3 視線を感じて 【ビジュー】 ④

3-④


「好き嫌いはありますか」

「特には」

「そうですか。それはよかった。食事の偏りは、健康によくないですしね」


私は『そうですね』と答えながら歩く。

場所、決めてきているのかな。


「海外に行くことが多いので、正直、現地の食材に馴染めないこともあります。
ですから、日本にいる時には、何でも食べないとと思っていたら、
子供の頃には嫌いだったものが、好きになっていました」

「そうなんですか」


上村さんの歩幅、広い。

私は着いていくのが辛くなる。


「上村さん」

「はい」

「あの……もう少し、ゆっくり歩いていただけますか」


男の人は、これだけ歩幅があるのだろうか。

啓太と歩くときには、そんなことを、あまり考えたことがなかったのに。


「あぁ……すみません」


上村さんは、申し訳なさそうに頭を下げ、

それからはゆっくりなペースを作ってくれた。



入ったお店は、落ち着いた雰囲気の和食の店で、注文を済ませると、

あらためて、今日という日が来たことを、嬉しく思えたと、そう言ってもらう。


「もしかしたらダメかなと、思っていたこともあって」

「どうしてですか」

「いえ……僕は気の利いた話しが出来るタイプではなくて。
大学で初めて女性と話すような状態だったので」


上村さんは、中学から男子校に通い続けたため、大学生になり、

まわりに女性がたくさんあふれたことが、驚きだったと笑う。


「そうですか」

「はい……」


『花菱物産』は、圧倒的に男性社員が多いらしい。

それは、海外勤務を命じられるのは、防犯上のこともあり、

男性が便利ということもあるだろうと、教えてもらう。


「日本のように、安定した治安の国は少ないですし」


私はそうかもしれないと頷いていく。

数回行った旅行の前には、必ず『日本と同じ気持ちで行動しないで』と、

添乗員に言われていた。


「これからも海外に行かれることは、あるのですか」

「僕自身は、そう望んでいます。でも、年齢も32になりましたし、
色々と考えなければならないこともありますし」


上村さんの目が、私を見た。

すぐにそらされたけれど、今の視線に、意味があるのだろうか。


「最初に話をした通り、とにかく……うまくないんですよ、色々と」


上村さんは、今日もつまらなかったらすみませんと、頭を下げてくれる。

私は、そんなことはありませんと、言い返した。

男の人ばかりの環境にいて、女性と出会うチャンスも少なくて、

海外勤務は好きだけれど、年齢を考えたら、結婚とか考えたいのかもしれなくて。



……『結婚』?



いやいや、それはないでしょう。

私は気持ちを落ち着かせようと、ワインに口をつける。

向かい合うのは、今日が初めてと言ってもいいくらいなのだ。

考え過ぎるのは、相手にも失礼。

そう……失礼。


このワイン、口当たりは柔らかい。

残った香りも、優しく鼻に抜けていく。


「美味しいですね、これ」

「そうですか、よかった。友人がこの店はいいと、教えてくれたのですが、
果たして中谷さんの好みに合うのかどうか、わからなかったもので」


高校時代、初めて出来た彼との、おっかなビックリのデートを思い出した。

一歩前に出ては、互いに横を向く。

これでいいのだろうかと確かめながら、また一歩前に出て。

肌を合わせたわけではないけれど、手が触れただけで体温が急激に上昇する気分。

上村さんを見ていたら、なんとなく思い出した。


「上村さん」

「はい」

「この間、私って、何か目立つようなことをしていましたか?」


思い切って聞いてみることにした。

私が、どんなふうに見られたのか。


「どうしてですか」

「名刺をいただいた後、上村さんが、最初から私を見てくれたというような、
セリフを言ってくれて……もしかしたら、妙な仕草をしたとか、あったのかなと」


上村さんは『いいえ』と笑いながら否定する。


「一目ぼれだと思います。中谷さんが会場に入ってきた時から、
目が向かってしまって……」



『一目ぼれ』



社交辞令だろうけれど、あまりにもストレートで、なんだか照れる。


「あなたとゆっくり話しが出来たらいいなと、あの飲み会の間、
ずっと思っていました」


決まっている言葉なのかもしれない。でも、悪い気持ちは全くしない。

『出会い』のスタンダードがここにあると、そう思えてくる。

酔いっぱなしで、記憶もないままベッドの中にいるなんて出会いは、

絶対におかしな話なのだ。だから、私はどんどん深い闇に向かっているのかもしれない。


「どんなことに興味があるのかなとか、休みはどんな過ごし方をしているのかなと、
色々……」


互いの時間に興味を持つこと。

私はその通りだと思い、頷いた。

会っていないときに、相手が何をしているのか、どうしているのか、

それが『相手を思う』ということだから。


「上村さんはお休みの日、何を……」

「僕は……」


なんだろう、音楽鑑賞とか、読書だろうか。


「僕は、よく釣りに出かけます」

「……釣り?」

「はい」


上村さんは、休みになると車を運転して、釣りに出かけるのだとそう言った。

私はそこから、海釣りや川釣りについて、聞く事になる。

本物の魚をえさにする場合と、疑似餌を使って釣りをする場合と、それぞれのメリット、

捕れる魚、上村さんの話が、なかなか止まらない。


「で……これくらいの魚を、釣りました」

「これくらい……」


私は自分の手を、上村さんが示した大きさにあわせてみる。

おそらく大きいのだろう。周りの人で、釣りを趣味とする人がいないから、

上村さんの示している大きさが、どれほどのものだかわからない。

でも、嬉しそうな顔はよくわかる。


「あ、いや、もう少し小さいかもしれません。すみません、つい、大きく表現を」


上村さんの両手が、キュッと幅を小さくした。


「こんなものだったかもしれません」


申し訳なさそうにしている姿が、なんだかおかしくて、思わず笑ってしまう。


「正直なのですね、上村さん。私、釣りを全く知りませんから、これくらいって、
手を思い切り広げてくれても、そうなんですかって、信用してしまうのに」


私は両手をさらに広げてみせた。



3-⑤




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育てた怪獣2匹は、すっかりかわいさを無くしたため、今や『犬愛』に目覚めたお気楽主婦です。日々のちょっとしたこと、趣味で取り組んでいる『創作』を、このブログに書いていきたいと思っています。
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