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20 出来ない相談 【ブルームーン】 ①

20 出来ない相談
20-①


都内にある、『がん』を研究する最新施設を備えた病院。

私は診察券の名前を見て、顔をあげる。


「私……4年前に乳がんになったの」


園田さんは、こんなにまな板のようなのにと、自分を見ながら、

それでも病気になってしまったと口にする。


「その時に、お世話になった先生が、今この病院にいてね、
まぁ、経過を診てもらったことと、父のことも診てもらうことが出来ないかと、
相談に行ったわけ。そこで会ったの」



会った……



「啓太さんと……」



啓太と会った。



「他の病院なら、どこか悪いのですかで済む話しなのだけれど、
この病棟は『がん』専門のところだったから。聞くこともなく、彼も何かと……」



啓太が……『がん』



病気があるのだと、そう聞いたことは思い出した。

そのために、子供が望めないということを、悲しそうに話してくれて……

私は、啓太が前向きになれないと言ったことが哀しくて、辛くて、

『ブルーストーン』で、号泣したのだ。

それでも、病名が『がん』だなんて、思いもしなかった。


「啓太は……」

「うん……。啓太さんは最初、私には気付いていなかったの。
でも、啓太さんを捕まえた看護師が、すごく怒っていて」

「怒った? どういうことですか」

「今まで何をしていたのって」



今まで……



「何度手紙を送っても、音沙汰がなくて困りましたって、そう言われていた」

「啓太は、そんなに大変ってことなんですか」

「中谷さん、しっかり話しますから、少し落ち着いて」


落ち着いてと言われても、落ち着ける話ではない。

気持ちだけが、どんどん前にいってしまう。

啓太が、病気を持っているかもしれないということを思い出したときより、

さらに追い込まれていく。


『がん』ってなんなのよ。

そんなこと、想像もしていないのに。


「啓太さんは、『悪性リンパ腫』があったみたいなの。私も自分が乳がんになって、
父も早期のガンだったから、色々と調べてわかったこともあって。
看護師と啓太さんの話しを聞いていて、もしかしたらって……」



『悪性リンパ腫』



私には、何もわからない。

ただ、『がん』ということだけが、重い病だというイメージが、

心を押しつぶしていく。


「啓太さんは治療をして退院した後、定期的に通うことも、
医師に自分の生活を報告することを、全くしていなかった。
つまり、手術や治療で細胞を取った後、再発しないようにとか、
してもすぐに見つけられるようにとか、経過を医者が診て行くでしょう。
それをしていなくて」

「病院に、行っていなかったってことですよね」

「だと思うの。で、久しぶりに顔を出して、怒られていた」


熱を出して寝ていたとき、薬も医者も嫌いだと、そう言っていた。

あのバカ……



ふてくされて済む話しではないのに。



「ここからは、私のみっともない話しなの。でも、中谷さんには話しておきたいから、
聞いてちょうだい」


園田さんは、そういうと、お茶を飲む。


「私、その後、啓太さんに声をかけたの。
これが……病院で会えたことが、何かのきっかけになると、直感でそう思って。
看護師さんの話しを全て聞いてから。彼も、とんでもないところで会ってしまったと、
すぐに顔色を変えて」


会いたくない場所で、会ってしまったという複雑な思い。


「私ね、言ったの。啓太さんが病気なら、中谷さんも一緒に来ているの……と」

「私?」

「そう……ここは私の賭けだった。一緒に……とわざと聞いた。
彼がどういう態度に出るのか、それを試したのだと思う」


園田さんの言葉に、啓太はすぐに『いない』と言ったという。


「私も同じ病院に通っているから、中谷さんともまた話が出来ますと言ったら、
中谷さんには……ううん、その時は、未央にはもう関係がないから言わないで欲しいと、
そう言われた。その言い方が、本当に心の底から出ている気がして、瞬間的に……」


瞬間的に……なんだと言うのだろう。


「中谷さんを思って……だと、私は判断した。だからまた、うらやましさが出てしまって。
困っている啓太さんに、だったら、一度、食事をしてもらえませんかと、
私、半分、脅してしまったの」


私に病気を知られたくない啓太に、それを使って近付こうとした園田さん。

二人は、客と店員ではない場所で、向かい合った。


「私も自分が乳がんになり、その経過をまだ追っていることを話した。
病気のことを、やたらに公表したくない気持ちはわかるって。
でも、その反面、色々と考えすぎることもあるから、
そばにいてくれる人が欲しいと思うときもあるって」


啓太は黙っていたと、教えてくれる。


「どうして3年間、経過を見せていないのかと、そう迫っても、
啓太さんは黙っていて……」


園田さんは、そんな態度に出るのなら、中谷さんから話しを聞くと、

また啓太を揺さぶったという。


「未央は何も覚えていないから辞めて欲しいと……彼が言ったの」



『覚えていない』



そう、私は『ブルーストーン』での出来事を、ほとんど忘れていた。

酔っ払って、啓太に適当に言葉を吹っかけて、そしてホテルで正気に戻った。

今まではずっと、そう考えていた。



「もう……思い出させたくないって」



あの日、『ブルーストーン』で、啓太は私に全てを語ってくれていたのだ。

それは、私がどこの誰だかわからない、ただの酔っ払いで、

おそらく、話しをしても何も覚えていないだろうという気持ちだったから、

辛く苦しい話しを、そこで吐き出せばいい……。そうだったのではないだろうか。


「中谷さんとはもう、お別れした後でしょう。
それなのに言葉の端々に『思い』があふれている気がして。
私は、どうしてそんなにとなんだか悔しくて。
私なら、あなたと同じ痛みを持てるって、そう訴えていた」


乳がんになり、再発を恐れながらも生きている自分ならと、

園田さんが言った気持ちは、わからないでもない。


「それからもお店に行って声をかけて。
啓太さんに、掲載誌を送りたいからって、住所を聞きだした」



住所……

そうか、あれはこうして聞きだしたものだったんだ。

私は、啓太が私と別れた後、さっさと園田さんの気持ちを受け入れたのだと、

勝手に思っていた。


「中谷さんが、あの住所を見たら、勘違いするのではないかと思って」


そう、そう思った。

すっかり騙されて、啓太に怒りをぶつけて帰った。

あいつも、そうなんだという態度を取り、私を遠ざけて……



『二度と来るな』



そう言い切った。



20-②




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テーマ : 恋愛小説
ジャンル : 小説・文学

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育てた怪獣2匹は、すっかりかわいさを無くしたため、今や『犬愛』に目覚めたお気楽主婦です。日々のちょっとしたこと、趣味で取り組んでいる『創作』を、このブログに書いていきたいと思っています。
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なお、作品の無断転載やお持ち帰りはご遠慮ください。著作権は放棄していません。お願いします。

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