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16 言葉の本質 【クラシック】 ⑤

16-⑤


女の妙な勘……

当たりたくないのに、当たってしまった。



「おはようございます」


目の前に現れたのは、香澄ちゃんだった。

啓太の部屋で、とんでもない状況を見て以来の再会。


「何?」


用事など、あるはずもないだろう。

あなたの思い通り、啓太はその若さの魅力に、尻尾を振ったのだから。


「そういう顔をされるのもわかりますよ、あんな状態の中に飛び込めば、
まぁ、そうでしょう」


何、この子。

まるで他人事のように、言わないで欲しい。


「でも、私には中谷さんにそんな顔をされる理由は、ありませんので」


啓太とどういう関係になろうが、

恋人でもないあなたに文句など言われたくないということだろうか。


「別に、あなたがどういう毎日を送ろうと、私には関係ないから。
彼とあなたとで決めたことでしょう」


『彼』とあいつのことを呼んでやる。


「だからそこです。私と岡野SDには、全くいやらしい関係はありませんから」


香澄ちゃんはそういうと、『ふぅ……』とため息をつく。

ため息なんて、どうしてつかれるのか、全くわからない。


「SDには、仕事で頼まれたので、わざとベッドに入って、
中谷さんが来るのを待っていました。スカートもわざわざ脱ぎ捨てたようにして……」



『仕事』



「仕事? 何よ、それ。じゃぁ、啓太があなたをお金で買ったと、そういうこと?」

「……何怒っているんですか」

「怒っているわけではなくて……」


以前、啓太に聞いた話と同じではないか。

カラオケボックスの店長の家に住まわせてもらう代わりに、『お仕事』をするという。


「冷静に話を聞いてくださいよ」


目の前の女子大生に、怒られる私。


「SDはそんなことをしていません。ただ、あれは仕事として頼まれました。
どうしても、中谷さんがここに来なくなるようにする必要があると、そう言われて」



『私が、来ないように』



香澄ちゃんの話しによると、私がもう一度だけ会って欲しいと頼んだため、

啓太はその日付に合わせて、彼女に芝居を頼んだという。

あんなふうに、どうしようもない場面を見せれば、

私が呆れて、二度とよりつかなくなるだろうと、そういう話だと言う。


「信じられないし、それにもう……」


もう、辛い頃のことなど、思い出したくない。


「信じてくれなくても、それが事実ですから。私は実際、
そうなって欲しいと思っていましたよ。あのまま、中谷さんがいなくなったら、
流れでどうにかなるかなと。でも、SDは全然、見向きもしませんでした。
中谷さんが部屋を出たら、タクシーを呼ぶからすぐに帰ってくれって言うだけで……」


香澄ちゃんは、巻いていたタオルを啓太の目の前で外し、

これでもかと迫った話を、身振りを添えてしてくれる。


「女子大生の裸に近い姿を見せても、
冷静に『悪かった、気をつけて帰れ』ですからね」


香澄ちゃんはそういうと、玄関の壁によりかかる。


啓太が彼女の髪に触れたのも、刺激的なセリフを私の前で言ったのも、

全て演技だったということだろうか。

そんなこと、どうしてしなければならないのだろう。


「そんなこと、あなたも断ればいいじゃない。いくら上司の頼みだからって、
女子大生が、男の部屋で裸になるなんて」

「タオルの下に下着はつけていましたから、実際には裸ではありませんよ。
まぁ、SDには借りがあったので」

「何それ……借り?」

「私、『コレック』に入ってからすぐ、子供が出来ていることがわかって。
でも、相手が前の店長か、その後、世話になった人か、よくわからなくて」


つわりの始まった香澄ちゃんに気付いた啓太が、親に話をしたが、

父親は自分で責任を取れと言っただけで終わり、母親は銀行の袋に入った、

5万円だけを彼女に握らせたという。


「面倒なことをいちいち持ち込むなと言うことでしょう。
それで、SDが動いてくれました。病院とか、その後も色々」


それが、あの最初の鉢合わせにつながるのだという。


「ちゃんとした生活を送ること、自分が監視する範囲から絶対に出ないこと、
その条件で……」


香澄ちゃんにとっては、その出来事が啓太への『借り』になった。


「子供をおろすことがどれほど罪なことか、自分自身を傷つけることか、
散々怒られましたから……」


私は、少し前に自分で『産婦人科』に飛び込んだことを思い出す。

涙を流して、妊婦になったことを喜ぶ人がいる反面、

こうして命を終わらせる人がいるのも事実。


そう、だから、陽平との子供が出来たと知った今の奥さんは、

必死にすがったのだろう。




経験が、そこにあるから。




「SDには、黙っているように言われましたけれど、もうバイトもやめたし……」

「やめたの?」

「大学も辞めましたから。仕事をしっかり探して、一人で生活するつもりです。
思っていたんですよね、大学に通っている時間がもったいないなと」


香澄ちゃんはそういうと、私を見る。


「あ、そうだ、中谷さん、SDに病気があるのではって、気にしてましたよね」



『病気』のこと。

そう、確かにそうだった。

なんとなくつながった記憶が気になり、必死に啓太のところで言った。



『ウソ』だなんて思わずに。



「あれ、ウソかどうか、わからないですよ」

「エ……」

「私、あの後、中谷さんが帰ってから聞いたんです。
SDは中谷さんのこと、そんなふうに騙してたんですかって」


香澄ちゃんは、その対応は啓太らしくないと思い、問いただしたという。


「そうしたら、いいから、お前はあれこれ考えるなって……」


啓太は香澄ちゃんにそう言った後、

私が返した鍵を見つめながら、全ての力が抜けたように座り込んでいたという。


「本当に騙して、思い通りになったというのなら、
あんなふうに、完全脱力しないと思うんですよね」



わからない……

彼女が話している内容が、わからないわけじゃない。

どうして、啓太がそんなことまでしたのかがわからないのだ。

私と別れたいというのなら、普通に別れを切り出せば済むことで、

妙な芝居も、どうしようもないような設定も、必要なかったはず。


「どうして今……」


心の奥から、言葉が出て行ってしまった。あの日から、何日経っているだろう。


「まぁ、そうですけれど。私、顔に出ちゃうので、
SDと仕事の付き合いがある間は、約束守らないとと思っていて。
でも、新しい生活を始めるのに、気持ちに引っかかっているものがあるのは、
嫌じゃないですか……」


香澄ちゃんは、私の顔をのぞき込むように見る。


「すみません、人生経験まだまだ浅い私なので、許してください。
これでスッキリしました」


香澄ちゃんはそういうと、眉村先生の作品が大好きで、よくダウンロードしていますと、

最後の最後に、ポイントをあげるようなセリフを付け足してくる。


「何、それ」

「いえいえ、それが今時の女子大生……あ、もうやめましたけど」


香澄ちゃんは、最後まであっけらかんとした姿を見せ、

私に手を振りながら消えていった。



17-①

《プレラブ プチ知識 タイトル写真》

16 【クラシック】

★カクテル言葉は『言葉の本質』

材料はブランデー 3/6、オレンジキュラソー 1/6、マラスキーノ 1/6、レモンジュース 1/6





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育てた怪獣2匹は、すっかりかわいさを無くしたため、今や『犬愛』に目覚めたお気楽主婦です。日々のちょっとしたこと、趣味で取り組んでいる『創作』を、このブログに書いていきたいと思っています。
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