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24 燃える心 【ブラッディメアリー】 ①

24 燃える心
24-①


これほどまでに激しい悠を、感じるのは初めてかもしれない。

突き上げる感覚に、自分が壊れてしまうのではないかとそう思った。



もうこれ以上は……



そんな言葉は出さないまま、気持ちの奥に押し込んでいく。

そう、私がこのまま壊れてしまうのなら、それで過去を忘れられるのなら、

それが一番いいのかもしれない。

最初から悠しか知らないと思うことが出来たら、きっと私は……



『幸せ』という言葉の意味に、近づけるはずだから。



悠の腕に支えられ、私は向かい合い、さらに時を重ねていく。

『愛している』という言葉を聞き続けたら、きっと納得できる。

悠を受け止め続けていると、押し寄せる感覚に思わず身体をそらした。

『まだダメだよ』と、悠から聞こえてくる声。



ねぇ、悠。

あなたは何も間違っていない。

だから、私が何も考えられないくらい、壊して欲しい……

それで悠が満足できるのなら、疲れた心を癒やせるのなら、このまま壊して欲しい……



私は……

こんな時間の中でも、どこか冷静になっている。

触れずにいた場所に、もし触れてしまったら、

もしかしたら、あなたを傷つけてしまうことになるかもしれないのに……





私は気を失いかけたのかもしれない。

気付くと、空はもう、薄く明るい朝を描き出していた。





旅の疲れが重なっている悠より先に起きて、身なりを整える。

これだけ身体が重たいと思える朝は、珍しい。

眠っている悠の顔を見た後、私はカーテンを開ける。



『TORYO HOSPITAL』



あんなところにあったなんて、昨日は気付かなかった。

啓太が『悪性リンパ腫』を診てもらったという病院。



どうして、私の目の前にあるのだろう。

この場所に建っている必要など、ないはずなのに。

私はカーテンを閉め、椅子に座る。



そう、忘れなければならない過去は、こんなふうに目に飛び込んでくる。

何を見ても、どこを見ても、必ず思い出してしまう。

いや、何を見ても、どこを見ても、結び付けてしまう。

忘れなければならない人のことが、心の中を漂い続けていて……



私は視線を、床から悠の方へ向ける。

『花菱物産』に勤め、真面目な人で、いつも私のことを思ってくれている。

最初は怖かった『深い優しさ』が、本物だと信じることが出来るようになったのに、

私は、これだけ優しい人がそばにいても、それだけを受け入れられないなんて。



ただの、罰当たりだ。



とにかく、啓太のことはもう考えないようにしよう。

たとえ頭の中に浮かんでも、それは心の奥に沈め続けていく。



繕った笑顔でも、悠に見せ続けていたらきっと、

それが本物に、いつか入れ替わってくれる。



「……未央」

「おはよう」


悠は目をこすると、嬉しそうに笑ってくれた。

私は立ち上がり、ベッドのそばに座る。


「お腹、空いたね」


私のセリフに、悠は『そうだね』と頷いてくれた。





悠とモーニングを食べた後、電車に乗り部屋へ戻った。

服を着替え、化粧を直し、仕事モードになる。

一度テレビをつけようと思い、リモコンを探すと、

棚の上に置いた『あの箱』を思わず見てしまう。



1年前の、忘れ物。



私は、啓太に手紙を書き、それからこれをポストに戻そうと決め。

箱を引き出しに押し込んだ。





「おはようございます」

「あ、中谷さん」


二宮さんは眉村先生の作品チェックをしているようで、

私のデスクの上に、原稿が広がっていた。


「すみません、すぐ、片付けます」

「いいわよ、別に」


『ただ……あなたが好き』の原稿。

婚約者がいると叫んでいた社長だったが、最終的には主人公との道を選ぶと、

予想はついている。

私は、デスクにあった1枚の原稿を見る。

あの高飛車に見える社長が、親が決めていた婚約者に対して、頭を下げているシーン。



『何を思われても構わない。俺は、自分の心にだけはウソをつきたくないんだ』



プライドを捨てた、彼女のための謝罪。

婚約者には、『私はあなたを信じていた』と、強く責められる。

それでも揺るがない彼の決意。


「何か、あります?」

「ん? あ、ごめん。この社長、こう出るのかと」


連載開始から、すぐに主人公を見つけ、堂々ときわどいセリフを並べていたくせに、

情などないくらい、バッサリ切り捨てるようなことを言ったりして、

何度、主人公が涙を流したことか。


「私も原稿を見た時に、驚いたんです。でも眉村先生はこう決めていたみたいですよ。
駆け引きして、都合よく展開するより、泥臭くても本人の意思が一番伝わる気がするって」

「泥臭く……」

「はい。何をどうあがいても、気持ちが傾いていることは認めないとならないし、
格好つけていても、相手には誠意が伝わらないだろうって」



『自分の心にだけは、ウソをつきたくないんだ』



「そう……」


私は見ていた原稿を二宮さんに戻した。

二宮さんは、原稿を1枚ずつ重ね、それを封筒に戻していく。

プライドを投げ捨てて、『思い』を守ろうとする社長。

これほどの男にここまでさせたら、もういいだろうという雰囲気が、

作品の中に漂っていく。

そう、作品ならばそれで……



私は……



「コンビニコーヒー買ってくるわ。二宮さんも飲む?」

「あ、はい」

「いいわよ、それくらいおごる」


二宮さんが、バッグを取ろうとしたので、

私はそれよりも先に席を立ち、コンビニに向かうことにした。



24-②




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テーマ : 恋愛小説
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育てた怪獣2匹は、すっかりかわいさを無くしたため、今や『犬愛』に目覚めたお気楽主婦です。日々のちょっとしたこと、趣味で取り組んでいる『創作』を、このブログに書いていきたいと思っています。
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なお、作品の無断転載やお持ち帰りはご遠慮ください。著作権は放棄していません。お願いします。

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