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17 優しいウソ 【カーディナル】 ⑤

17-⑤


今日は日曜日。悠の休みでもあったため、二人で出かけることにする。

行きたい場所はと聞かれて、私が答えたのは『水族館』。

水の中を動き回る魚たちを見ていると、海はとんでもなく広くて、

私が生きている場所は、とっても小さく思えてくる。

そんな世界観に浸れることが好き。


「あ……見て、悠。ほら……泳いでる」

「未央、水族館なんだから、泳いでいるのは当たり前だろう」


そうだった。私が歩くのと同じように、魚は水の中で泳ぐのだ。

それでも、普段なら見ることが出来ないような、大群。

うろこがキラキラと光り、目の前を通り過ぎたかと思うと、体の向きを変えて、

またキラリと光る。


「あんな大きな魚が下にいるのに、上の魚たち、食べられないのかしら」

「体が大きくても魚を食べるとは限らないんだよ。プランクトンとか、
水草のようなものだけを食べている魚もいるし」

「へぇ……」


そう、悠の趣味は釣り。

さすがに魚の事に関しては、色々と詳しかった。

最初は、くだらない私の素人質問をぶつけていたが、

それが悠の知識ボタンを押してしまったのか、いつの間にか、海洋学のような、

授業がスタートする。

魚類の進化だの、海水温と潮の流れ、海の深さ。

大きな水槽の下には、『水族館』側が説明を書いてくれたボードがあるのだけれど、

悠にとってみると、それは全然足りないようで。


「あ……ストップ!」


私の頭の中から、『待って』の信号が出たため、慌てて両手を前に出す。

悠はボードに触れていた手を外し、こっちを見た。


「どうした」

「もういい……これ以上悠の話しを聞いていても、頭に入らない」

「ん?」

「私は綺麗な魚が泳ぐのを見に来たの。その他の知識はだいたいでOK」


知り合った頃の私なら、悠がどう思うかを気にして、わからない用語もそのまま、

ただ、頷きながら聞いていただろう。途中から、もういいのになと、

ため息などつきながら。

でも、今は違う。

私たちは、もっと心を見せ合える間柄なのだ。


「ごめん、未央」

「謝ることはないって」

「いや、そうだよな。こんなこと言っていたら、楽しいものも楽しくない。
ついさ、僕が好きな海とか、魚とか、そういう分野だったので……うん」


悠は私が予想した以上に、反省をしてしまった。

これはまたこれで、私の方が申し訳なくなる。


「そんなにへこまないでよ。まだ半分しか見ていないのに」


私は『アシカショー』の席を取りに行こうと、悠の腕をつかむ。

悠はそうだねと言いながら、最後にひとつと、『おさかな豆知識』を教えてくれた。

日曜日だったため、会場は満員状態。

アシカも頑張って、ボールを飛ばしたり、輪をくぐってくれる。

そのたびに大きな拍手が起こり、そして水しぶきが飛ぶ。


「見て、前の子たち、びしょびしょ」

「うん……」


その後、少し時間をずらしテラスで昼食を取る。

デッキから下をのぞくと、今見ていた魚たちが本来なら泳いでいる『海』があった。

潮の香りが、風に乗って運ばれてくる。


「外国の海の色は、場所によって違うものだよ」

「あぁ……そうよね。テレビとかでも見たことがある」

「水の硬さもそもそも日本とヨーロッパでは違うように、環境の違いで、
プランクトンの状態も変わるからさ。もっと緑に近いところもあるし、
青が深いところもある」


こんなとき、悠が世界のあちこちに行っていることを実感する。


「すごいね……悠は」

「何、急に」

「だって、私が知らないことをいっぱい知っているでしょう。
そもそも日本国内だって、私は、数県しか訪れたことがないんだもの」


『花菱物産』は、全国にいくつも支店がある。

さらに、『花菱グループ』ということになれば、業種もさらに広がっていく。


「意外にさ、遠くはわかるけれど、近くがわからなかったりして、驚くこともあるよ」

「近く?」


悠は、コンビニのレジが変わり、電子マネーをどう提示したらわからなくなったことや、

レンタルショップで、空箱ばかりが置いてあって、中身がないのですがと、

聞いてしまったこともあると話し出す。


「ウソ……やだ、何それ」

「何それって……そういうこと」


悠にも、そんなところがあるのだとわかり、なんだか嬉しくなった。

完璧で、とにかく優しくて、欠点らしきところが私には何も見えてこない。



あまりにもいい人で、あまりにも優しい人で……



このままでいいのかと、思ってしまうことがあるから。



こんな私で、いいのだろうかと……



そろそろ帰ろうかと話し合って『水族館』を出たのは、夕方の5時ごろだった。

二人で駐車場に向かい、停めてあった車に乗る。

少し車を走らせると、夕焼けに染まっていく水平線を一緒に見た。

砂浜の上を、散歩するのが嬉しいのか、飛び跳ねている犬の姿が、遠くに見える。


「このまま、この景色を見ながら、眠れそうな気がする」

「いいよ、寝ていても」

「ウソよ、悪いもの、悠が運転しているのに、隣で寝ているのは」


家の前まで車で迎えに来てもらったのだから、それはさすがに……


「未央のいびき、聞こえるかな……」

「エ? いびき? ウソ、私、いびきなんてかいている?」


寝ている自分のことなど、自分ではわからない。

私は車のハンドルに顔を伏せ、笑っている悠の背中を軽く叩く。

二人で抱きしめあった後、寝ている私は、悠の横でいびきをかいているのだろうか。

今まで、鼻が悪いと言われたことはないけれど。


「ねぇ……」

「何慌てているんだよ、ウソだって。寝息はあるけれど、いびきはないよ」


悠はそういうと、私の頬から、耳、そして髪の毛へと手を進めていく。


「ウソなの?」

「あぁ……」


少しだけ悠の腕に押され、私は顔を運転席側に近づけた。

夕焼けにバッチリと見られながら、軽く下唇に触れた悠のキス。

すぐに離れてしまったのが寂しくて顔をあげると、今度は舌先がからみつく。

暖かい光りの中で、私たちは無言の数分間を過ごした。



18-①

《プレラブ プチ知識 タイトル写真》

17 【カーディナル】

★カクテル言葉は『優しいウソ』

材料は赤ワイン 3/4、クレームドカシス 1/4





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テーマ : 恋愛小説
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育てた怪獣2匹は、すっかりかわいさを無くしたため、今や『犬愛』に目覚めたお気楽主婦です。日々のちょっとしたこと、趣味で取り組んでいる『創作』を、このブログに書いていきたいと思っています。
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