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21 デリケートな神経 【アレキサンダース・シスター】 ⑤

21-⑤


「悪いな、未央」

「ううん……」


啓太はバッグを横に置く。

私は啓太の一言目を待った。


「『コレック』が、大変だってこと、新聞とかで見た?」

「うん……」


啓太の話しが、私の気になっていたことなので、すぐに頷いた。

啓太は、そうかと頷きながら口を強く結ぶ。


「ファミレス業界全体が、今、揺れている時期なんだ。
一時期、銀行でも、合併が相次いだように、店が増えすぎているのかもしれない」


『啓太はどうなの』という言葉を出せないまま、私は頷き返す。


「俺と同じように、都内の店舗を回っていたメンバーも、
何人か会社をやめることになってね。そのうちのひとりが、
実は、俺が一番世話になった人なんだよ」


啓太は、自分が『コレック』に入社できたのは、その人のおかげだとそう言った。

啓太が世話になったという谷先輩は、会社の状況を知り、

この機会に家族と一緒に奥さんの実家近くに住み、

念願だった『お店』を開くことにしたという。


「お店を?」

「うん……その谷さんの奥さんが、お菓子の先生が出来るような人で。
まぁ、いずれはと、そういう夢を持っていたようなんだ」


谷さんご夫婦は、年内で『東京』を去るという。


「その奥さんが、野村先生のファンなんだ」

「野村先生……そうなの?」


啓太のお世話になった谷さんの奥さんは、野村先生、

つまり、眉村先生のファンだという。

啓太は、何もお礼が出来ない代わりに、新しいお店に飾れるような、

すてきなイラストを描いてもらうことが出来ないかと、そう言った。


「もちろん、タダだなんて言わない。
未央にも先生のイラストは、商売になるものだと聞いたことがあるし、
きちんとお金は払うよ。でも、誰にでも頼めることではなくてさ、
自分からもう来るなと言っておいて、どうかとも思ったけれど、谷さんだから……」


谷さんと啓太のつながりはわからないが、私に頭を下げようとすることで、

どれほど深いのかがわかる気がする。


「啓太の事情はわかった。でも、今ここで無責任に、大丈夫だとは言えない」

「それはわかる」


啓太は、相手のあることだからと言い、とにかく聞いてみてくれないかと、

頭を下げた。私は、その谷さんという人と、啓太のつながりを知ってみたくなる。


「谷さんって……初めて聞いた。啓太から、仕事の仲間のこととか、
聞いたことがなかったし……」


仕事のことで聞いたのは、新人のこと、そして香澄ちゃんのこと。


「うん……」


相変わらず、啓太の口は重い。

こういう時代に会って、こんなふうな関係だったとは、教えてくれそうもなくて。

切り出した会話は止まってしまい、

私は目の前にいる啓太との距離を、また感じてしまう。


「少し待っていて。先生と会う時間をまず作らないといけないし。
連絡は、メールでいい?」

「あぁ……」


啓太は昔からこうだった。

余計なことは話さないし、また、色々と知ろうともしない。

いい意味でも悪い意味でも、自分の殻がある。

他人の意見に惑わされることはないかもしれないが、悪く言えば、

何を考えているのか、わからないところも多い。



悠と付き合い始めて感じたことは、

人には必ず自分と同じように『家族』がいるということ。

私を産み、育ててくれた親と同じく、啓太にもそういう人がいるはずなのに、

あの部屋に親や兄弟が訪れたという気配は、何も感じたことがなかった。

啓太の田舎は、東京から離れているのだろうか。


「啓太は、仕事大丈夫なの?」


頼まれごとをしている今なら、多少、聞ける気がした。

啓太は、『うん』とそれだけを返してくれる。


「今までと同じ仕事が出来るの?」


1つ知ると、もう1つ知りたくなる。

啓太は私をしっかりと見て、『何も変わらないから』と、言葉を上からかぶせ、

そこからの質問を、シャットアウトしてしまう。


「そう……」


変わらないのなら、聞くことはないだろう。

まだ、何か言い足りない気がするけれど、答えは全て同じ気がする。



『大丈夫だから……』



こうなるだろう。


「それじゃ、連絡待ってます」

「あ……うん」


何分だろうか。一緒のテーブルに座っていたのは。

啓太は先に立ち上がり、カップを片付けると、店を出て行ってしまう。

遠くなる背中。あの部屋に一人、戻っていく啓太。


もう少し、話しが出来ると思っていたのに……


私は残りの『カフェオレ』を飲みほすと、少し遅れて店を出た。





それから3日後、眉村先生のところに出向き、大変申し訳ないのですがと、

啓太の話しを切り出した。『知人』だと言ってしまうより、

もっと身近に感じてもらえるよう、自分にとって『切り札』を出す。


「エ……」

「はい。実はその彼、園田さんの作品の、モデルになった人なんです」


私は、自分のプライベートだけれど、啓太との関係もそれなりに話しをした。

園田さんとのやりとりなど、細かい部分は、

先生がどこまで知っているのかわからないので、あえて避けたけれど、

眉村先生は、『園田さん』の名前を聞き、それならばと顔色を変えてくれる。


「そう……あの作品の」

「はい。彼が一番お世話になった人だということで、お忙しいところ申し訳ないですが、
私からもぜひ……」


先生が忙しいのはわかっている。

普通ならとんでもないと言いたいところだが、こればかりはなんとしてもと、

必死に頭を下げる。


「いいわよ、中谷さん。お二人の出発でしょう。お店に飾ってもらえるなんて、
私も光栄だし……で、どの作品かしら」


眉村先生は、『野村有紀』として出している作品でも、色々あるので、

どのキャラで描けばいいのかと、質問を返される。


「キャラですか」

「どうせなら、その奥様が好きだという作品のキャラで描いてあげたいじゃない。
ねぇ、聞いてみて」


確かにその通りだ。

眉村先生の好意に甘え、私は啓太にメールを打った。



22-①

《プレラブ プチ知識 タイトル写真》

21 【アレキサンダース・シスター】

★カクテル言葉は『デリケートな神経』

材料はドライジン1、グリーン・ペパーミント 1/2 フレッシュ・クリーム 1/2





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育てた怪獣2匹は、すっかりかわいさを無くしたため、今や『犬愛』に目覚めたお気楽主婦です。日々のちょっとしたこと、趣味で取り組んでいる『創作』を、このブログに書いていきたいと思っています。
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なお、作品の無断転載やお持ち帰りはご遠慮ください。著作権は放棄していません。お願いします。

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