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20 出来ない相談 【ブルームーン】 ⑤

20-⑤


『最先端の治療が出来ますよ』



松本先生の言うとおりだろう。

研究センターがある病院など、全国にそれほど多くないはず。

きちんと経過を診てさえいれば、そもそも進行が遅く、

何もしないで経過を診るという、治療の判断さえあるという。



きちんと……啓太がしていたら



「はぁ……」


早川先生の事務所を出て、原稿を早く持ち帰られないとならないのに、

私は書店に入り、何やら難しい書籍を見つけペラペラとめくり続ける。

私との別れは、啓太自身が決めたこと、

病気のことも、本人はわかっているのだから、余計なことをする必要はない。

そう何度も気持ちに言い聞かせるのに、



無理だと思った。

気にしないで、なかったことになどするのは無理だ。

これはどうしても、啓太と話しをしなければ、気持ちが前に進まない。



私は、読んでもわからない本を閉じると、携帯電話を取り出した。

メールを打ち込もうとしたが、文章が出てこない。

会いたいと言えば、おそらく『必要はない』と戻ってくるだろう。

それならば思い切って病気のことをストレートに書き、

どうなっているのかと聞けばいいけれど、啓太のことだ、『関係ない』と言いかねない。

どうしても話さなければならないような展開に、持っていくことは出来るだろうか。



私は、その日、仕事を終えてから、啓太のマンション前に立つことにした。

結局、強引かもしれないが、直接顔を見るのが一番速くて確実だと思った。

小雨が降り出したので、傘を差しマンションに向かう。

まずは303号室の明かりを確認すると、カーテンの向こう側は、真っ暗に思えた。

そこからしばらく立ち続ける。

すると、携帯にメールが届いた。



悠から……



『未央 愛知の母親が手羽先を送ってくれた。一緒に食べないか』



軽く火を通すだけだから、今日か明日にでもと、悠の文面には書いてあった。

私はそれを見ながら、どうしようかと考える。

悠のお母さんが送ってくれたものだから、出来たら一緒にと思うのだけれど、

今は、自分の感情が定まらない状態で、

美味しいものも美味しく味わえない気がしてしまう。

啓太を捕まえて、話しを聞いて、きちんと病院に通ってもらって、

それで……



それで……



私は、どこまでを知れば、満足できるのだろう。



こんなふうに、これからもずっと啓太のマンション前に、張り付くことなど出来ない。

でも、何かをしないと、気持ちが治まらないのだ。



芝居だと言いに来た香澄ちゃんや、

思いは通じなかったと寂しそうな顔をした園田さんのように……



私も自分が『楽』になるために、今、ここにいるのだろうか。



『ごめんね、悠 今週は忙しくて早く帰れないの』



送信ボタンを押した後、背中からぞっとするような寒気が来た。

私は、悠にウソをついている。



時計を見ると10時を回っていた。

今までの流れや経験で考えると、この30分くらいで啓太は帰宅するはず。

ポストとは反対側の壁にもたれかかっていると、

入り口の扉が開き、人が入ってきた。


「未央……」


啓太の声に、私は頭を下げる。

今日は、感情的になりここに来たわけではない。

今、私が出来ることを、しなければ気が済まないから……


「ごめんね、こんなところで待って」


私のトーンから、啓太にも何か感じるものがあるのだろう。

以前のように、挑発的な態度は見せてこない。


「もう、ここへは来るなと言っただろ」

「わかっているの。でも、ここしかなかった。あなたに会うためには」


職場が固定されていないため、『コレック』のどこにいればいいのかなどわからない。

私が知っているのは、啓太が必ずここに帰ってくるということだけ。


「園田さんと話しをしたの」


園田さんの名前を出した途端、啓太の顔色が変わった。

私は、園田さんが言う前から、病気のことはわかっていたことだと、

彼女に責任はないとそう訴えていく。


「園田さんは、あなたを救いたかったの。それはわかるでしょう」

「未央……」

「私が、覚えていなければいけないことを、忘れていたことが悪いのだから」



そう、忘れてしまったから、

『未来』を書き換えてしまったから……



「そんなことは気にすることじゃない。もう、いいから」


啓太はそういうと、心配する必要など無いから、

こんなことをしていないで帰れと、そう言ってくれる。


「啓太……」

「あの日に、いつまでも縛られるな。今の未央の思いを、大事にした方がいい」


一日を続けるということではなく、その人と家族になり、子供を持つ未来。

今の私の思いとは、このことだろうか。


「だったら教えて。啓太の体は今、どうなっているの……」


私の訴えに、啓太はただ『大丈夫だから』を繰り返す。

そして、そのまま鍵で中に入ろうとしてしまう。


「ねぇ、啓太。ここへは来るなと言うのなら、教えて欲しいの」


私は、ちゃんと話しをしてと言いながら、体の向きを変えたが、

その時、自分の傘から下に落ちていた雫にすべり、ヒールがガクッと横にずれて、

体が斜めになる。



啓太の片手が……

私の腕をしっかりとつかんでいて……



予想以上に、距離が近付く。


「大丈夫か」

「……あ、ありがとう」


ここへ来てから、ずっと同じ場所に立っていたから、

自分の傘からの雫が下に溜まっていた。

咄嗟の出来事に、言いたかったことも頭から飛んでしまう。


「園田さんから、何をどう聞いたのか知らないけれど、体は大丈夫だ。
未央に心配してもらうことはないから」


啓太は、予想通り私を突っぱねた。



21-①

《プレラブ プチ知識 タイトル写真》

20 【ブルームーン】

★カクテル言葉は『出来ない相談』

材料はドライジン 2/4、パルフェタムール 1/4、レモンジュース 1/4





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育てた怪獣2匹は、すっかりかわいさを無くしたため、今や『犬愛』に目覚めたお気楽主婦です。日々のちょっとしたこと、趣味で取り組んでいる『創作』を、このブログに書いていきたいと思っています。
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