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18 思いを君に 【キャロル】 ④

18-④


「だとすると、本気で作品を?」

「いや、それがそうでもないようですよ」


二宮さんは、園田さんにこれから何をするのかと聞いたら、

『親の介護』だと言っていた情報を、私に話してくれる。


「介護?」


そういえば、以前、園田さんがお父さんのために仕事を休んだことがあった。

妹さんは結婚しているから、独身の自分がすぐに呼ばれると、愚痴を言っていた話も、

眉村先生から聞いた。



だとすると……啓太とは……



「ぜひ、中谷さんにも会に出て欲しいからって、眉村先生から強く、強く、
言われましたからね。絶対に出てくださいよ」


私は、『うん、うん』ととりあえず頷きながら、封筒の中身を出した。

確かに、『園田さんありがとうの会』と、眉村先生の字で書いてある。

しかも、『ただ……あなたが好き』の主人公と、社長のイラストが、

本編では見られないような、かわいらしいタッチで加えられていた。



先生のファンがこれを見たら、間違いなく争奪戦になるくらい、素晴らしい。



連載のない早川先生の担当になってから、締め切り前の不安感は少なくなったが、

その代わり、インタビュー記事などの校正仕事は増えた。

字の間違い、時間の間違い、そういう点は、

話の中に出てくるイベントや会社を調べながら、

ミスがないように進めなければならない。



『親の介護』



園田さんの家は、確か都内……もしくは近郊だと聞いたことがある。

遠い田舎ならともかく、東京に通えるような距離なら、啓太との時間も、

それなりに取れるのだろう。

そう、元々、ベッタリしていることを望むタイプではないのだから。

無意識に右手に持っていた赤ペンが、文字を進めていて、私は動きを止める。



ちゃんと一文字ずつ、見ていただろうか。



結局、自分の仕事に自信が持てずに、また最初から原稿を読み直した。





家に戻り、もう一度、二宮さんがくれた封筒を開けた。

会の場所は、眉村先生のご自宅近くにある居酒屋さん。

一度だけ、『忘年会』に参加させてもらった場所だと、今思い出す。

洋風のつまみを出すお店で、眉村先生と仲がいい漫画家数名の、

イラストつき、サインが確か飾られていた。



『園田さんの、新しい日々にみなさんで乾杯しましょう』



便箋に大きく書かれている文面。

新しい日々……か。



悠と水族館に出かけた後、立ち寄った『コレック』で啓太に会った。

そのとき、私たちに気付いた啓太が、穏やかな表情を見せてくれたおかげで、

私のチクチクとしていた思いも、どこか滑らかに動き出したと思う。

園田さんが啓太を愛してくれるのなら、

それで二人が、求めるような時間を作れるのなら、

私も、園田さんに感謝をしなければいけないだろう。

人の心の隙間に入り込んだと、腹を立てたときもあったけれど、

今はもう、終わったこと。


この日は、仕事を入れて慌てることのないように、手帳にはしっかりと印をした。





悠はまだ、大阪。

電話はかかってくるけれど、長く話すのは悪いと思うのか、

いつも数分で切れてしまう。

今日もこれくらいの時間かなと思って携帯を見ていると、

気持ちが通じたのか、電話が鳴り始める。

私は受話器を開け、『もしもし』と声を出した。


『未央……』

「はい」

『今日は、何かあった?』


そう、いつも悠は先に私のことを聞く。

私は、今日も普通に仕事をして、帰ってきましたと報告を入れた。


『そうか……いいな』

「何かあったの?」


悠は、思っていたような交渉結果にならなかったと、少しだけ重たい声を出す。


「そうなの」

『まぁ、こういうこともあるけどね』


『花菱物産』でも、毎回OKというわけにはいかないと聞き、

単純にそうなのかと思う私。


『ダメでも、OKでも、同じくらいの時間を費やしてきたかね、なんとなく、
力が抜けるよ』


職種は違うけれど、気持ちはどこかわかる気がする。

掲載をお願いした人に、ギリギリになってNGを出されたりすれば、

確かにがっかり来るだろう。

近頃、楽しそうな悠ばかり見ていたからなのか、胸がキュッと痛くなる。


「今から、行っちゃおうかな……大阪」


明日はお休み。私は励ましに飛んでいこうかと、悠に話す。


『あぁ……そうなればいいな……と思うけれど、いいよ、未央が大変だ』


悠は、もう一度チャンスがもらえるはずだから、

これから次回の交渉に向かう作戦を考えると、切り返してくれる。


「なんだ、一人で立ち直っちゃうんだね、悠は」


優しくて、穏やかで、そして強い。

それが『上村悠』。


『一人で? あぁ、まぁそういうところはあるかな。次、次といかないと、
気持ちが持たなくなることもあるし』


次、次……か。

確かにそうだけれど、なかなか難しい。


『とにかく、戻ったら未央と会うことを楽しみに、頑張るよ』



戻ってきたら……



私は『うん』と返事をする。

悠の心は、いつも表面に姿を見せてくれる。

今、どんなことを考えて、どんなふうに動いて、そしてどうして欲しいのか、



隠れてしまって、見えなくて、どうしたらいいのかわからないなんて、

不安定な時間は存在しない。



私は近頃、楽をしてばかりいる気がする。

さざ波の上で、ゆったりとしたヨットを浮かべ、

すやすやと眠っている気がしてしまう。



私は、今日の帰りの電車の中で、ちょっと変わった人に会ったこと、

スーパーで買い物をしていたら、欲しいものがちょうどお買い得になっていて、

なんだか嬉しくなったことなど、どうでもいい話を足していく。

気がつくと、つけていたニュース番組がすでに終わっていた。


「ごめん、悠。私、ペラペラと」

『いいよ、明日は休みだろ』

「でも、悠は違うでしょう」


そう、私は休みだけれど、出張している悠は、違うはず。


『いいんだよ……未央の声が聞きたいから』


悠にめいっぱい甘えさせてもらった夜の電話は、

結局、40分くらい続くことになった。



18-⑤




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テーマ : 恋愛小説
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Author:momonta
育てた怪獣2匹は、すっかりかわいさを無くしたため、今や『犬愛』に目覚めたお気楽主婦です。日々のちょっとしたこと、趣味で取り組んでいる『創作』を、このブログに書いていきたいと思っています。
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なお、作品の無断転載やお持ち帰りはご遠慮ください。著作権は放棄していません。お願いします。

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