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21 デリケートな神経 【アレキサンダース・シスター】 ④

21-④


8月。

編集部も夏休みを取る人が増えて、席が空いている。

二宮さんは、2年連続、家族とハワイ旅行だった。



『信じられませんよね、こんな旅行』



行くのが彼氏ではないことが、本当に嫌だとぐずっていたが、

いまだにご両親が旅費を全て出してくれるという、お嬢様旅行のため、

口ほど嫌がっていないのだと、思っている。

私は、眉村先生のデータをまとめ、彼女の代わりに、久しぶりに自宅を尋ねる。

園田さんを送る会以来の再会だったため、話しは結構ポンポン弾んだ。


「そうなんですか、あのアシスタントさん」

「そうなの。中谷さんのところじゃないから、報告が遅れたわ、ごめんなさい」

「いえいえ」


以前、先生にイラストを描いて見せていたアシスタントの女の子が、

別の出版社ではあるが、正式に作家としてデビューしたという。

私はその作品を見せてもらう。

先生の艶やかなタッチとは違うが、なかなかセンスのいい構図だ。


「いいですね、これ」

「でしょ。彼女は最初から、キラッと光るものがあったから」


私は、すっかり模様替えされた部屋の中で、その場所を見てしまう。

長い間、先生と一緒に歩んできた、園田さんの席。


「園田さんのことが、教訓になったのかな」


眉村先生は、ペンで自分の鼻を軽く叩く。


「教訓……ですか」

「うん。タイミングって大事でしょう。私にとって、重宝だと思っていると、
その人のタイミングを失わせてしまう。それに気付かされたというか……」


眉村先生は、園田さんは今、お父さんの介護をしながら、

地元で仕事を探していると、教えてくれる。

私の頭の中に、最後に別れたときの後ろ姿が蘇った。


「園田さんがいないという、この状況に慣れるまで、
正直、私は結構、かかりそうなんだよね」


眉村先生はそういうと、少しだけ体を小さくさせる。


「でも、慣れないとね……」


私は、その言葉の中に、園田さんへの愛情を感じ取る。

新しい出発を決めた人に、いつまでも未練を残してはいけない。

そう言っている気がしてしまう。



病気のこと、これからのこと、仕事のこと。

確かに気にならないことはないが、私を突き放そうとしたのは、啓太本人の思い。



私は、精一杯今を生きること。

それが必要なのかもしれないと、机のなくなった場所を見ながら、考えた。





8月も終わりに近づいた日、千波ちゃんと兄から、

『金沢旅行』の招待状が届いた。宿泊先からどういう内容にするのかまで、

全てお任せしてしまい、申し訳ない気がしてしまう。


「もしもし、千波ちゃん? 届きました、ありがとう」


私は職場での休み時間、千波ちゃんに電話をする。


『未央ちゃんにあまり相談もしないで、ごめんね』

「何を言っているのよ、助かったって。頼れる兄夫婦を持って、私は幸せなんだから」


これは嫌みでもなく本当のこと。

兄と千波ちゃんには、これからも何でも相談できる気がする。


「カズも楽しみにしているでしょう」


千波ちゃんは、和貴が初めての『北陸新幹線』のために、

プラレールでシミュレーションしていると、笑い話にしてくれる。

私も報告があるのと言おうとしたが、そこはしっかりと口を閉じた。

フライングしてしまうのは、千波ちゃんに負担をかけてしまう。

受話器を閉じ、編集部に戻ると、早川先生から戻ってきた原稿を読み直す。

難しい地名、そして数字。

辞書やその当時の記事なども探し出し、一つずつ確認する。

見直しが終了したので腰をあげると、コンビニにでも行こうかと財布を持つ。

携帯にメールの印がついていたので、悠からかと思いながら開くと、

送って来たのは、予想外の人だった。



『啓太』



啓太からのメール。

私はすぐに内容を確認する。



『未央 申し訳ないのだけれど、お願いしたいことがあります。
一度、どこかで会えませんか』



『お願いしたいこと』

付き合っていた時にも、啓太に何かを頼まれたということは、ない気がする。

もう来るなと言われ続けている中での、

さらに、会社の業績が悪化しているというニュースを知ってのこの内容に、

とにかく聞くべき、会うべきだと、気持ちがすぐに返信ボタンに触れる。



『どこで会えばいい』



私は、8月はあまり忙しくないときなので、

時間と場所を決めてくれたらそこに行くと打ち込んだ。





啓太が指定したのは、私の会社と啓太の家がある駅前のコーヒーショップだった。

つまり、帰り道。

小さなお店のため、20人も入ればめいっぱいになる。

私は指定された時間に会うよう、仕事をこなし、少し早めに店へ入った。



よかった……

テーブル席は1つしか空いていない。



私はすぐに『カフェオレ』を注文し、啓太を待てる場所に座る。



あれだけ、私を避けた啓太が、自分から連絡をしてくるなんて……

待ち合わせの時間が近くなるたび、心臓の鼓動が大きくなる。



自動扉が開き、スーツ姿の啓太が現れた。

私は場所がすぐにわかるように、手をあげる。

啓太は注文をし、カップを持つと、前に座った。



21-⑤




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テーマ : 恋愛小説
ジャンル : 小説・文学

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育てた怪獣2匹は、すっかりかわいさを無くしたため、今や『犬愛』に目覚めたお気楽主婦です。日々のちょっとしたこと、趣味で取り組んでいる『創作』を、このブログに書いていきたいと思っています。
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