも全て話して、
認めてもらってのことだった。梅子は、本当の婚約者であった私の従兄弟が
戦争で亡くなり、自分が途方にくれた時のことを、覚えているとよく話してくれて。
だからこそ、ご主人を亡くして、一人で生きようとしている玉子さんの、
力になれることはなったほうがいいと、そう言ってくれたんだ」

「はい」

「お前の母、梅子は優しくて、それでいて芯の強い、しっかりとした女性だった。
梅子がいたからこそ、私は仕事にめいっぱい打ち込み『BEANS』を作れたし、
お前も生まれてきた。もっと長く生きて、
こうして一緒に海でも見られたら良かったのにと、今も思うのだよ」


武彦は頷きながら、庄吉の布団を掛けなおす。


「近頃、梅子がよく作ってくれた『高野豆腐』が食べたくてね……」


庄吉は、ここでも出てくるのだが、味がやはり少し違うと、首を横に振る。

武彦は、『そうですか』と頷きながら、少しだけ微笑んだ。



【55-2】



コメント、拍手、ランクポチなど、お待ちしています。(@゚ー゚@)ノヨロシクネ♪

テーマ : 恋愛小説
ジャンル : 小説・文学

コメント

非公開コメント

すみません、遅くて

someさん、こんばんは
すみません、お返事がずいぶん遅くなりました。

>庄吉と武彦のシーン、よかったです。
 息子としては、複雑だろうなと、思っていたところもあって。

あぁ……はい。
母ではない女性との思い出から始まっていますからね。
本筋とはまた別のシーンですが、そう思っていただけて嬉しいです。
最後までぜひぜひ、お付き合いください。
プロフィール

momonta

Author:momonta
育てた怪獣2匹は、すっかりかわいさを無くしたため、今や『犬愛』に目覚めたお気楽主婦です。日々のちょっとしたこと、趣味で取り組んでいる『創作』を、このブログに書いていきたいと思っています。
飲み物片手に、立ち寄ってくださいね。

なお、作品の無断転載やお持ち帰りはご遠慮ください。著作権は放棄していません。お願いします。

発芽室、ただいま連載中!
あなただから、全てを知りたい……
カレンダー
08 | 2018/09 | 10
- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 - - - - - -
カテゴリ
リンク
FC2ブログランキング
小説・文学部門に参加しています。

FC2Blog Ranking

最新コメント
最新記事
いらっしゃいませ!
RSSリンクの表示
アクセスランキング
[ジャンルランキング]
小説・文学
266位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
ロマンス
5位
アクセスランキングを見る>>
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

月別アーカイブ
最新トラックバック