FC2ブログ

22 あなたを救う 【カミカゼ】 ⑤

22-⑤


病院の時計が、夜の7時を回る。



啓太が世話になったと言っていた谷さんと、思いがけない場所で会うことが出来た。

『昔から』というキーワードを出され、

この人ならば、私の知らない啓太を教えてくれるかもしれないと、そう思ったが、

どう聞きだせばいいのか、それがわからない。


「あの……谷さんは、啓太と職場の先輩と後輩と言うことですよね」


私は、眉村先生にイラストをお願いしたという事実を使い、

少しだけ二人の過去に触れてみようと思い、話しかける。


「あぁ、はい。でも、岡野とは大学時代からの腐れ縁のようなところがありまして」

「大学……ですか」


啓太が大学を出ていることも、今、この場所で知った。

本当に、一緒にいた8ヶ月間、

プライベートのことは、ほとんど話したことがなかったから。


「新聞奨学生ってご存知ですか? 新聞配達をする代わりに、
学費の援助をお願いするという制度なんですが、僕も岡野も、
それを使って大学に行きまして……」


谷さんは、お父さんを中学生の時に病気で亡くし、

お兄さんも同じ『新聞奨学生』の制度を使い、大学まで出たという。

啓太も、ご両親の片方がいないということだろうか。


「でも僕は、朝早く起きたりすることに、結構文句ばかりを言っていて。
兄がしていたから、仕方なく始めたのですが、岡野はそんなこともなく、
とにかくもくもくと仕事をしていました。年齢は2つしか違わないのに、
なんだか妙に落ち着き払っているのが、最初は癪でね。
でも、あいつの事情を知って、納得できましたが」


啓太の事情……


啓太には、どんな事情があったのだろう。


「あの……」

「はい」

「妙な言い方かもしれませんが、私、啓太のことを何も知らなくて。
教えて欲しいと話しても、彼からもほとんど聞いたことがありません。
谷さん……啓太のことを、私に教えてくれませんか」


谷さんは、私の方を向き、黙ってしまう。

やはり、こういう言い方は、おかしいのかもしれない。


「中谷さん……」

「はい」

「実は……このイラストの件とは別に、
僕もあなたにお会いしたいと思っていました」


谷さんが私に……


「はい……」

「岡野とは、大学時代から長く続いた縁ですが、今回、職場の事情で、
僕は家内の実家の方へ引っ越すことになります。もちろん、あいつとの関係は、
遠くなってもこれからも変わらないと思いますが、複雑で、わがままなあいつのことを、
いや、あいつの色々な事情を理解してくれている人がいないのは、
正直、辛いところなんです」


谷さんは、啓太はとにかくマイペースだと笑い出す。

私もそれは納得できるので、しっかりと頷いた。

啓太には、啓太のリズムや、思うことがしっかり固まっている。

周りで嵐が起きても、自分がそれには関わらないと決めたら、

どんなことになっても、動こうとはしないくらい。


「あなたには話しをした方がいいと、思っていたのですが、あいつはああいう性格なので。
今日は、僕なりの思いを、言葉にさせてもらいます。
今、中谷さんが知ってみたいと言ってくれたので、それに甘えて」


谷さんはそういうと、話しを戻しますねと手をグルッと回してくれる。


「なぜ、癪に障るようなあいつのことを、認めたのかというと、
あいつは僕よりももっと厳しい条件の中、生きてきたからです。
高校の先生がいい先生だったんですよ。親がいなくなったあいつを、
知り合いのスナックのお母さんにお願いして、2階に部屋を貸してもらったそうです」



両親がいない……



「あの……啓太のご両親は、いないのですか」

「はい……。高校3年の春に、お父さんが亡くなったそうです。
まぁ、仕事も積極的ではなく、お酒ばかり飲んでいて、
あまり家にいなかったようですが。母親の方は、あいつが小学校にあがってすぐ、
家を出ていったみたいで」



