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22 あなたを救う 【カミカゼ】 ②

22-②


カレンダーは9月に入った。

悠は『アルゼンチン』に出発し、私はしばらく寂しい時を過ごすことになる。

それでも、持ち込みの作品を見たり、年末に向けての受賞作品準備などがあり、

それなりに忙しい毎日を送る。


「中谷さん、眉村先生から電話」

「私? あ、はい」


私は書類に付箋を貼りつけ、受話器を上げた。


「もしもし、中谷です」

『あ、中谷さん? 眉村です』

「はい」


眉村先生は、私がお願いしたイラストのプレゼントについて、電話をくれた。

作品名もわかり、構図もだいたい決めたけれど、年末まではやはり難しく、

完成は来年の2月くらいになるのではないかと、そう言ってくる。

私は、時間がかかるのはわかっているのでと、無理しないようにお願いする。


『でもね、東京を年末で離れてしまうのでしょう。それで、とりあえず、
ラフスケッチ程度だけれど、ちょっと描いたものがあるの。今度、
時間があるときにでも、取りに来てもらっていい?』


眉村先生は、とりあえず色紙にイラストを描き、仕上げてくれたと話し、

メールに写真を添付したからねと付け足してくれる。


「私のメールですか」

『そうよ。後で見てみて』


私は自分の携帯を取りだし、片手でメールを開く。


「うわ……」


下書きくらいだなんて、とんでもない。

色紙に描かれたのは、啓太から谷さんの奥さんが好きだと言っていた、

作品の二人が、指輪の交換をしているというシーン。


「先生、これ」

『どう? とりあえず』

「いや、とりあえずではないですよ、これ」


この展開は、本当に予想外だった。

これだけでも十分だと言えるくらい、素敵なものになっている。


「先生、すみません。逆に気をつかわせましたよね」

『そんなことはないのよ、本当に、私の気持ちだから』


先生は、あくまでも気持ちだからと、いつものように明るい声で話しをしてくれる。


『取りに来る日が決まったら、連絡を頂戴ね』

「はい」


私は『ありがとうございました』とお礼を言うと、受話器を閉じた。

あらためて携帯の写真を見る。

この作品では、二人が結婚するところまではいかなかったはず。

だとすると、これは世界に1枚のイラストになる。



なんて贅沢なんだろう……



指輪の交換かぁ……

セレモニーの中でも、大切なシーン。



私は、すぐに携帯で啓太のアドレスを呼び出し、先生からの贈り物について、

メールを打ち込んでいく。

啓太の返事が来たのは、夜8時を回った頃だった。



『コレック 並木通り店』



私は、啓太がお店にいる日に先生のところに顔を出し、

直接、色紙を持っていくことにした。

松岡さんのこと、悠とのデート。園田さんが啓太を見た店。



『並木通り店』には、なんだか縁がある。



私は、とりあえずの手土産を持ち、眉村先生のところに顔を出し、

まずは挨拶をした。


「いえいえ、私と中谷さんとの付き合いを考えたら、これくらい全然」

「そんな……本当にありがとうございました」


私は、以前、先生が開いたイラスト展での金額表を持ち、

支払いはこの価格に沿ってでいいでしょうかと、聞いていく。

眉村先生は、全てただでいいと言いたいところだけれどと前置きをした後、

一応、頼まれごとをしたときには、商売価格の7割にしているからと、

金額を下げてくれる。


「いいのですか?」

「いいの。それも、これから作る方だけよ。この色紙はあくまでもプレゼント。
お金はいらないから」


眉村先生は、園田さんが作品を残せることになった啓太の存在に、

こちらから感謝をしたいくらいだと、そう言ってくれる。


「彼女がいい意味で、吹っ切れたと思うから……」


長い間、影に隠れてきた園田さんが、初めて自分を出せたのが、

啓太をモデルにした作品だった。

これから二度と描く事がなくても、それは一生、残っていく。


「眉村先生がそう言ってくださったこと、話しておきます」

「うん……」


私は眉村先生から、あらためて色紙を受け取る。

手書きのあたたかさが、全体に広がって見えてくるような、指輪の交換シーン、

本当に幸せそうな二人。


「先輩の奥さんが、本当に先生のファンだそうですよ。
紙の作品も全て持ってくれているし、ダウンロードでも、しっかり集めているって」

「まぁ、嬉しい」


眉村先生は、それはこれからも大切にしないとねと、嬉しそうに笑ってくれた。

漫画家というのは、いくら売れっ子であって連載を持てても、

ファンイベントをすれば、抽選になるほどの人でも、

一人ずつの読者がいてくれるからこそ、仕事が成り立っていく。

見えない部分にいてくれる人たちが、全ての作品を支えているのだ。


「作品が出来上がったら、また中谷さんに連絡をするわ」

「はい。よろしくお願いします」


眉村先生からいただいた色紙を握り締め、

私は啓太と待ち合わせをした『コレック』の、『並木通り店』に向かった。

夕方の5時少し前、今から行けば、夕食の混雑前のため、

お店にもそれほど迷惑はかからないと、啓太は言った。

私としては、もっと別の場所でゆっくり話しができた方がいいのではと思っても、

この前の喫茶店同様、啓太本人にその気がないのだから、仕方がない。

先生のご自宅から、徒歩10分程度。

大通りに出て行くと、遠くに『コレック』の看板が見えた。

駐車場に入っていく車、そして出て行く車。

ニュースになり、経営不振が話題になると、客の入りも減るだろうと思っていたが、

満席とは言えないけれど、この時間にしては、結構人がいる。

学生同士の語り合いや、主婦たちの井戸端会議。

ちょっと疲れたサラリーマンの仮眠所にも、ファミレスは変化する。

私が扉を開けると、すぐに案内をしてくれた。



22-③




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テーマ : 恋愛小説
ジャンル : 小説・文学

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Author:momonta
育てた怪獣2匹は、すっかりかわいさを無くしたため、今や『犬愛』に目覚めたお気楽主婦です。日々のちょっとしたこと、趣味で取り組んでいる『創作』を、このブログに書いていきたいと思っています。
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なお、作品の無断転載やお持ち帰りはご遠慮ください。著作権は放棄していません。お願いします。

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