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20 出来ない相談 【ブルームーン】 ③

20-③


「園田さん、ごめんなさい。私……」


ここは正直に話すべきだろうとそう思った。

啓太自身が、私がもうそばに行けないことを知っているのだから。


「私、この春からお付き合いをしている人がいるんです。だから、啓太のことは……」


気にならないことはない。

でも……


「そうなんですか」


園田さんは、仕方がないという表情を見せる。


「私がもっと早く、伝えていれば……でも、言ったら啓太さんと中谷さんが戻って、
私のチャンスはないのかとか、ずるいことを考えていたから、こんなことに」


園田さんは、本当にごめんなさいと謝ってくれる。

全身の力が抜けてしまった気がして、誰を責めることも、文句を言うことも、

出来ない気がした。


「園田さんは、お体、どうなんですか」

「私は5年経過を終えました。今も、問題はないと言われています」


園田さんは、啓太を通じて、自分の作品も出来たし、

毎日を続けていくということを考え、お父さんのそばにいられる仕事を探そうと、

気持ちを固めたという。


「人は、永遠に生きているわけではないですからね」


そういうと、運ばれてきた食事に、箸をつけていく。

私も、このまま残すわけにはいかないので、少しずつ口には入れていくが、

思っていなかった出来事と、事実だけに、なかなか喉を通っていかない。

啓太が私を裏切ったのではないこと、病気が『悪性リンパ腫』だったこと、

その治療の中で、子供を望めなくなったことがあるため、

『家族、子供』と未来の構図を変えた私を、手放してくれたこと。



そして……

実は今もまだ、病気とひとりで向かい合っていること……



それを知ってしまった。



啓太が好きだと宣言し、芝居の手伝いをした香澄ちゃんも、

同じく、啓太が好きだと言い、自分の境遇を当てはめ、アピールした園田さんも、

自分が出来ることはしたけれど、叶わなかったという思いを胸に、

私に全てを語り、気持ちを入れ替えていくのかもしれない。



だけれど……

事実を受け止めながら、何ひとつ出来ない私は、



この気持ちを、どう処理すればいいのだろう。



どうしていけば……





「これからは、眉村先生の1ファンです」


園田さんはそういうと、改めて私に頭を下げてくれた。

私も同じように会釈をする。

背を向けて去って行く園田さんが、人混みの中に消えていく。

私も歩かないといけないのに、足がスムーズに出て行ってくれない。




啓太の病気は,悪性のリンパ腫だった。




私が『ブルーストーン』で会ったあの日は、彼女との別れ話の最中だった。

啓太の病気と、そこからの副作用、子供が望めないかもしれないという状況に、

将来への希望が見出せなくなり、彼女は、啓太に怒りをぶつけ、離れていった。



そこに自分の失恋を持ち込み、飛び込んだ私は、

お酒を飲まない啓太にあれこれ文句を言い、お酒を飲まなければ前向きになれないと、

自己都合を振りかざし、自分の話しも押し付けた。



まぁ、それまで互いに知らない者同士だったのだから、

失礼があっても仕方がないのだけれど、啓太は私の勢いに飲まれながらも、

とんでもない出来事を、そこからは楽しんでくれた。



『私が飲み乾してあげるから、だから大丈夫』



そう、啓太の細長いグラスに、私は口をつけた。

自分が病気になり、彼女の気持ちに答えられなくなったという話しを聞き、

前向きになれないと下を向く啓太を、なんとか励まそうとしたところもあっただろう。

一人ではしっかり歩けないほど酔った私は、

タクシーまで送ってくれた啓太の手を引っ張った。



『寂しいときは、一人でいない方がいいから』



店に入ったときから、啓太が目に入った。

だから、酔いながらも、自分の好みだけは持っていたのかもしれない。

この人だから、一人にしておきたくないという、

私の気持ちが出ていたのかもしれない。



『毎日を……1日ずつ……』

『1日ずつ?』

『そう。病気になってもならなくても、人はいつどうなるのかわからない。
毎日、朝、おはようって、笑って挨拶できたら、それで『未来』なの。
だから、前向きになって……ダメですよ、諦めたら』



私は、啓太の腕にしがみつくようになりながら、

タクシーの中で『未来論』を確かに語った。

そこから先は、思い出さなくてもわかる。




私は、啓太と一緒にいられることを、願っていたはず。





どうして覚えていなかったのだろう。

覚えてさえいたら、こんなことにはならなかった。



園田さんには、新しくお付き合いした人がいることを語り、

さらに、偶然ではあるけれど、その人を啓太も見たことも話した。

啓太のことをどうでもいいと思っているわけではない。

でも、今の私は、何をしてあげることも、出来ないことは確かだから。



この先、啓太のことを愛してくれる人は、出てくるだろうか。

啓太は、その人に、『甘える』ことが出来るだろうか。



考えても仕方のないことだと思いながら、その日は、頭から離れることがなく、

夕食の買い物をする気にもなれなかった。



20-④




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テーマ : 恋愛小説
ジャンル : 小説・文学

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育てた怪獣2匹は、すっかりかわいさを無くしたため、今や『犬愛』に目覚めたお気楽主婦です。日々のちょっとしたこと、趣味で取り組んでいる『創作』を、このブログに書いていきたいと思っています。
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