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23 戸惑いの中で 【ウイスキーミスト】 ②

23-②


眩しいのか、啓太のまぶたは少し開いた後、また閉じられる。

そんなことが2、3回繰り返され、やがてハッキリと目が開いた。


「啓太……」


私の呼びかけに、啓太が小さく頷いてくれる。

よかった……。

意識が戻ったことがわかり、とにかく嬉しくて涙が出る。

何かを言おうとしているのか、口元が動くけれど、

まだ意識は、朦朧としているのだろう、何を言っているのかわからない。


「何も言わなくていいから。今、谷さんが会社に連絡をしてくれている」


心配することなど、何ひとつない。

私はそう言ったつもりだが、啓太の目は、じっとこっちを見たまま動いていない。



啓太……



そんなふうに見られていたら、何か言いたいことがあるのかと、そう思ってしまう。

伝えたいことがあるのかと……。


「中谷さん……あ、岡野!」


谷さんが病室に戻ってきて、啓太に声をかけた。

隣の人がいたことを忘れ、大きな声を出してしまったため、

谷さんは『すみません』と頭を下げる。


「よかったな、お前」


啓太は谷さんに視線を向け、軽く首を縦に動かした。

『すみません』という気持ちの表れだろう。


「今、起きました」

「そうですか……ったくお前は、心配させるなよ」


私は谷さんに場所を譲り、一度病室を出た。

気を緩めてしまうと、泣いてしまいそうで怖かった。

これから啓太は、どれくらい入院し、

以前の生活に戻るまで、どれくらいかかるのだろう。



私は……



何かをしてあげることも、ダメなのだろうか。



休憩室まで進み、携帯を取り出した。

着信記録も、メールのやり取りも、ほとんどが悠とのもの。



『未央、飛行機の長さに、すでに気持ちが折れそうです』



悠……



日本に戻ってきたら、愛知のご両親に会いに行こうと、そう言っていた。

私を、初めて見た時から、ずっと好きだと言ってくれた人。

啓太と別れた後、私自身が悠との時間を動かした。

悠なら、これからも優しく包んでくれることは間違いないはず。



もう、私は別の道を歩き出した。

啓太もそれは、わかっていること。



たとえ、何があっても……



私は、悠を裏切ってはいけない。



待合室の窓から外を見ると、すっかり夜の景色だった。





そのまま病室に戻ると、啓太の意識はもっとしっかりしていて、

谷さんからは笑い声も出ている。


「あ……中谷さんが戻ってきた」

「すみません」


今日は手術後なので、少し安静にした方がいいということもあり、

私たちの面会は、そこまでになった。

谷さんは一緒に病室を出てくれる。


「岡野、それなら明日また、来るからな」


谷さんの言葉に、啓太は左手を少しだけ上に向ける。

私は、また来るとも言えないまま、その後に続いた。


「中谷さん」

「はい」

「あいつのところにはもう……戻れませんか」


谷さんは、エレベーターを待つ時間に、そう言った。


「すみません。去年の秋に別れたと、あいつからは聞いたんですけど、
でも……こんなことになって、あいつも色々あるでしょうし、
さっき話しをした通り……」

「すみません、話しだけを聞いておいて」

「いえ、それはいいのですが」


私は、『別の方とお付き合いを始めました』と、正直に話す。


「あ……そうですか……」


谷さんは、少し残念そうな顔をしたが、

すぐにそれならば、仕方がないですねと言ってくれる。

その時、谷さんが1枚の紙を持っていることに気付いた。

『入院について』と書いてある用紙には、必要なものが記されている。

エレベーターは1階に到着し、最寄り駅に向かって歩き出す。

啓太とは戻れないと言ってしまったから、話すことが見つからない。


「入院の、荷物の紙ですね」

「はい、そうなんです。看護師から渡されて。で、明日にでもあいつのところにいって、
とりあえず持っていかないとならないのですが」


谷さんは、啓太の部屋には、2回くらい入ったことがあるけれど、

タンスなど開けたこともないからと、軽く頭をかく。


「あの……手伝います」

「エ……」

「啓太のマンション。私の職場の近くなので、時間を教えていただけたら、
合わせて行きます」


荷物作りくらいなら、手伝ってもいいだろう。

男性には、わからないこともあるだろうし。


「いやぁ……すみません、いいのかな」

「そんなことくらいしか、出来ることがないですから」


私はそういうと、自分の携帯番号を谷さんに教えた。

駅についたくらいで電話をもらえたら、すぐに行きますとそう話す。


「すみません、それじゃ遠慮なく」

「はい」


何もしてあげられないけれど、何もしないのでは気が済まない。

私は『それでは明日』と駅でお別れし、自分の部屋へ戻った。





一人の食事、いつものことなのに、なんだか寂しい。

谷さんは、啓太は高校時代から、一人だったとそう言っていた。

スナックの2階で、まだ10代だった啓太は、

こんなふうに一人で食事をしていたのだろうか。


以前、啓太に夢はなかったのかと、聞いたことがあった。

あったけれど、いつの間にか忘れたと、そのときには言っていたけれど、

確かに、日々の生活に明け暮れていたら、叶わないかもしれないことなど、

追いかけている時間などないだろう。

毎日働いて、勉強して……


啓太は、生きていくことで、必死だった。


毎日が……

次の日を迎えられることが、彼にとっては常に『未来』だったのだ。



その日は、しばらく眠れない時間を過ごしていたが、

涙を拭き続けていたら、いつの間にか眠っていた。



23-③




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テーマ : 恋愛小説
ジャンル : 小説・文学

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育てた怪獣2匹は、すっかりかわいさを無くしたため、今や『犬愛』に目覚めたお気楽主婦です。日々のちょっとしたこと、趣味で取り組んでいる『創作』を、このブログに書いていきたいと思っています。
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