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23 戸惑いの中で 【ウイスキーミスト】 ①

23 戸惑いの中で
23-①


『ブルーストーン』で、一方的に啓太を責めていた彼女。

別れの理由は、病気と治療のこと。


「彼女も、治療は必要だけれど、どうして先に自分に相談してくれなかったと、
怒ったそうです。確かに今は、医学で色々と方法があっただろうにと、
僕も言ったんですよ。でも、あいつは、全く違うことを考えていたみたいで」

「違うこと……」

「両親のことです」


すでに亡くなっている啓太の両親。


「あの親たちの遺伝子を、自分の子供として残す理由が、
全く感じられなかったと……そう言いました。父親は岡野が小さい頃から、
働くよりもお酒を飲んでいるイメージしかない人で、
母親は、そんな父親に文句を言いながら、飲み屋でずっと働いていたそうです。
でも、岡野が小学生になったとき、店に出入りしている男性と、かけおちしてしまって。
それ以来、今も会ったことがないと……」


門限やしつけに厳しい私の父、その父に逆らわずに、家事をこなしてきた母。

総合病院の院長を友人に持ち、しっかりと聡明な悠のお父さんと、

今でも息子の部屋に訪れ、世話をやくお母さん。

いや、ひとみのご両親や、その舅さん、姑さん、

川口編集長や眉村先生だって、親としての一面もある。

私の知っている人たちはみな、形は違うけれど、それほどおかしな道を、

歩いているわけではない。


子供を残し家を出て行ったり、お酒を飲みすぎて働けないなんてこと、

私の知っている回りの人には、今までいたことがない。


「『家族』というものに、どう未来を見たらいいのか、
あいつにはわからなかったのでしょうね。いつも決断をするのは自分で、
常に一人だったから」


話しを聞けば聞くほど、啓太のことを知れば知るほど、

私の心は、どんどん締め付けられていく。

『家族の愛』を知らない啓太は、それを目指すことも出来ずに、

あの日、『ブルーストーン』で自分の目の前から去っていこうとする人を、

止めることも出来なかった。


「明日また、朝、元気におはようと言えるのは、未来だと……」



『明日また……』



「あいつにそう言ったのは、中谷さんだったんですね」


谷さんは、啓太がその話しをしたときに、とても嬉しそうだったと言い、

自分もほっとしたのだと、私を見る。


「時々会って酒を飲んでも、口数は多くないのに、
その話しだけは僕にしてくれました。ただ、相当酔っていたので、
本人が覚えているのかどうかと……あいつには珍しく笑いながら……」


私は、覚えていなかった。

啓太の話しを、その時は一生懸命に聞いていたはずなのに、

記憶がしっかりしてから、『そのとき』を楽しむ間柄になろうと言われ、

ただ、納得してしまった。



『そのとき』という言葉に、深さがあったことなど、

考えもしないで……



「谷さん……」

「はい」

「色々と、教えていただいて、ありがとうございました。
私は啓太のことを、何も知らなかったのだと、いまさらですが……」


谷さんは、それは仕方がないですと、首を振る。


「おそらく、これだけわかっているのは、僕だけだと思います。
うちも父親がいなかったり、ハンデがある家なので、話しやすかったのだと思うし。
だからなのか、あいつはバイトの学生でも、なんとかしてやりたくなるみたいで……」


自分が親に恵まれていなかったからこそ、親に反発して、家を出て、

自分を大切にしないような香澄ちゃんを、啓太は必死に救おうとした。

あのときには、ただ、怒って言葉をぶつけた私。

この話しを知っていたなら、もっと違う対応が出来たはず。


「あんなに愛想なしなんですけどね、そういうところがあるからなのか、
後輩には結構慕われています」


谷さんはそういうと、椅子から立ち上がった。

啓太が運び込まれた処置室のライトが消える。

私もその場で、立ち上がった。

扉が開き、担当の医師たちが外に出てくる。

谷さんがそばに行き、啓太の様子を聞いている。

その横を、ストレッチャーに乗せられた啓太が、運ばれていった。

口には酸素マスクだろうか、麻酔をかけられているのだろう、

まだ眠っているように思える。



思っていたよりも……怪我は大変なのかもしれない。



私の横を、担当してくれた医師や看護師が通っていく。

何やら手振りを使い、谷さんに啓太の状態を説明しているように見えた。

腕の傷、深かったのだろうか。

谷さんが頭を下げると、担当の医師はそれに返礼し、扉の外に消えた。


「中谷さん、病室まで行きますか」

「はい」


私は谷さんの後を着いていく。


「思っていたよりも、岡野の腕の傷が深かったそうです。
損傷箇所はしっかり処置してくれたようですが、
傷口がしっかりふさがってから、少し訓練をしないとダメだと」

「訓練……ですか」

「はい。指先まで元通りに戻るとは思いますがと……」


100%ではないのだろうか。

啓太の右手。


私たちは病室まで、啓太とは別のエレベーターであがる。

ナースステーションがあり、その2つ隣の部屋。

今夜はここで過ごすと教えてもらう。

同じ部屋にいる別の家族に頭を下げ、私と谷さんは、啓太の横につく。

看護師は、あと30分もしないうちに目を覚ましますよと、教えてくれた。

啓太の胸が、ゆっくり上下しているのを見ながら、

確かに生きていると、それがわかる。


「すみません、会社に電話をしてきていいですか」

「はい」


谷さんは、会社に手術が終わったことを報告してくると言い、

一度病室を出て行った。私はベッド横にある椅子に座り、啓太の顔を見る。

少し首が動き、まぶたがピクッと動く。

ベッドの横にあった左手が、何かを探しているように見えた。

少しだけ指が動き、握るのかと思ったけれど、また開いてしまう。

私は思わず、自分の手を啓太の手の前に出した。

私の指に触れた啓太の左手は、1本が2本、そして左手全体で、

私の手を握ってくれる。



『未央……』と、握り締めてくれたあの頃のように……



啓太のまぶたが少しずつ動きだし、左手は私の手を離した。



23-②




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テーマ : 恋愛小説
ジャンル : 小説・文学

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育てた怪獣2匹は、すっかりかわいさを無くしたため、今や『犬愛』に目覚めたお気楽主婦です。日々のちょっとしたこと、趣味で取り組んでいる『創作』を、このブログに書いていきたいと思っています。
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なお、作品の無断転載やお持ち帰りはご遠慮ください。著作権は放棄していません。お願いします。

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