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23 戸惑いの中で 【ウイスキーミスト】 ⑤

23-⑤


1年前、私が啓太との未来を見たいと言い、その道筋は作れないとわかっていた啓太は、

『約束をすっかり忘れていた私』を責めることなく、外の世界に手離してくれた。

確かに、キツイことを言われたり、悲しいこともあったけれど、

今思えばそれは、私が『過去』を思い出さなくても済むように、

啓太が必死に繕ってくれていただけのことだった。

自分がとんでもないくらい嫌な人になれば、私は新しい恋に躊躇なく踏み出せると、

きっと、知り合って時を重ねていた頃から、考えていたのだろう。



『未央 誕生日おめでとう』



それでも、28歳の誕生日は、一緒に迎えてくれるつもりで……



啓太の家は、大黒柱にならなければいけない父親が働かなかった。

お母さんは、必死に頑張っていたとはいえ、結果的に『母として』の心を捨て、

啓太が小学生の時、他の男性と逃げ、別に生きる道を選んだ。

最低限、そばにいたにしても、啓太が高校時代に亡くなった父親は、

生きている時に、おそらく親らしいことなどしないままだったろう。

当たり前にあるはずの、親の愛に恵まれなかった啓太。

その幼い頃の記憶が、以前千波ちゃんが言っていた『トラウマ』となった。

家族を持つという未来を、頭から排除してしまった結果、

啓太は病気の治療だけを優先した。

彼女に責められながら、重苦しい時間を送っていたあの日。

啓太は初めて、『後悔』していたかもしれない。



子供というのは……『過去』を引きずるものではなく、

自分と相手の思いが重なって生まれる『未来』だということ。



治療に踏み切る前に、どうして自分に相談しなかったのかと、怒りをぶつけた彼女と、

話しを聞き、懸命に励ましながら、泣き続けた私を見ながら、

啓太は、『同等でいる』ということの難しさを、知ったはず。



そう、啓太は私と別れて別の人を探すことなど、最初から考えていなくて。

これからずっと、ひとりで生きていくつもりなのだろう。



誰のことも傷つけたくないし、

傷つく相手を見て、自分も傷つきたくないから。



何でも一人で決めてきた啓太は、人に頼ることもわからなくて……



『甘える』ことは、予想がつかないくらい難しいことになってしまって……



私は、両手で箱を持つ。

しばらくその箱を見つめた後、汚さないように棚の上に置いた。





啓太の事件が起こってから数日後、『アルゼンチン』から悠が戻ってきた。

地球の裏側から戻ってきたというのに、『会いたい』とすぐに連絡をくれる。

こうなることは予想していて、嬉しい気持ちがあるはずなのに、

メールに返信を入れようとした私の指は、そこからうまく動かない。


喜びはあるのだけれど、それより大きな戸惑いが、

自分の体の中を、激しく動き回る。


口に出してしまったらいけないと、思えば思うほど、

自分の気持ちが、定まらなくなる。


悠と待ち合わせ場所を決めて、その日の仕事を終わらせると、

遅れないように出版社を出た。





「向こうの人たちの感覚は、日本人と違うからね。
こちらでは当然だと思えることを話しても、『平気、平気』で誤魔化されてしまうんだ。
そんな調子だからストレスも溜まるだろ、夜になると星空が綺麗なことが、
唯一の救いだった」


