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19 衝撃 【アースクエイク】 ②

19-②


「ここが一番言いたかった気がするんですよね、バッサリやられましたが」


新人が担当する小さなページ。

私も昔、担当していたことがある。

文字数が限られているため、何を載せるのか、どこまで書くのか、

切り捨てていくのがとにかく大変なのだ。

長い文章をだらりと書くのは、結構誰でも出来る。


「塚田君が何を言いたいかではなくて、情報雑誌だからね、
読者に何を知らせたいかで決めないと」

「知らせたいか……ですか」

「そうよ。考え方なんて、人それぞれだから。主観はいらないの。
情報だけあればいい」


塚田君は、そうなのかと言いながら、また考え込む。

横に置いた携帯の画面は、テレビで見たことがある格闘家だった。



『ファイターゴー』

『耐久レース』

『アメリカンゴング』



そういえば、啓太の家に行くと、よくこんな番組が映っていた。

座っている私の首を腕でひっかけたりすることもあり、あぶないと文句を言ったっけ。

男の人は、みんなこういうハラハラしたものが好きなのかと思っていたが、

悠はあまり、そういうものを好まない気がする。


「ねぇ、塚田君は、格闘雑誌、希望なのでしょう」

「エ……あ、はい。というか、どちらかというと、彼女が……」

「彼女?」

「はい、彼女が大好きなんですよ、格闘技」


塚田君の彼女は、大学時代の同級生。

今でもデートはほとんどが『プロレス』や『ボクシング』など、

格闘ものが多いという。


「へぇ……そうなんだ。女の子で」

「レスラーのあの、鍛えた体が好きだって言って、僕にプロテインを飲め、飲めって」

「プロテイン?」


また、私のわからない世界がそこに存在する。


「でもまぁ……はい」


塚田君は、なんだか照れ笑いをしながら、原稿を直し始める。

『でもまぁ……』の後は、きっと、『好き』という言葉につながるのだろう。


「よし、エメラルドホールドで、一気に行きます」


塚田君はそういうと、原稿の直しに集中し始めた。

私は編集部の扉から入ってくる二宮さんを見つける。

それから30分後、二人で園田さんを送る会場に、向かうこととなった。





「それでは、長い間……私の力になり続け、作品を支えてくれた園田さんの、
新しい出発に、みなさんで乾杯をお願いしたいと思います」


眉村先生、今日は何から何まで私がやりますと宣言し、

まずは乾杯の音頭を取ってくれる。

今日の私や二宮さんは、あくまでも脇役。

主役の園田さんは、お誕生日席でグラスを持ち、笑っていた。

綺麗になったなと感じた日から、もう何ヶ月経っただろう。

大人の色気というものが、ひしひしと伝わって来る気がする。

編集者は、私たち以外に2人いた。

どちらも、眉村先生が連載を持っている、漫画雑誌の人だ。

その日は、居酒屋さんの奥座敷を、全て貸し切ることになったらしい。

人数に比べたら広い気もするが、これが先生なりの思い。

私も二宮さんも、しっかりとグラスを上にあげ、大きく乾杯の声を出した。



「いやぁ……『ただ……あなたが好き』はいいですよね」

「いえいえ、うちの雑誌は、購買層が限られていますので」


編集者同士、腹の探りあいのようなコメントがそこに存在する。

向こうは先生が本名の野村で描き続けているため、あまり肌の露出はない。


「年齢の幅があるために、かえって規制がたくさんあって、
たいへんなところもあるんですよ」


少しお酒が入っているから、愚痴のようなものも会場に漂いだす。

すると、ひとりずつ話をしながらお酌をしに来た園田さんが、私のところに来てくれた。

私は、園田さんを見る。


「園田さん……驚きました」


そう、本当に驚いた。

『介護』という選択肢が、これだけ情熱を注いできた漫画に勝ってしまうとは。


「そうですか? でも、気持ちを、動かしてくれた人がいたので」


園田さんの言葉は、何を聞いても啓太につながる気がする。


「そうですか」


私は、グラスを前に出す。


「中谷さん、今日は先生の作ってくれた会なので、お話しは出来ませんが、
あらためてお会いしてもいいですか」

「エ……」


園田さんは、前にいる編集者が、アシスタントたちと話しているのを確認し、

私の耳に、口を近づける。


「啓太さんのこととか……」


啓太のこと。

私は、体を園田さんの方に向ける。


「あの……病気のことについては、園田さんご存知だと」

「えぇ……その後、中谷さんは思い出されたこととか……」


私は、『全て思い出した』ということをわかってもらおうと、園田さんを見ながら、

しっかりと頷いた。啓太が体の不調のため、子供を作れないということ、

それを『ブルーストーン』で彼女に責め立てられていたため、

私は感情を爆発させた。

泣いて、泣いて、一緒にいようと、啓太をタクシーに引っ張った。


「園田さん、啓太とはこれからも……」


たとえ仕事をやめても、父親の介護があっても、啓太との時間は持つのだろうと、

短い言葉に、その思いを乗せていく。

園田さんからは、肯定も否定もなく……


「そのことについても、あらためてお話しします」

「いえ、あの……」

「今、私が言えることは、それだけなので」


病気のことはわかっていると、言ってくれたのではなかっただろうか。

私が啓太と別れたことを知り、その距離の中に自ら入ったのではなかったのか。

園田さんのハッキリしない態度に、心がまた騒ぎ出す。



啓太は……

今、幸せではないのだろうか。



私はそれからも先生の話や、アシスタントたちの話を聞き、

それなりに会に参加をしていたが、気持ちはどこか浮き上がったままで、

園田さんのどこかスッキリした顔を見るたび、『何があったのか』と、

聞いてみたくなってしまう。



『そのことについて……』



啓太に、恋してくれたのではなかったのか。

『そのこと』という園田さんの表現が、どこかおまけの出来事に聞こえ、

私は辛くなった。



19-③




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テーマ : 恋愛小説
ジャンル : 小説・文学

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育てた怪獣2匹は、すっかりかわいさを無くしたため、今や『犬愛』に目覚めたお気楽主婦です。日々のちょっとしたこと、趣味で取り組んでいる『創作』を、このブログに書いていきたいと思っています。
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なお、作品の無断転載やお持ち帰りはご遠慮ください。著作権は放棄していません。お願いします。

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