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24 燃える心 【ブラッディメアリー】 ④

24-④


悠の寝息と体温を感じながら、私の視線だけが引き出しに向かう。

逃げようとしても、忘れようとしても、どうしても追いかけてくる思い。

悠がそばにいれば、温かく包まれてさえいれば、どうにかなると思っていたのに、

私は……



あの箱の存在だけで、取り乱した。



そんなことで、忘れることなど出来るのだろうか。



返そうとしていたのに、返さなければならないこともわかっているのに、

私は結局、啓太への手紙が書けないまま、また、日付を重ねてしまう。



啓太は、もう、気付いたかもしれなくて。



「すみません、対談メインの写真、撮りますので」


その日は午後から早川先生と、今、人気の美容師との対談に付き合った。

昔、『パーフェクト』という、業界漫画を出したことがあり、

いまやカリスマと言われているこの美容師さんが、

漫画をきっかけに職業を選んだ話しを、楽しそうに続けている。


「そうですか」

「はい……先生のあの漫画に出会わなければ、ここにはいません」


漫画を夢のスタートにしたという話しは、よく聞く話しだ。

眉村先生のところに来るファンレターにも、

先生が以前、『野村有紀』の名前で描いた、

デザイナーの話しに感動し、その職業を目指したという内容のものがあった。


「はぁ……疲れたな」

「お疲れ様です、ありがとうございました」


私はスタジオ撮影が終了した早川先生に、『アイスコーヒー』を出す。

早川先生は、それを『ありがとう』と受け取ると、半分くらいを一気に飲んだ。


「いやぁ……対談は喉が渇く」

「スタジオで話しますからね、ライトもあるし」

「でも、あの女性美容師さんは、しっかりしている方だったな」

「はい……うちの情報誌にはピッタリの人材です」


私は時計を確認した。

早川先生には次の仕事があるからと、

事務所の人から、拘束できるのは3時までの約束をもらっている。


「中谷さん」

「はい」

「仕事、忙しいのか」

「エ……」

「あまり顔色もよくない気がするし、少し痩せた気がするぞ」


早川先生は、ダイエットなのかと、私を見る。


「そんな、痩せてませんよ」


私は、痩せてくれたら嬉しいですがと言いながら、懸命に繕いの笑い顔を見せた。

早川先生は,男性が好きな女性は、女性の理想よりもふっくらしているものだと、

そんな意見を返してくれる。


「本能だと、前に聞いたことがある。男性は、女性が少しふくよかなくらいで、
安心できるんだ。あぁ、この人なら子孫をしっかり守ってくれるって」


早川先生の言葉に、付き添いのマネージャーさんが、

それなら私はいいですよねと、笑顔を見せる。


「君は……ちょっとな」


そんな冗談を言っている二人を見ながら、

私は取材で使ったメモや書類をバッグに押し込んでいく。

自分では、痩せたと思っていないけれど、ここ数日、確かに食事が乱れている。

食べたくないというより、食べていると、他のことを考えすぎていて、

箸が動かなくなってしまうのだ。


「それでは先生、また」

「おぉ、しっかり食べなさい」

「わかりました」


私はマネージャーさんにも頭を下げ、スタジオを出た。





そしてその次の日、私は母が還暦になる祝いの、『金沢旅行』に出発した。

ここから戻ると、私は29歳の誕生日を迎え、

そして、愛知に挨拶へ行く日が、目の前に迫ってくる。


「パパ、見て!」

「ほら、和貴。もう少し小さな声」


兄の家族と、一緒に『北陸新幹線』に乗り込んだ。

私自身は、仕事で何度も乗っているが、甥っ子の和貴は初めてで、本当に嬉しそうだ。

兄はビデオを構え和貴を撮り、千波ちゃんは心配しながらも笑っている。


「予報が天気でよかったわよね」

「うん……」


父と母は、その1日前から『金沢入り』をしていた。

それも兄夫婦がちゃんと準備をしてくれてのこと。


「ねぇ、みおちゃん」

「何?」

「あのね……ママね……赤ちゃんなの」


それは和貴から飛び出た、突然の告白だった。

『赤ちゃんなの』という言葉の意味は、『赤ちゃんが生まれる』という意味だろうと思い、

私は『エッ』という言葉を発しながら、千波ちゃんを見る。


「……やだ、和貴。それは……」

「ママとパパね、お話してた。でも、じいじとばあばには……ひみちゅ」


和貴はそういうと、私に向かってシーと合図をする。

私も『そうなんだ』と言いながら、同じ仕草を真似して見せた。



24-⑤




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テーマ : 恋愛小説
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育てた怪獣2匹は、すっかりかわいさを無くしたため、今や『犬愛』に目覚めたお気楽主婦です。日々のちょっとしたこと、趣味で取り組んでいる『創作』を、このブログに書いていきたいと思っています。
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なお、作品の無断転載やお持ち帰りはご遠慮ください。著作権は放棄していません。お願いします。

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