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19 衝撃 【アースクエイク】 ⑤

19-⑤


「なんだかね、組合の人と見合いをって、また写真を送って来たの。
お母さんに、私は東京を離れるつもりはないからって、ちゃんと言ったけれど」

「だよな、俺も未央は仕事を考えても東京にいるだろうって、言ったけれど。
自分たちで向こうに行くって言っておいて、いざ行ってみたら、
息子や娘は東京だろう。寂しくなったんじゃないかって、千波が」


千波ちゃんは、小さく頷く。


「そんなの勝手だよ。自分たちがそうしたいって言って、マンション売ったのに」

「うん」


父と母は、東京にいたとき、マンションを持っていた。

そこを売り、新潟に越したのだ。


「で、何? まさかお兄ちゃん、私を説得でもしようと思って、
ここに呼んだわけじゃないですよね」


私は、それならば食べるのはやめておくと、箸をおいてみせる。


「そんなこと言うか」


兄は、今年の秋、母が『60歳』になるため、

昔、父がなった時に祝ったようなことを、してあげたくて私を呼んだと言う。


「ん? あれ? そうか、もうそうなんだ」

「そうそう、お前、忘れてただろ」

「……すっかり」


父が定年を迎えた後、『60歳の祝い』として、家族で旅行をした。

といっても、海外などリッチな場所ではなく、『箱根』だったが。


「あの時は、向こうも東京だっただろう。お前もまだ大学生で、
俺も社会人成り立てだったし。バイトの金出し合ってさ」

「そうだったね、半分は親が出したわ」

「だろ」


その頃とは、ずいぶん事情が違っている。


「今度は金沢あたりでどうかな。和貴もわかる年齢になったから、
北陸新幹線、あれに乗せてやりたくて」

「あぁ……うん。あれ? 年始に新潟来た時は、どうしたんだっけ」

「今までは車だよ。和貴が小さくて、泣いたりすると迷惑かけるからって、
千波がいつもそう言うからさ」


兄の言葉に、自分が予約を取れなかったのでしょうと、

千波ちゃんから早速攻撃が入る。


「まぁ、そういう話もあるにはある」


兄は千波ちゃんの方を向き、自分の不手際を謝罪する。


「なにそれ」


私が、お兄ちゃんのミスなのねと千波ちゃんに言うと、大きく頷き返された。


「そうか……新幹線ね」


それはぜひ、和貴を喜ばせてあげたい。

私は、計画は任せてもらってもいいかという、兄夫婦に、

ぜひぜひよろしくお願いしますと、頭を下げる。

それからは、金沢のパンフレットを見ながら、3人であれこれ話し合った。





兄の家から戻る電車の中。

千波ちゃんからもらったレシピを読み直す。

何回か自分の家で作ってみて、ちゃんと出来るようだったら、悠に食べさせてあげよう。

いきなり作って、失敗作だったら……



二度と作れなくなる。



通勤で使う曜日でも時間でもないため、いつもの電車もガラガラだった。





そして、園田さんと会う日がやってきた。

私は仕事を済ませ、定時に近い時間で編集部を出る。

眉村先生のご自宅近くにある、何度か使った喫茶店かと思っていたら、

指定されたのは、しっかりとしたレストランの名前だった。

住所を見ながら、時間に遅れないようにする。

入り口で待ち合わせなのだというと、名前を聞かれた。


「どうぞ、もういらしていますよ」


園田さんの方が早かった。

私はウエイトレスについていく。

お店は完全個室ではないが、仕切りが高くて、

隣同士も顔をあわせないようなつくりになっていた。

こういった環境の場で会うことが、複雑な話しになるのではないかと、身構えてしまう。


「こんばんは」

「こんばんは」


変わったメイクも雰囲気も、すっかり慣れてしまった。

私は園田さんの前に座る。


「忙しいのに、ごめんなさい」

「いえ……」


こう答えるしかない。

互いに注文を済ませると、飲み物を前に置いた。

園田さんは何やら話すための準備をしているのか、

バッグから小さなプラスチックのケースを出す。


「まず、中谷さんが思っていることを、正式に打ち消しさせてもらいます」


打ち消す?

それはどういうことだろう。私は『はい』とも言えず、前を見る。


「私と、啓太さんには何もありませんから」


園田さんは、少しだけ笑みを浮かべた。


「あ、うん……言い方が少しおかしいかな。私が彼を好きになったのは本当です。
それは中谷さんにも伝わっていたと思うし、私も、そばにいたいと心から願ったし。
でも……彼は最後まで、受け入れてはくれなかった」


啓太と園田さんには、何もない。

私は、最初から予想外の展開になる。


「中谷さんがうらやましかった。編集者として誇らしく仕事をしていて、
先生からの信頼も厚くて。エピソードを作るときも、それがこう……
いい意味で、生きている言葉というか、
そういう感情を持ったりすることもあるのだろうなと、いつも思っていて」


園田さんは、私が眉村先生のところに行き、色々と話していることを聞きながら、

うらやましさを感じていたと、話してくれる。


「『コレック』でね、啓太さんを見たとき、本当に素敵だなと思ったの。
前にも話したとおり、男の人のスーツ姿って、見たことがなくて。
仕事をしている空気? そういったものが、彼の中から、にじみ出ていて。
毎日、真剣に生きている、そんな気がしたの。だから、ペンが動いていた」


園田さんの作品。

啓太がモデルになった。


「中谷さんと、どうして別れてしまったのか、最初はわからなくて。
でも、正直、それならばダメでもいいから、気持ちを彼に伝えてみたいと思ったの。
こんなこと、久しぶりなのよ。私、元々、臆病だし」


園田さんの言葉を聞きながら、私も頷いた。

昔の園田さんなら、啓太に自分から話しをすることなど、なかっただろう。


「最初は、こうして仕事をしているあなたを見ながら、実は作品を作りましたと、
そう話したの。私が園田だということを、啓太さんも気付いてくれていたから、
そうですかと、ちょっとだけ照れくさそうだった」


啓太が意識してはまずいと思い、作品のモデルになった話しはしていない。

それでも、私の知り合いだから、丁寧に接してくれたと、園田さんは振り返る。


「でね……」


園田さんは、さっきテーブルに出した、小さなケースから、

1枚のカードを出す。




『東陵がん研究センター』




それは『東陵病院』の診察券だった。



20-①

《プレラブ プチ知識 タイトル写真》

19 【アースクエイク】

★カクテル言葉は『衝撃』

材料はウイスキー 1/3、ドライジン 1/3、アブサン 1/3





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育てた怪獣2匹は、すっかりかわいさを無くしたため、今や『犬愛』に目覚めたお気楽主婦です。日々のちょっとしたこと、趣味で取り組んでいる『創作』を、このブログに書いていきたいと思っています。
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なお、作品の無断転載やお持ち帰りはご遠慮ください。著作権は放棄していません。お願いします。

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