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17 優しいウソ 【カーディナル】 ②

17-②


私は席を立ち、彼女に一礼する。

園田さんは席に座り、私と同じように『カフェオレ』を注文した。

呼んだのは、私。話を切り出さないと。


「お仕事で忙しいのに、ごめんなさい」

「いえ、アシスタントの方は、若い子もいるので」


園田さんが私を見る目、申し訳なさなどどこにもない。


「あの……実は……」


啓太と呼ぼうとしたが、それはやめることにする。


「岡野さんのことなんです。私、知り合ったときに、酔っていたので、
あんまり記憶がなかったのですが、少しずつ思い出すことがあって……
実は、彼が『病気』を持っているのではないかと、過去の会話の中で気付いて。
前に、どうなのかと聞いたのですが、まぁ、まともには相手をしてくれなくて」


女子大生に芝居をさせ、最低の言葉を浴びせてきた。


「腹が立ったので、忘れたことにしようとも思ったのですが、
やはり、病気という言葉を知っていて黙っているのも、自分自身、
人として苦しくて……それで、園田さんに……」

「……私に」

「えぇ……園田さんなら、今の岡野さんに、体の具合がどうなのか、
心配してあげることが出来るのではないかと思って」


啓太と付き合い始めましたと、面と向かって言われたわけではない。

あくまでも私が、状況証拠でそう思っているだけ。

でも、今、糸を手繰り寄せられるとしたら、園田さんしか思い浮かばない。


「啓太さんの……病名とかは」

「すみません、それはわかりません。その日に話してくれていたのか、いなかったのか、
記憶が戻っていなくて。でも、彼が辛そうな状態だったことは覚えています。
だから……」


私が前向きになるために、お酒を飲んで欲しいと頼んだのは、

一緒に啓太にも、前向きになってほしいと、願ったから……


園田さんは、そこまで聞くと、『カフェオレ』に口をつける。

以前から、冷静でおとなしい人だったけれど、『好意のある人』が、

病気を持っているかもしれないという話を、聞いているにしては落ち着いている。


「もしかしたら園田さんは、もう、病気のことを彼から聞いているとか……」


啓太が園田さんには、話をしていることがあるだろうか。

園田さんは、下向きだったが、表情に少し笑みがある気がする。


「大丈夫よ、中谷さん。私は……それなりにわかっているから」



『わかっている……』



あなたが知らない、知らせてもらえていないことを、

私はちゃんと知っているという、心の余裕。


「そうですか……」

「はい……」


『はい』という短い返事。でも、その短さが全てを語る。

そうなんだ。園田さんは、ちゃんと啓太から聞いているんだ。


「中谷さんが心配していたと、伝えておくわね……」

「あぁ、えっと、いえ、いいです。そうだったんですね。それなら……安心しました」


そう、本当に安心した。

これだけ余裕を見せてくれるのなら、何かあったとしても、大丈夫だろう。

啓太も、新しい恋を迎え入れている。



私など、もう必要ない日々を送っていた。



『伝えておくわね……』



園田さんに対する悔しさがないとは言えない。

でも、良かったと思えたのは、安心したと思えたのは、本心だ。

私は『カフェオレ』を飲みほすと、

園田さんにお時間をありがとうございましたと頭を下げ、店を出た。



『わかっている……』



電車に揺られながらも、ずっとこの言葉が頭を回っていた。

園田さんは、私が思っていたよりも、啓太との距離を詰めていたのだ。

『その時』を求め合うような、単純な間柄の私と違い、

『苦しさ』さえも、分かち合えるような……


安心と、悔しさと、そして、この説明できないような気持ちはなんだろう。

私は外の景色を見ることを辞めて、車内刷りの宣伝文句を、ひとつずつ読み始めた。





上村さんが出張から戻ってきた。

3県をめぐり、色々と地方の企業と交渉を終えたという。


「これが明太子、これは焼酎、それと……」


テーブルの上に並ぶのは、私への九州土産。


「仕事で行ったのだから、こんなこと必要ないのに」

「ん? でも、何がいいかなとお土産物の店を見るくらいしか、
夜は時間がつぶせないんだよ。これでも、今回は上司と一緒で、緊張していたしね」

「そうなんだ」


帰ってきたら、家でゆっくり会いたいと言われ、

私は仕事を終えてから、彼のマンションに向かった。

出張から戻り、会社に報告をしたため、明日は休暇だと言う。

上村さんが、私と並んでいたソファーの空間を詰めるようにする。

自然と腰に手が回り、少しだけ体が彼の方に傾いていく。


「長かった……毎日が」

「うん」


それは私も一緒だった。帰ってきたら、美味しいものを作ろうと、

編集部で料理の本を読んだり、出かけ先の書店で数冊買い込んで来た。

互いに見つめあい、ゆっくりと唇が触れていく。

上村さんの手が、私の太ももに動いた。

じんわりとしたぬくもりが、脚から全身に回り出す。


「ねぇ……もう、さん付けはよそう。名前で呼んで欲しいんだ」


『上村さん』と遠慮がちな『未央さん』からの卒業。

私はその通りだと思い、小さく頷く。


「それなら……未央って呼んで」


ため息混じりの言葉が、私の口からも落ちていく。


「未央……」


『さん』がつかないというだけで、気持ちはさらに高まった。

きっと、彼も同じはず。


「悠……」


その声に応えるため、悠の手が、私の胸元に伸び、服の上から優しく触れていく。

唇は何度も奪われるのに、その先へはゆっくりとした速度が続き、

私はまだ、日常の姿に、自分を包んだままだ。

悠のキスがじれったくなり、私は唇から耳へ、そして首筋にキスを落とす。

もっと奥に触れてほしいなど、言わせないで欲しいから……



あなたに、求められたいのだから。



悠は私を見た後、鼻先に軽く口付け、ボタンを外してくれた。



17-③




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テーマ : 恋愛小説
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育てた怪獣2匹は、すっかりかわいさを無くしたため、今や『犬愛』に目覚めたお気楽主婦です。日々のちょっとしたこと、趣味で取り組んでいる『創作』を、このブログに書いていきたいと思っています。
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なお、作品の無断転載やお持ち帰りはご遠慮ください。著作権は放棄していません。お願いします。

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