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18 思いを君に 【キャロル】 ③

18-③


悠の腕に抱かれながら、私は余韻の中に自分を漂わせる。

また明日から、仕事を頑張っていこうと、小さな勇気も出た。


「未央……」

「何?」


横にいる悠の声に、顔をあげる。


「来週、大阪に出張なんだ。全部で5日。その後、愛知から両親が来る」


悠の実家は、愛知県にある。

ご両親は二人とも愛知出身、悠は大学から東京に出てきた。


「父の大学の同級生が、『瀬賀総合病院』の院長を退職することになって。
そのパーティーに出席するんだ」

「『瀬賀総合病院』」

「うん」


『瀬賀総合病院』は、確か脳外科の有名な病院だ。

名前の知られた政治家も、入院していたニュースを見たことがある。

その院長先生と、悠のお父さんが大学の同級生だと聞き、

どういうわけだか身構えてしまう。


「未央のこと、話そうと思う」


悠は、今回、両親と会ってくれと言うわけではないよと、私を見る。

私は、『そうだよね』と頷いた。

私の年齢は28。そして、悠の年齢は33。

東京に来る親に話してくれるというのは、これから未来に向かって、

二人が進みますと悠が考えているからこそ、出てくる言葉なのだろう。

こうした時間は、ただの流れではないとそう言ってくれているのだから、

喜ぶべきところなのだけれど、私は戸惑いの気持ちが大きくなってしまう。



まだ、早いのではないかと……

この唇で言いそうになってしまう。



『付き合っている人がいる』



私は、陽平の時も、啓太の時も、親に話をしたことはなかった。

父親が厳しく、結婚前に男の人の部屋に泊まったりしていることを、

認めてもらえるとも思えなかったため、言い出すことが出来なかった。

女と男だから、悠は違うのかもしれないが。

まだ、始まって数ヶ月で、いいのだろうかと考えてしまう。



そう、『花菱物産』の人たちと、飲み会をしたのは、1年前のこと。

悠とこうして過ごすようになったのは、桜が咲いて散る頃だった。



「未央」

「何?」

「驚かれたのかな、今の反応は」


私は、そんなことと言おうとしたが、正直に頷いてしまった。

妙な言い方をするより、気持ちをわかってもらった方がいい。


「早いと思うってこと?」

「ごめんね、私自身、まだ親に話そうとか思えなくて……。うち、父親が厳しいの。
今時と思うでしょうけれど、こんなふうに悠の部屋で過ごしていることなんて話したら、
雷なんてものじゃなくて」


『婚前交渉』などと、時代遅れの言葉を、使ってくる。


「それはいいんだ、男と女は違うよ。未央にとったらさ、まだ数ヶ月なのにと、
思うかもしれない。でも、僕は……」


悠の身体が私の方に向く。


「君と会った日から、ずっと片思いをしてきたんだ。それがこうして叶って、
今、ここにいる。だから1年、そう……1年、気持ちを決めてきているんだよ」


悠の唇が、私のおでこに触れる。


「悠……」

「未央を思い続けていたから……幸せな時間の中で、1秒も止まっていたくはない」



人は、人生のどこかで、必ず『決断』をするのだろう。

大学受験、就職、そして結婚。

私は今、『決断』の日を迎えているのだろうか。



「いい? 話をして」



断る理由など、どこにもない。

私は彼を求め、そして求められている。

今ほど、激しく密な関係が、ずっと続くことはないかもしれないが、

長い間、そう、一生……

この人なら、手をつないでいけると、そう思えるのは間違いない。


「悠……」

「ん?」

「あなたのその、まっすぐな思いが、時々、怖くなるの」

「……怖い?」

「私が、あなたに似合っているのかどうか、怖くなる」


私はそういうと、悠の首に手を回した。

『愛している』ということを、もっと私に見せて欲しい。

これから、どんなことがあっても、何が起こっても、

あなたを信じ、見つめていればいいのだと、そう思わせて欲しい。

私の不安を知った悠は、いつもよりもゆっくりと、そして優しく私に触れていく。

小さなろうそくの火を身体につけ続け、そしてそのたびに、

自分の心の中に、『大丈夫だよ』という、セリフが浮かんでいく。



小さな炎は、だんだんと大きな熱になり……



身体が悠の動きに熱くなり、触れられている嬉しさより、

受け止める嬉しさを、また味わいたくなる。


「悠……」


私の抜けるような声に、悠はさまよっていた唇を戻してくれる。


「未央……僕を信じて」


悠はその言葉を合図に、ゆっくりと時を動かし始めた。





悠が、話していた大阪の出張に出発した。

それからご両親が来ることもあり、10日くらいは会うことが出来ない。

いざとなったら、未央のマンションに逃げ込むよと笑っていたが、

悠ならば、そんなことにならないだろう。

ご両親との時間もしっかり取り、やらなければならないことは、

確実にこなしていく。



『未来』



怖がってばかりはいられない。悠にふさわしくなれるよう、料理も作法も、

もっともっと学ばなければ。


「あ、おはようございます、中谷さん」

「おはよう」


二宮さんは、バッグをおろし、中から封筒を出してくれた。

私に差し出すので、『何?』と聞き返す。


「眉村先生が、中谷さんに渡して欲しいって」

「眉村先生?」


封筒の中身を見ようと思い、はさみを探す。


「私も驚きました、まさか園田さんが辞めてしまうなんて」

「エ?」


私は、二宮さんを見る。


「だから、眉村先生のところの、園田さん。この6月でやめてしまうそうです」


園田さんが、眉村先生の仕事を辞める。

思いも寄らない話しが、私の耳に飛び込んだ



18-④




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テーマ : 恋愛小説
ジャンル : 小説・文学

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育てた怪獣2匹は、すっかりかわいさを無くしたため、今や『犬愛』に目覚めたお気楽主婦です。日々のちょっとしたこと、趣味で取り組んでいる『創作』を、このブログに書いていきたいと思っています。
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なお、作品の無断転載やお持ち帰りはご遠慮ください。著作権は放棄していません。お願いします。

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