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22 あなたを救う 【カミカゼ】 ④

22-④


もみ合っているように見えていたので、よくわからない。


「救急車を呼んでください。SDが、刺されました」


泣き叫ぶような女の子の声に、私は何も持っていなかったことに気付く。

すぐに店内に戻り、バックをつかみ、また元に戻る。


「私が電話をするから、あなたは……誰?」


店の前にあるレンガの上にバッグを置き、携帯を取り出した。


「バイトです」

「だったら、お店の中にいる人に事情を話して」

「……はい」


突然のことなのに、女の子がパニック気味だったからなのか、

自分自身は、落ち着いて行動が出来た。

あの男性、席についたときから少し目つきが気になった。

まさか、啓太にこんなことが起きるとは予想していなかったが、

今は、余計なことを考えていられない。


「もしもし……救急車をお願いします。『コレック』の『並木通り店』の前です」


啓太の右肩、左手で押さえているけれど、あっという間に血で染まっていく。

左手にも、庇おうとしたときに切られたのか、傷があり、容赦なく血がつきはじめた。

啓太の顔は、当然だけれど青ざめていて……


「啓太……しっかりして。今、救急車来るから」


啓太はわかっているという意味なのか、何度か頷いた。

それにしてもひどいのは右腕。何か、止血が出来るものはないだろうか。

彼女が呼びに行ってくれたようで、中からコック姿の男性が出てきてくれる。


「岡野さん……」

「救急車がすぐに来ます。すみませんが、止血できるようなもの……
大きなナフキンとか、ありませんか」

「あ……はい」

「病院には私が付き添います。彼の知人ですから」


私がそういったことで、コック姿の男性は、安心したようだった。

持ち場を離れられないことくらい、私にだってわかる。

騒動に気付いたのか、数人の客が入り口からこっちを見ている。

中には、非常識にも携帯のカメラを向ける人もいた。

私は、啓太の前に入り、そんな写真に入らないようにする。


「あの……これは」


コック姿の男性は、真っ白いタオルを持ってきてくれた。

私はそれを受け取る。


「ありがとうございます」


とにかく、出血の勢いを止めないと。

それにしても全く……どうしてカメラなんて向けるのよ。

こんなものをどこかに載せるのだとしたら、神経疑うわ。

私はそういう意味を込めて、止血をしながら、カメラを構えた人を睨みつける。

さすがにまずいと思ったのか、男性はそそくさと店内に戻った。

道路をサイレンが響き、私が手をあげると停まってくれる。


「すみません」

「怪我をされたのは……」


私は啓太を隊員にお願いし、事情を話す。


「刺された?」

「はい。男性客でした。向こうに向かって逃げていって」


警察にも話さなければならないが、とりあえず啓太を運んでもらうことが先だ。


「どうされますか」

「一緒に行きます」


私は救急車に啓太と一緒に乗ると、応急処置の邪魔にならないよう、

車の隅に座った。





啓太を病院に運んでもらって、処置室の前に座っていたとき、

初めて大変なことに気がついた。



眉村先生から渡された色紙。



テーブルの上に置きっぱなしだ。



忘れ物として取ってくれていたらいいがと思いながら、

啓太の血がついた手を洗っていると、

スーツ姿の男性が一人、病院内に入ってきた。

手に持っているのは……



「すみません、『コレック』の谷と申します」

「あ……あの……中谷未央です」


私は、忘れ物を持って来てくれたのだと思い、すみませんと頭を下げる。


「あ……あなたが中谷さん」

「はい」


今、『谷』と自己紹介してくれた気がする。

ということは、この人が、啓太の先輩。

私の名前を知っていてくれたと一瞬驚いたけれど、そうか、イラストを頼んだから、

そこから聞いているのだろう。


「そうでしたか。こちらこそ色々とすみませんでした。
あの、僕が谷です、岡野がイラストをお願いした……」

「はい」


啓太が世話になったという、谷先輩。

私は、あらためてすみませんと頭を下げた。





トラブルが起こったけれど、思いがけない形で、色紙が本人のところに渡った。

谷さんは、今日のことについて、話してくれる。


「岡野を刺したあの客は、この2ヶ月くらい前から店によく来るようになって、
ウエイトレスの女の子に、声をかける男だったそうです」


私の前に座っていた男性は、自分がお気に入りのウエイトレスが仕事をしていると、

その子の仕事終わりを狙い、声をかけている常習犯だったという。


「声をかけて、話しかける程度なので、
バイトの子が気持ち悪がっていると警察に言っても、逮捕は出来なくて。
店側もマークはしていたようなんです」


被害というレベルではないため、警察に話しても、動いてはもらえなかったという。


「帰りを追いかけるとか、個人情報を聞きだそうとすればそれは一歩進みますが、
今、仕事が終わったの? とか、お店のメニューでこれが美味しいよねとか、
まぁ、毎日1、2分の声かけだったようで」


確かに、ウエイトレスのユニフォームは、かわいらしい。

注文したものを運んできて、会釈などしてもらうと、勘違いする人も出るのかもしれない。


「ただ、今日は嫌がるバイトの手をひっぱっていたということで、
岡野が飛び出したようなんです」


バイトを終えた女の子が、話しかけられるだけではなく、

手を引っ張られていたのを見て、啓太は外に飛び出した。

従業員の勤務環境を整えるという啓太の仕事内容からすると、

当然とも言える行動だった。

こういったことはしないで欲しいと、注意したようだったが、

男性は、自分の行動を無理に止められたと思い、隠していたナイフを取り出し、

啓太の腕を刺したという。さらに怖くなり動けなくなった女の子の方へ向かった男を、

啓太は必死に左手で追い払った。


「実際に事件が起きて、こうなって初めて、警察が動くんですよね……」


谷さんは大きくため息をつく。


「あいつも……こうだと決めると、無鉄砲なところがありますから、昔から」



『昔……』



谷さんは、啓太のことを知っている。

私は、この人なら、私の知らない啓太を教えてくれるのではないかと、

瞬間的にそう思った。



22-⑤




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テーマ : 恋愛小説
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Author:momonta
育てた怪獣2匹は、すっかりかわいさを無くしたため、今や『犬愛』に目覚めたお気楽主婦です。日々のちょっとしたこと、趣味で取り組んでいる『創作』を、このブログに書いていきたいと思っています。
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なお、作品の無断転載やお持ち帰りはご遠慮ください。著作権は放棄していません。お願いします。

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