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21 デリケートな神経 【アレキサンダース・シスター】 ③

21-③


それから数日後、悠が私のマンションにやってきた。

最初は悠の部屋で会うつもりだったのに、訪問客があり……


「お母さんが?」

「そう、また来たんだ。今回は友達に会うって言っていたけれど」

「そう……」


愛知に住む、悠のお母さんが突然やってきたため、場所が急遽変わった。

私にとってはどちらでもいいのだが、仕事をしなければならない悠は、

泊まることが出来ないと、さみしそうな顔をする。


「いいの? 今日はこっちに来ていて」

「いいんだよ。仕事で抜けられないから、夕飯はいいって言ってきたし」

「そうなんだ」


悠は『一人っ子』。

となると、親の期待も、うちより大きいだろう。

『中谷家』は、兄がしっかりしてくれているだけに、私はその恩恵を十分に受けている。


「そうそう……昨日さ、母が台所に立って、何やら作っていて、
冷蔵庫を開けたんだ。ほら、前に未央がバターを半分使って、残しただろ」


悠の部屋に行き、そういえば料理を作った時、バターを使った。

私は使いかけの箱に、メモを貼ったことを思い出す。


「あ……うん、使い始めの日付を書いた」

「そう、あれを母が見つけてさ。『あら、きちんとしているのね』って……」


あの部屋に入っているということに、気付かれた。

33の息子がお付き合いしている女性なのだから、こうして料理を作るくらい、

認めてくれるだろうが、やはり少しドキッとする。


「未央さん、泊まって行くのって聞くからさ。うん……って」

「うん……って言ったの?」

「言った……まずかったかな」


悠は、ダメなのかと言う表情で私を見る。

ダメというわけではないが、お母さんに見つかったと思うと、

やはり恥ずかしくなる。


「だっておかしいだろう、料理だけ作って食べて帰りますっていうのもさ。
家政婦じゃないし」


悠は、自分たちはそれなりに考えて付き合っているのだからと、

当然のようにそう言った。


「まぁ、そうだけれど……」


息子の母親と、娘の母親は違うのかもしれない。

母ならそんなことを聞かないだろうし、私も彼が泊まるのよとは、

わかりきっていても、言えない気がする。


「なぁ、未央。10月ごろ、どう?」


悠は、一緒に愛知に行こうと、そう言ってくる。


「10月?」

「うん……」


悠はそういうと、私の方を向く。


「実は、9月入ったら10日くらい、アルゼンチンに行くことになりそうなんだ。
本当はその前に愛知へ行けたらと思ったけれど、あまりにもバタバタしているし」

「アルゼンチンに? また交渉?」

「まぁ、10日くらいだからね、あっという間に戻ってくるよ。
交渉というよりも、今度は向こうに新しい工場が出来て半年経って、
その後の状況を知らないとならなくて。本当は他の人で動いていた仕事なのだけれど、
色々と事情が変わった。まぁ、場所が場所だろ。
予定は10日だけど、もしかしたら2週間くらいかかるかもしれない」


悠の仕事場が、日本国内だけではないことは、わかっていた。

私は自分の頭の中でカレンダーを動かしながら、それでも頷いていく。


「わかった……それなら私、10月に愛知へ行く前には、親に話すね」


兄夫婦が計画してくれた、60歳を迎える母と父との『中谷家家族旅行』は、

9月の中旬に予定している。

お付き合いをしている人がいて、真剣に将来を見ているということは、

親にも兄夫婦にも伝えなければならない。


「うん……」


私の話しに頷いた悠は、少し笑みを浮かべているように見える。


「今は、何も言わないよ。来るべき日が来たら、ちゃんと言うからね」


悠は、『言う』と決めているのは、『プロポーズ』の言葉だろうというセリフを、

少し遠まわしに表現する。


「うん……」


背中を押されるように進む、毎日。

これが、私の求めていた『未来』なのだ。


人を好きになり、その人と、ともにいたいと考えて、

家族と、これからを誓っていく。

ひとみのように、私もやがて母になる。



私はもう、レールの上を歩いている。

決して戻らないレールの上を。





しかし……





これで何度目だろう。

啓太のマンション前に立ってしまうのは。





私の未来が絞られていく中、また、残してしまった思いが、心の奥から顔を出す。

実は、2、3日前の新聞に、気になる記事が掲載されたのだ。

それを読んでしまったからなのか、出版社を出た足が、ここに向かってしまった。



『コレック 業績悪化のため、民事再生法申請』



ファミレスが大変だというのは、業界全体として話題にはなっていた。

食事の方法も多様化していて、コンビニでも、色々と選ぶものが増えた。

それぞれ特徴を持って、生き残りをかけてはいるが、厳しいところも多い。

『コレック』は、都内だけでも10店舗の閉鎖を決めた。

その中に、香澄ちゃんが勤めていた『池丘店』や、

私の家の近くにある店の名前もあがっていた。

経営する店が減れば、仕切りの人も減るだろう。

啓太の仕事は、今までと同じようにあるのだろうか。


私が気にしたからといって、どうにかなることではないのだが。

触れてしまった以上、知らないとそっぽを向くことが出来ない。


『303』の部屋は、明かりがついている。

インターフォンの前に立ち、ボタンを鳴らそうとするが、指が動かなくなる。




『未央が気にすることじゃないだろう』




啓太の答えは、見えているのだから。



私は結局、インターフォンを鳴らすことが出来ないまま、

また駅に向かって歩き出した。



21-④




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テーマ : 恋愛小説
ジャンル : 小説・文学

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育てた怪獣2匹は、すっかりかわいさを無くしたため、今や『犬愛』に目覚めたお気楽主婦です。日々のちょっとしたこと、趣味で取り組んでいる『創作』を、このブログに書いていきたいと思っています。
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