『アルゼンチン』での仕事の話し。

悠の仕事は、相変わらず順調のようだった。

まぁ、『花菱物産』は、日本の企業の中でトップの存在。

ここに何かが起こったら、おそらく国が必死に庇うだろうと思える規模なのだから。


「未央」

「何?」

「どうしたの、さっきからずっと黙っているけれど」


悠は、すぐに私を心配する。

今日は何があったのか、明日はちゃんと迎えられるのか、いつも気にしてくれる。


「そう?」

「そうって……」

「悠の話しを、聞いていただけよ」


悩んでいることが、顔に出ているのだろうか。

これでは、悠に心配をかけてしまう。

今日は、何か理由を作って、やはり会わなければよかったのかも。


「そう? それならいいけれど」


いけない、気持ちを整理しなくては。

私は、これほどまでに優しい人を目の前にして心を揺らしている。


食事を済ませて会計を終えると、私たちはお店を出て歩き出した。

星は街のライトに消されてしまって、ほとんど見えない。


「未央……」

「何?」

「このまま、部屋を取ろう」


このまま帰らずにと言われ、私は戸惑いながらも頷いてしまった。

頷かなかったときに、『なぜなのか』と問いかけられることが怖かった。

ロビーで待っていると、すぐに悠が戻ってくる。

しっかりと手を握ってもらい、エレベーターに乗り、そのまま部屋へ向かう。



いつものように悠の腕に身を任せたら、迷いも振り切れるだろうか。

『愛されている』悦びを受け止めていたら、これが全てだと踏み込めるだろうか。



廊下を歩き、カードキーで扉を開くと中に入った。


「ねぇ……」


言葉を出そうとした唇は、悠にふさがれてしまう。

身体は壁に押し付けられたまま、入り込む舌先に、

自由になるところは何もなくなってしまった。

心を整えたくて呼吸をしようと、重ねられた唇をずらしてみても、

追いかけるように、また奪われてしまう。

荒々しい息遣いが耳に届き、乱されていく自分の姿が目の前にある鏡に映される。


「悠……」


悠の唇が、私の首筋に走り、その手は支配力を強めようと肌へと進む。

ひやっとした感覚に、思わず声が出てしまい、

それがまた、悠を強気にさせた。



頭の中が……動かなくなる。



身体だけが、その刺激を受け入れ、私の心から離れていってしまう。


「未央……」


名前を……呼ばれた。


「今日はごめん……優しく出来ない……」


悠はそういうと、私をベッドに押し倒し、ボタンを外していった。

言葉どおり、優しく触れていくような時間はないまま、

日常を脱ぎ去った私の脚は、悠の指先に支配されていく。

苦しさの中に、確かな感覚が紛れ込み、思考回路だけが遮断されていく。

『ねぇ』と問いかけようとした唇が、悠にふさがれて言葉を止めた。

背中を叩こうとした手は、悠の手に阻まれ、強く押さえつけられる。

悠はもっと乱れて欲しいと、さらに強く深く私に触れて……

完全に、私自身を奪っていく。



もう……他には何も考えられなくなるくらい。



これなら先へ進んでも大丈夫だと気付いたのか、悠の舌先が動きを止める。

悠の目が、下にいる私をしっかり見た。


「未央……怒っている?」


『怒る』などという感情を、悠に持ったことなど、一度もない。

いつも感謝の気持ちだけで、埋め尽くされている。

私はただ首を振った。あなたのしていることは、何ひとつ間違っていないから。


「……未央……」


耳元で、もう一度ささやかれた名前。

私は、全てを脱ぎ捨てると、そのまま悠とひとつになった。



24-①

《プレラブ プチ知識 タイトル写真》

23 【ウイスキーミスト】

★カクテル言葉は『戸惑いの中で』

材料はウイスキー 45ml、クラッシュアイス 1glass





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テーマ : 恋愛小説
ジャンル : 小説・文学

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No title

ないしょコメントさん、こんばんは

>啓太の優しさと啓太の弱さ
 未央に受け入れてほしい気がするな

コメント、ありがとうございます。
未央の思い、
どうなるのかは、このままお付き合いください。
プロフィール

momonta

Author:momonta
育てた怪獣2匹は、すっかりかわいさを無くしたため、今や『犬愛』に目覚めたお気楽主婦です。日々のちょっとしたこと、趣味で取り組んでいる『創作』を、このブログに書いていきたいと思っています。
飲み物片手に、立ち寄ってくださいね。

なお、作品の無断転載やお持ち帰りはご遠慮ください。著作権は放棄していません。お願いします。

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