そうだったんだ……

私は、当たり前のように誰でも親が揃っていると、そう思っていた。

啓太も、東京ではないが、実家には両親が揃っているのだと、

どちらもいないなんて、考えてみたこともなくて……


「あの……知り合いのスナックって、もしかしたら4畳半の部屋ですか?
えっと……確か『蘭』……」

「あ、そうです。中谷さんも、あいつから聞きましたか」

「いえ、別のことで、ちょっと聞いたのですが。いつ住んでいたのと聞いたら、
そこからは全く話してくれなくて」


香澄ちゃんが家を飛び出して、行くところがないというとき、

そういえば、啓太は知り合いの叔母さんに、スナックの2階を貸してもらったと、

そう言っていた。そこは昔、自分が借りた場所だった。


「岡野は頭がよかったから、高校の先生が、あいつを説得して受験させたそうです。
奨学金も利用して、さらに新聞配達をして、あいつは頑張っていましたよ。
そんな姿を見せられたら、僕は自分は甘いなと……」


谷さんは、2つ年下の啓太を見ながら、

なんとか自分も続けてこられたのだと、話してくれる。

私が知らない啓太の一面。

『家族』の話しなどしたことがないのは、ただ嫌なのだと思っていたが、

話せる家族という存在が、すでにいなかったのだと納得する。


「大学を卒業して、あいつは別の企業に入りましたが、28になった頃だったかな、
体を壊して、入院するようになって……」



病気のこと……

谷さんなら、そのあたりも全て、知っているのだろう。


「あの……」

「はい」

「啓太の病気のことは、私も少し知っています。『悪性リンパ腫』だったと」


その治療の中で、啓太は子供を作ることが難しくなったのだと、

あの日、『ブルーストーン』で私は聞いた。

話しを聞きながら、とにかく悲しくて苦しくて、私は涙を流した。


「……はい。あぁ……」


谷さんは、何かを思い出したのか、何度も頷いている。


「そうでした。『ブルーストーン』で出会ったのが、中谷さんですからね」


谷さんにそう言われ、私は『はい』と返事をする。


「あぁ……そうでした」


啓太にとって、この人は、本当に兄のような人なのだろう。

私の知らないことを、たくさん知っている。


「病気になって、治療をするのは当たり前だけれど、
どうしてあまりにも潔くやったんだって、僕も言いました。
実際、啓太が当時の彼女と別れたのは、そこが理由でしたしね」


あの日、一方的に話しをしていた女性は、やはり啓太の彼女だった。



23-①

《プレラブ プチ知識 タイトル写真》

22 【カミカゼ】

★カクテル言葉は『あなたを救う』

材料はウオッカ 3/4、ライムジュース 1/4、ホワイトキュラソー 1tsp. ライムスライス





コメント、拍手、ランクポチなど、みなさんの参加をお待ちしてます。 (。-_-)ノ☆・゚::゚ヨロシク♪

テーマ : 恋愛小説
ジャンル : 小説・文学

コメント

非公開コメント

プロフィール

momonta

Author:momonta
育てた怪獣2匹は、すっかりかわいさを無くしたため、今や『犬愛』に目覚めたお気楽主婦です。日々のちょっとしたこと、趣味で取り組んでいる『創作』を、このブログに書いていきたいと思っています。
飲み物片手に、立ち寄ってくださいね。

なお、作品の無断転載やお持ち帰りはご遠慮ください。著作権は放棄していません。お願いします。

発芽室、ただいま連載中!
あなただから、全てを知りたい……
カレンダー
10 | 2018/11 | 12
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 -
カテゴリ
リンク
FC2ブログランキング
小説・文学部門に参加しています。

FC2Blog Ranking

最新コメント
最新記事
いらっしゃいませ!
RSSリンクの表示
アクセスランキング
[ジャンルランキング]
小説・文学
270位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
ロマンス
4位
アクセスランキングを見る>>
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

月別アーカイブ
最新トラックバック