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24 燃える心 【ブラッディメアリー】 ②

24-②


啓太が去年、私にくれようとしたプレゼントの箱。

中には何が入っているのか、よくわからない。

去年ならば私が中身を見る権利があったが、今は……。


私は久しぶりに便箋を買い、ペンを取った。

今は、仕事でもメールが主になっていて、直筆で手紙を書くことなど、

年賀状の一言くらいしか思い浮かばない。

谷さんと会い、つい、啓太の過去を色々と聞いてしまったこと、

その中で、なぜ啓太がこんなふうに生きてきたのか、それなりに納得がいったこと、

荷物を運ぶための手伝いをしている中で、偶然箱を見つけ、驚きと、それ以上の嬉しさに、

思わず、自分のバッグに入れてしまったことなど、

まずは思うままに文章へとつなげていく。

『嬉しさ』というのは、まずいだろうか。

でも、別れたときからずっと、私は啓太に『愛されていなかった』と思い続けてきた。

私の行動は迷惑で、面倒だから別れを切り出されたのだと信じていたため、

やはり、プレゼントを見つけたときには、嬉しさの方が勝っていた。

返さないとならないとわかっているのに、どこかから湧き出る好奇心が、

常識という枠を、飛び出てしまおうとする。


「はぁ……ダメ、まとまっていない」


職業は編集者のはずだった。

決められた行数の中に、伝えたい出来事など、簡潔に書くのは得意なほうだと思う。

しかし、そこに『感情』が入り込むと、そっちが先走ってしまって、

整理整頓がこれだけ聞かなくなるなんて。

私はソファーに思い切り寄りかかり、天井を見る。



『自分の気持ちにだけは……』



眉村先生の作品から出たセリフが、頭の中をグルグル回る。

ということは、私は自分にウソをつこうとしているのだろうか。

もし、心のままに、誰のことも考えずにこの場を飛び出ていいと言われたら、

私は……




啓太のところに……走ってしまうかもしれない。




細長い箱の中に、私の1年前が納められているのなら、

この箱を開けてしまえば、その場所まで戻ることが出来るだろうか。

もし、振り返ることなく走り続けたとしたら……。

私は、誰よりも優しく愛してくれた人を、ただ、傷つけてしまうことになる。

自分は闇の中から救い出してもらったくせに。



啓太は数日で退院し、リハビリをすると谷さんから聞いた。

そうなると、1週間は『ワイシャツ』を着ることはないだろう。

会社に戻るとなったとき、あの襖の奥にある箱を見ることは決まっている。


この箱がないことに、気付くはず。


『リミット』はあと……4日。

私は、謝罪の文章がまとめられないまま、

その日、便箋と箱を棚の上に置いたままにした。





啓太が退院すると聞いた日が来た。

もちろん、私が病院に行くわけにはいかない。

その日は、悠から連絡が入ったため、仕事が終わった後、食事をすることにした。

午後7時前に仕事は終わったので、編集部を出る。

足は、駅ではなく、そのまま啓太のマンションに向かっていた。



『303』



啓太の部屋。

明かりがついている。

よかった、退院できたんだ。

リハビリはまだあるとはいえ、予定通り退院できているのだから、

それなりに治ってきているのだろう。

食事は、何か買ってきたのだろうか。痛みのある手で、洗濯物など、

まだ干すことは出来ないかもしれない。

バッグに入れていた携帯が揺れ、悠からメールが届く。



『ごめん、15分くらい遅れそうだ』



取引先を出たのが遅れたため、時間に間に合いそうもないという悠からの謝罪メール。

私は『大丈夫だよ』とすぐに返信をする。

マンションのエントランスから人が出てきたので、電信柱の横に立ち、その姿を見る。

出てきたのは、啓太ではない別の男性だった。



私は……



こんなところに立っていて、どうしようというのだろう。

考えないようにすると、決めたばかりなのに……。

私は携帯を閉じると、駅に向かって歩き出した。





メールよりも5分早く来た悠は、10分の遅刻となったことをあらためて謝罪してくれた。

私たちは、入るお店を決めてメニューを持つ。


「さて、どうしようか」


悠はメニューを真ん中に置き、ふと顔をあげた。

その目がまっすぐに向いていたため、私は何か聞かれるのではないかと、

一瞬、身構える。


「どうする?」


悠の問いかけに、私はすぐに視線を下に落とす。


「どうしようか……」


悠の目を見たことで、なぜだろう、頭の中が真っ白になった。

別に、隠し事をしているわけではないのに、自分自身に引け目を感じてしまう。


「家族旅行、もうすぐだよね」

「あ……うん」


母の還暦祝いの『中谷家旅行』。

兄夫婦に仕切りをお願いしてあるため、私は参加のみだけれど。


「僕のことも、話してくれるって」

「……うん」


そうだった。家族旅行のとき、父と母に悠のことを話すとそう決めていた。

私、すっかり忘れていて。


「これにしようか、色々と食べられるし」


悠はこのお店のお薦めセットを選ぶと言ったので、私はそうだねとすぐに返した。



24-③




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テーマ : 恋愛小説
ジャンル : 小説・文学

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育てた怪獣2匹は、すっかりかわいさを無くしたため、今や『犬愛』に目覚めたお気楽主婦です。日々のちょっとしたこと、趣味で取り組んでいる『創作』を、このブログに書いていきたいと思っています。
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なお、作品の無断転載やお持ち帰りはご遠慮ください。著作権は放棄していません。お願いします。

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