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23 戸惑いの中で 【ウイスキーミスト】 ③

23-③


仕事をしていた10時過ぎ、谷さんからの連絡が入った。

私は『わかりました』と返事をし、そのまま編集部を出る。

少し出かけてきますと言うだけで、原稿を取りに行くのかと思ってもらえるのは、

この職場のいいところ。

谷さんよりも遅く着くのでは悪いので、少し早足で進む。

啓太のマンション前に着いたが、まだ谷さんの姿は見えなかった。


『303』


啓太の部屋の番号。

何度もこの番号を押し、インターフォン越しの声を待った。

季節は秋……

啓太と別れを決めたのは、28歳になる少し前。

もうあれから、1年になろうとしている。


「すみません」

「あ、いえ……」


中谷さんは、啓太のバッグを『並木通り店』から持ってきたようで、

すぐに鍵を出してくれる。久しぶりに入ると思うと、なんだか緊張した。

一緒にエレベーターに乗り、そして『303』を目指す。

鍵を開け中に入った。

以前、体調が悪くなった啓太のところに来た時のような、荒れた感じはない。

久しぶりに入ったからなのか、レイアウトも変わっていないのに、

匂いを忘れてしまっていた。



懐かしい啓太の匂いが……この部屋にはある。



「えっと……まずは下着と」

「タンスはここです」


この部屋に引っ越すと知って、私が頼んだベッド。

その横にあるタンス。


「あぁ、はいはい」


台所に行くと、洗おうと思っていたのか、そのままのお皿が数枚あった。

私はスポンジに洗剤をつけ、全て洗ってしまう。

啓太はしばらくここには戻ってこられない。

だから、綺麗にしておかないと。

戻ってきた時、洗い残しがあるのは、かわいそうだ。

谷さんが荷物を作っている間に、洗濯物がないかをチェックする。

クリーニングに出していたのだろうか、

まだビニールに入ったままのワイシャツが数枚、キッチンの端においてあった。

私は以前、一人でここに来た時、押入れを開けたことがあって、

そこにケースがあったことも思い出す。

全て閉まっておこうと思いながら、押入れの襖を開き、ケースを動かす。


「あ……」


ケースの脇から、リボンのついている細長い箱が落ちた。

小さなメモが、挟まっていたリボンからさらに床に落ち……



『未央 誕生日おめでとう』



その文字を、目で見てしまった。




……ウソ




これ、私への誕生日プレゼントってこと?

1年前の……




「あとは……」


同じ部屋にいた谷さんが、リビングに動いた。

私は箱を拾う。




誕生日のことなんて、啓太と過ごしている中で、

一度も話題にあがったことはなかった気がする。




私と啓太が出合ったのは、12月だった。

そこから春、夏と季節が動き、もうすぐ28になると思っていた9月。

そう、誕生日の本当に少し前、突然、別れることになった。




思い出作りなんて、一度もしたことがなくて、旅行に行こうと言っても、

必要ないと無視されていた。

未来なんて考えていないと、腹を立てることばかり言われたけれど、

でも……



誕生日のこと……いつの間にか知ってくれていた。



なんなのよ……これ。

どうして今、ここにあって、落ちてくるのよ。



「だいたい揃いました。あとは印鑑かな」


谷さんの声が聞こえ、私は思わず手に取った箱を、

下に置いた自分のバッグに入れてしまう。


「印鑑……どこかな」



ダメ……何をしているの。

この箱が、いくら私に向けたものだとしても、勝手に持ち出したら泥棒になる。

それに、1年も前のことで、私は今、もうこれを開く資格もない。



でも……



「あ、あった。よし」



谷さんが近づき、私は箱を戻せなくなる。


「すいません、手伝うようなことを言っておいて、全然」

「いえ、そんなこと……細かいところに気がついてもらえて助かりました。
お忙しいのに、ありがとうございました」


谷さんは、啓太の部屋にあったバッグを持つと、部屋の電気を消す。

このまま病院に向かうつもりなのだろう。



ほら、未央。

箱を戻さないと。


「どうしました」


谷さんは、私の様子がおかしいと思ったのか、そう聞いてくる。


「すみません……」


もう一度、啓太と会って、話しがしたい。

私の心が、そう頭に要求する。


「谷さん、私も啓太のところに行きます」


啓太と話をしよう。


「中谷さん」

「はい」


谷さんは一度言葉を止め、あらためて私を見る。

昨日見せてくれた表情とは違っているのが、よくわかった。



23-④




コメント、拍手、ランクポチなど、みなさんの参加をお待ちしてます。 (。-_-)ノ☆・゚::゚ヨロシク♪

テーマ : 恋愛小説
ジャンル : 小説・文学

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拍手コメントさん、こんばんは

>前の恋に戻らないで。お願いよ。

コメント、ありがとうございます。
未央も揺れています。
どうなるのかは、このままお付き合いください。
プロフィール

momonta

Author:momonta
育てた怪獣2匹は、すっかりかわいさを無くしたため、今や『犬愛』に目覚めたお気楽主婦です。日々のちょっとしたこと、趣味で取り組んでいる『創作』を、このブログに書いていきたいと思っています。
飲み物片手に、立ち寄ってくださいね。

なお、作品の無断転載やお持ち帰りはご遠慮ください。著作権は放棄していません。お願いします。

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