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17 優しいウソ 【カーディナル】 ④

17-④


啓太が、あの時、『逆』だと言っていた意味が、今、記憶の奥から出てきてしまう。

そうだった。

子供が出来たのかという問いに、啓太が『逆』という言葉を使ったのは、



自分には子供が望めないという……

切ない、切ない話の……



私は、その話を聞き、たまらなくなって泣いたのだ。

彼女は、なぜだか啓太を責め、一生二人で我慢していく生活は望まないと、

別れを告げに来た。

啓太は病気の治療で、身体の不調があり……



それを受け入れられないと言った彼女が、一方的に責め立てていたというのが、

あの日の出来事。



『ひとりになってはだめだ』というのは、啓太に対して……

『前向きに』という言葉は、『俺の人生には、もう必要ないんだよ』とそう言った……

そう……啓太を心配して、出たセリフ。

タクシーに一人だけ乗せられたとき、扉の向こうにいた啓太を私自身が引っ張った。

あなたが下を向いていてはダメだと。



思い出した……



啓太は私が酔っていた状態を利用して、騙したわけではなかった。

『病気』というキーワードは、ウソではなくて……



あの日、私……



啓太の辛くて苦しい思いを聞き、

私……涙が枯れるくらい、泣き続けた……

啓太が困って、目の前の私をどうしたらいいのか、わからなくなるくらい。





「未央!」

「あ……」

「何? 急に魂が抜けたみたいに」

「あ、ごめん」


なぜ、今、思い出したのだろう。

あれだけ考えても、かけらが出てこなかった日もあったし、

啓太のウソを、醜いほどの演技を、真剣に受け止め、新しい日々を踏み出したのに。



どうして、今、これほどまで鮮明に、思い出してしまったのだろう。



「未央……」


ひとみは心配そうに私を見つめ、何があったのかと聞いてくれた。

私は、『大丈夫』と『ごめんね』の言葉を繰り返す。

全てを語ってしまえば楽になるのかもしれないが、啓太のことを思うと、

語ることが罪ではないかと思えてしまう。


「ごめんね、ひとみ。少し時間をもらってもいい? きちんと整理が出来たら、
話をするから」


普通なら、どういうことよと頬を膨らませるくらいな言い方だけれど、

付き合いが長く、互いに気持ちを分かり合える間柄。

ひとみは、『わかった』とすぐに引き下がってくれる。


「前に、思い出したいことがあるって、言っていたでしょう」

「うん」

「思い出して、いいことあった?」


ひとみの言葉に、肯定も否定も出来なかった。

思い出そうとしたことで、啓太との関係は崩れてしまったが、

その先に、悠との日々がある。


「過去は過去なんだからね。目の前のことを、ちゃんと追いかけないとダメだよ」

「うん」

「後ろばかり向いていたら、前が行き止まりになってしまうかもしれないし」


ひとみの言葉に、ただ頷いていく。

話をしていないのに、話をした後のように、気持ちが通じている気がする。


「私は、いつでも未央の味方! だからね」


私は『ありがとう』とひとみに言うと、

お腹の赤ちゃんに向かっても、『ありがとうね』とお礼を言った。





部屋に戻り、とりあえずテレビをつける。

誰かが動いていて、音を出してくれていたらそれでよかったので、

知らない若手の芸人が、コントをしている画像を画面に映した。

携帯を開くと、いつものように悠からメールが届いている。

何気ない内容だけれど、悠も一日無事に過ごせたのだと、ほっとした。



メールの一覧。

全て読み終えているけれど、指を動かし、スクロールさせていく。



啓太



メールをマメにくれる悠に比べたら、回数も少ないけれど、

それでも、『待っている』とか『寄りなよ』という言葉に、

何度も気持ちのピンチを救われた。

あの場所があるというだけで、どんなに面倒な仕事も、大変なスケジュールも、

こなすことが出来た。



その時、ひとみに言われたことを思い出す。



過去を振り返っていたら、今も見えなくなって、いきどまりになってしまう。


私は携帯を閉じ、テーブルに置く。


園田さんと再会した日、啓太の『病気』というキーワードを出したら、

彼女は慌てることなく、『わかっている』という態度を見せた。

園田さんは、啓太より年上の35歳。

未来を考えて欲しい、結婚して、子供が欲しいなどと、

あの日、『ブルーストーン』で、泣いて受け止めた話を忘れ、

自分の思いだけを訴えた私とは違い、彼女は、そんな未来を望まないのかもしれない。



ただ、啓太がそこにいれば……

日々、求め合えていることを感じられたら、満足だと言える間柄。



きっと、そうなのだろう。



もう、振り返るのはやめよう。

啓太は私を遠ざけるために、ここまで突っ張ってくれたのだ。

過去を思い出そうとする私に、そんな無駄なことをするなと教えてくれた。



私は、新しい日々を歩き出した。



その時間を大切にしなければ……



それでも、人は思い出を身体に残すのか、今でも目を閉じると、

啓太の息づかいを思い出せる。

でも、それはだんだんと、悠だけのものに変わっていくだろう。

優しい言葉と、穏やかな時間の中で、これが私の未来だと、堂々と言える日が来るはず。

私はその日の化粧をコットンで落としながら、こぼれ落ちそうになる涙を、

一緒に拭き取った。



17-⑤




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テーマ : 恋愛小説
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育てた怪獣2匹は、すっかりかわいさを無くしたため、今や『犬愛』に目覚めたお気楽主婦です。日々のちょっとしたこと、趣味で取り組んでいる『創作』を、このブログに書いていきたいと思っています。
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