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24 燃える心 【ブラッディメアリー】 ③

24-③


悠の口からは、仕事のことが普通に語られている。

私はそれを聞きながら、注文した食事を、食べ続けた。

止まってしまうと、何もかもが止まる気がして。


「愛知に行く日だけれど、日曜日がいいよね」


愛知……悠のご両親に会う日。

そういえば、中谷家の家族旅行が終わった10月にでもと、言われていた。


「うん」


空いている場所に、ピースがひとつずつ埋まっていく。


「わかった」


普通の会話なのかもしれないが、私には少し違和感があった。

挨拶に行くことは、前から決めていた。でも、いつもの悠なら、

もう少し、私の目を見て……

気持ちの流れを、追ってくれる気がするのに。

『なんだか疲れているの』とか、『もしかしたら忘れていたの』とか、

そんな一言が、いつもそこにあった気がするのに。


「緊張なんてする必要はないからね。前にも言ったけれど、未央とのことは、
話しをしてあるし、僕が望むことなのだから、両親も認めてくれている」

「うん……」


走り始めたレール。

次に止まる駅がどこだかわからないけれど、バックは出来ない。

全て当たり前のこと、全て受け入れるべきこと、

そうしていたら定まっていくものもあるはず。

でも、目の前を見ると、私の食事だけがまだ半分だった。

悠は全て、食べ終えている。


「いいよ、ゆっくり食べて」

「うん、ごめん」


『どうしたの、何かあったの』

ここでも、いつもの悠が聞かせてくれるようなセリフはない。


「本当にごめん、すぐに食べるから」


何を甘えているのだろう。

私は、『どうしたの』と聞かれても、この戸惑いを語るわけにはいかないのに。


「未央……」


私は顔をあげる。


「今日、これから部屋に行ってもいい?」


悠は、まっすぐに私を見た。

『今日はダメ』と言う理由が、全く浮かばない。


「うん……」


悠は嬉しそうに頷いた後、コーヒーのおかわりを注文した。





私たちは部屋に戻り、悠は、エアコンをつけようとする。


「ねぇ、何か飲む?」

「いや、もういい。コーヒー2杯飲んだし」

「あ、そうか」


私が食事を終わらせるのが遅くて、そうなってしまった。

ならばと思い、悠を見ると、その手には『あの箱』が握られている。


「これ……何」

「あ……それは」


私は悠のそばに向かうと、冷静に箱を取り返した。


「これ、お礼にお渡しするものなの」

「渡す?」

「そう……」


私は、早川先生のところで、長い間事務をしている女性に、お礼として渡すものだと、

咄嗟にウソをついた。啓太のメモを一瞬探したが、

そういえば別の場所に保管したことを思い出す。


「お世話になった人か」

「そう……」


とにかく、箱をしまわなければ。

私が棚の引き出しに手を伸ばそうとすると、悠の手がその動きを封じてくる。


「未央……なんだか焦っているように見えるな。本当は、誰かにもらったとか」

「違うわよ」


『違う』

これはもらったものではない。もらってはいけないものなのに、

いまだに返せていないだけで。

悠の手が、私の頬に伸び、そのままソファーへと座ってしまう。


「ねぇ……」


重ねられた唇に、言葉が送り出せなくなる。

右手に箱を持ったまま、私の自由は奪われていく。


「悠……ねぇ、待って」

「ほら、箱はこっちに……」


悠の手が、私の手から箱を取り、テーブルの上に置いた。

そして、右手が胸元に伸び、ゆっくりと動き始める。

首筋に触れたキスの熱に、少しずつ支配されていく私。

その視線の隅に、『あの箱』が入り込んだ。



『誕生日おめでとう』



啓太が……

見ている気がしてしまう。


「ねぇ、悠。待って……お願い」


この間から、悠は強引に私を動かそうとする。

長い出張から戻ってきて、気持ちが高ぶっているのだろうと、思っていたけれど、

今日は違う。食事の時も、そして今も……


「待ってと言われると、待ちたくなくなる……未央のその表情が、
もっと見たくなるから」


ボタンが外されて、邪魔になるものが捲し上げられ、素肌が悠のものになる。

逃げようと体を動かすと、悠はダメだとその場に私を引き戻した。


「ねぇ……シャワー浴びよう、お願い」

「もう少し、楽しんでからでいいだろう」


この場所にいないことくらい、頭の中でわかっている。

でも、その残像が、頭から離れなくなる。

あの箱がそこにあるだけで、啓太の面影が、私の目の前にある気がして。



悠に求められている私を、見て欲しくない……



「悠! 嫌!」


私の声が心の底から出て行ったとき、悠の動きが止まった。


「お願い、少し待って。これ、大事なものなの。潰したりしたら困る。
しまってくるから」


私は乱された姿のまま、箱を引き出しに押し込んだ。

そして一度、ため息をつく。


「なんだか……」


なんだか、この間から、自分勝手ではないかと、言おうとした言葉が止まった。

私にそんなことを言う資格が、今、あるだろうか。

『自分勝手』なのは誰なのか、私は自分が一番わかっているから。


「ごめんなさい……」


悠は立ち上がり、私の頭をポンと叩く。


「先に、シャワー借りるね」


いつもの優しい悠がそこにいる。

私は『うん』と返事をすることしか出来なかった。



24-④




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テーマ : 恋愛小説
ジャンル : 小説・文学

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Author:momonta
育てた怪獣2匹は、すっかりかわいさを無くしたため、今や『犬愛』に目覚めたお気楽主婦です。日々のちょっとしたこと、趣味で取り組んでいる『創作』を、このブログに書いていきたいと思っています。
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なお、作品の無断転載やお持ち帰りはご遠慮ください。著作権は放棄していません。お願いします。

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