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17 優しいウソ 【カーディナル】 ①

17 優しいウソ
17-①


『細川香澄』

あの子は、スッキリ出来たのかもしれない。

でも、あの日のことを聞いてしまった私は、

スッキリどころか、また、どんよりした雲の下に入り込んでしまう。


出来たら、今更聞きたくなかった。

啓太の苦しい姿など……



知りたくなかった。



私は一歩ずつ階段を上がり、編集部へ戻っていく。

どういう意図だったのか、なぜそんなことをするのか、

聞きに行くことも出来ない今、私のこの気持ちは、

心の中で不定期な動きを見せるだけなのだろうか。



それでも、『病気』というキーワードがウソではないのだとしたら……



このまま背を向けて、私は後悔することがないだろうか。

あの時と、あとから……



『園田亜矢子』



そうだ……園田さん。

彼女に、啓太の体を気にしてもらえばいい。

私が確認することばかり考えていたから、行き止まりのような気持ちになったけれど、

彼女に、情報を流しておけば、話題の中に出せるかもしれない。



いや、むしろ、もう、知っていることがあるかもしれない。



私は、早川先生のところに持っていく書類をまとめ、編集部を出た。





早川先生は、家族と昔からのスタッフで、会社を経営している。

今や漫画を書くよりも、テレビや雑誌の取材の方が多い。

インターフォンを鳴らすと、すぐに扉が開き、スタッフが挨拶をしてくれる。


「すみません、中谷です」


中に通されると、先生は取材先から、もうすぐ戻りますとそう言われた。


グリーンのソファー。

そう、昔から早川先生のラッキーカラーはグリーンだった。

グリーンの灰皿、グリーンの扇風機、

私が新人に近かった頃、ここへ来て、驚いたことを思い出す。

才能があり、地位も認められた人でさえ、運を掴む努力をおこたらないのだ。

出されたお茶に口をつけ、少し空いてしまった時間を、どう埋めようかと手帳を開く。

何もない白い紙を見ていると、私の手が、勝手に『病気』の文字を入れていた。

啓太に病気があったという言葉を、思い出したのだから、

その前にどうだったのか、私はあの日の出来事を、頭の中で整理していく。



最初は、陽平に振られ、腹を立てていただけで、何も意識せずに入った。

それが『ブルーストーン』。

数名いた客の中で、啓太の姿は、私の目にすぐ飛び込んできた。

陽平とは全く違うスタイルだったこともあるし、そう、一番大きかったのが、

前に座っていた女性に言われっぱなしになっているのに、何も言い返さず、

とにかく黙っていて、お酒さえ全く減らなかったことだ。


メモの上の方に、『減らないお酒』書いて行く。


前に座っていたのは、啓太の彼女だった。

だから、その人がいなくなった後、私は酔っ払った状態で啓太の前に座り、

『どうしてお酒を飲まないのだ』と、なぜか強気に訴えた。

そこからバーテンさんが言うように、私が大泣きすることにつながっていくのだが……

私が、お酒を飲むように迫ったとき、啓太は言われたとおりに飲むようなことはせずに、

きっと、ほっといてくれくらい、言ったのかもしれない。

自分は自分だと、しっかりした信念がある人だから。

私はその後、自分が振られたことを啓太に語った。

相手が他の女に子供を作って、自分を捨てたという話を、啓太にもあてはめ、

『あなたも他の女性に……と』詰め寄ったことも思い出した。

私は、思い出したことを忘れないよう、メモに書き記していく。

その時、啓太は確かに『逆』という言葉を口にしていた。

何に対して逆なのかと、散々考えていたけれど……

子供を作ったことに逆だと言うのならば、啓太を責めていた女性が、

他の男と子供を作ったということだろうか。



でも、その状況で、威張れる女がこの世にいるとは思えないが……



「中谷さん、久しぶりだね」

「あ……先生」


早川先生が取材先から戻り、私はその場で手帳を閉じた。





吉田さんが言っていた話しは、あっさり早川先生にも受け入れられた。

ということで、新人賞は、園田さんがもらうことになる。

他にも色々と賞はあり、おそらく売り上げを考えても、

眉村先生になにかしらいくことは間違いないだろう。

私は早川先生の会社を出たあと、編集部で調べてきた園田さんの携帯番号を見る。

いつも、眉村先生のところに行っていたので、園田さんの携帯は知らなかった。

しかし、今日の話しは、眉村先生には一切関係がない。



岡野啓太という男を間に挟んで、

切り捨てられた女が、心を整理するために会うだけのこと。



呼び出し音が数回鳴るが、なかなか出てくれない。

知らない番号だと思われているのかもしれない。

それならばメールでと思った瞬間、『はい』と声がした。


「あの……中谷です」


どこのなどと言わなくても、これでわかって欲しい。

園田さんは、すぐに『はい』と返事をしてくれる。


「お話ししたいことがあって、お電話しました、すみません」

『いいえ……』


声のトーンは、以前と変わらない。


「眉村先生の職場ではなくて、お会いできませんか」


私は啓太のことで、話がありますとそう園田さんに告げる。

園田さんは『わかりました』と、事務的に返事をしてくれた。

そこから、以前会った駅前の喫茶店が候補にあがり、

私のお願いで、これから1時間後に、再会を設定してもらった。

ここからなら、30分もお店に行くまでかからないことはわかっている。

私は、先に席につき、園田さんを迎えるつもりだった。



駅に降り、店に入ると、空いているテーブルに座る。

カフェオレを注文し、早川先生に会うまで書いていたメモを出した。


彼女に、何を言われても、黙っていなければならなかった啓太。

それが『病気』というキーワードにつながるのかもしれない。

私との未来を考えないと言った啓太の決意は、迷いもぶれもなく、

いつもストレートだった。

それは、あの店で怒っていた彼女とも、未来が見られなかったという

経験から出ていたものなのか。



『病気』って……



カランと店の扉が開き、園田さんが現れた。



17-②




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テーマ : 恋愛小説
ジャンル : 小説・文学

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育てた怪獣2匹は、すっかりかわいさを無くしたため、今や『犬愛』に目覚めたお気楽主婦です。日々のちょっとしたこと、趣味で取り組んでいる『創作』を、このブログに書いていきたいと思っています。
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