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23 戸惑いの中で 【ウイスキーミスト】 ④

23-④


「もう……ここで終わりましょう」




終わり……




「岡野のところには、僕一人で行きます」


谷さんは、ここまでで十分ですと、私を玄関へ向かわせようとした。


「谷さん」

「気を悪くされたらすみません。でも昨日、中谷さんの今をお聞きして、
僕がそう考えました。人は弱いものです。病気とか、怪我とか、
気持ちが落ち込むとき、そばに来てもらえると、
そのままその時間が続くのではと、勘違いするかもしれません。
岡野自身があなたと別れを決めたのだとしても、こんなとき、顔を出してもらったら、
明るく接してもらったら、揺らぐこともある気がするのです。
それは、中谷さんにとって、いいことではないと思うので」


谷さんの言葉は、当たり前の話だった。

私は、もう新しい恋人がいると、そう宣言した。

啓太のところに行きたいというのは、自分の勝手な思い。

啓太の気持ちなど、そこに含まれていない。


「今のあいつには、そう思わせたくなくて……すみません」


謝られるようなことではなかった。

愚かなことを言い出したのは私の方だ。


「そうですね、すみません」

「いえ、こちらこそ、申し訳ないです。
昨日、よく考えずに色々と岡野のことを話してしまって」

「そんなこと……聞きたいと言ったのは、私です」


そう、過去を教えてくれと迫ったのは、私。


「大丈夫ですよ、あいつは芯の強さを持っていますから」


谷さんは、私が気にしないように、そう言ってくれた。

これ以上、入り込むのは無理だと思い、一緒に玄関に向かう。

私は、啓太の怪我が治るのを、離れた場所で祈るだけしか出来ない。



そばで励ましたり、手を貸すようなことを、してはいけないのだ。



「ありがとうございました」

「いえ……」


駅に向かう谷さんの背中を見送り、その姿が曲がり角に消えた後、

私は編集部に向かって歩き出した。



横断歩道を渡り、数分歩いた時、大事なことを思い出す。



『誕生日プレゼント』



隠したつもりで、谷さんに見つからないように戻すつもりで、

面会を拒否されたことが頭を埋めてしまった。



どうしよう……持ってきてしまった。



私はそこから慌てて谷さんを追いかけた。

みっともない話だけれど、思いがけないものを見つけて、反射的に持ってしまったと、

正直に伝えるしかない。それでもとりあえず渡せば、

谷さんことだ、黙って知らないふりをして、部屋に戻してもらえるかもしれない。


「はぁ……はぁ……」


頑張って走ってきたのに、あれから5分くらいしか経っていないはずなのに、

谷さんの姿が見えない。

駅に向かうのならこの道だけれど……



『コインパーキング』



今まで、気にしたことがなかった場所。

もしかしたら、こういった場所に車を停めていたのだろうか。

電車で来たと決めていたけれど、荷物を持っていくのだから、車かもしれない。



それからも駅に向かい、30分近く待ってみたが、谷さんは現れなかった。





私は、『泥棒』になってしまった。



そのまま啓太のマンションにもう一度戻り、ポストへ入れようかと思ったが、

それもまた、おかしな気がする。

勝手に見つけて、盗んでおいて、あとは知りませんというのでは、

あまりにも自分勝手。


「あ……」


そうだ、谷さんと携帯の番号を交換していたことを思い出した。

今日のために、昨日。

履歴から谷さんの番号を押せば……




ただ押すだけで、谷さんにつながるはずなのに、

私の指は……その番号を押すことなく、そのままになる。




自分が勝手に持ち出したくせに、谷さんを呼び出して、戻してもらうつもりなのか、

それはあまりにもずうずうしい。



いや……違う。



今、心のどこかで、『返したくない』と思っている自分がいる。

啓太が私に、何をくれようとしたのか、知ってみたいという思いが、

申し訳ないことに勝っている。



足だけは編集部に向け、戻ってからも手だけはそれなりに動かすけれど、

その日、それからの仕事は、あまり集中できなかった。





二宮さんと吉田さんが、飲みに誘ってくれたが、つきあう気持ちにもなれず、

重たい足をひきずりながら、部屋に戻る。



『未央 誕生日おめでとう』



細長い箱と、啓太が手書きをしたと思えるメモだけが手元にあった。

どこで買ったのだろう。

綺麗な包装紙だけれど、店名は書いていない。

細長い箱からして、ネックレスだろうか、それとも時計とか……

私の職業を考えて、万年筆などもあるかもしれない。



『今のあいつには、そう思わせたくなくて……すみません』



谷さんは、素敵な方だった。

啓太のことも、本当の弟のように心配してくれているからこそ、

戻ることがない私を、遠ざけようとした。

相手がいると宣言した私。

そんな私が、自分の気持ちだけでそばに行っても、

辛いのは、啓太だと言うことを誰よりも知っているから……



啓太の入院した部屋。ナースステーションに近かったけれど、

1日経って変わっただろうか。

出血のひどかった右腕と肩、切り傷がついていた左手。

痛みは少し、取れただろうか。

神経部分の傷は治って、今まで通り、右手は動くだろうか。



啓太は……



私は……



本当に、この別れ方でよかったのだろうか。



23-⑤




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テーマ : 恋愛小説
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育てた怪獣2匹は、すっかりかわいさを無くしたため、今や『犬愛』に目覚めたお気楽主婦です。日々のちょっとしたこと、趣味で取り組んでいる『創作』を、このブログに書いていきたいと思っています。
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なお、作品の無断転載やお持ち帰りはご遠慮ください。著作権は放棄していません。お願いします。

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