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25 あなたを信じて 【ウォッカ・アイスバーグ】 ②

25-②


「ケガはどうなの?」

「順調に戻っている。リハビリも開始できたし、後遺症もなさそうだ」

「そう……それならよかった」


まずは一安心。


「それなら、私が今日何を話しに来たのか、言うね」


私の決意。


「1年前に戻って、啓太とやり直すつもりでここに来た」


私の言葉に、啓太は黙っている。


「これ……勝手に持ち出して、勝手にあけたの」


私は首のネックレスに触れ、啓太に向かってそう言った。

啓太はじっと見たままで、まだ何も言ってくれない。


「谷さんが啓太のマンションに荷物を取りに来た日、私もお付き合いをしたの。
その時、見つけてしまった……」


このプレゼントが見つからなければ、

もしかしたら今、ここにはいなかったかもしれない。

いろいろなものが私の気持ちを揺らしたが、決定打と言えるのは、やはりこれだろう。


「去年の秋に啓太と別れてから、自分の中でずっと考えて、色々悩んで、
私という存在は、結局、あなたに愛されていないのだと思い、
自分で歩き出したつもりだった」


そう、私に対して冷たい態度に出るのは、未来を見ようとしないのは、

『愛』などそこには存在しないからだと、そう思って……

いや、私は啓太にそう思わされてきた。


「それなのに、あれだけ色々とあったのに、でも、心の中から消えていかないの。
何をしても、どう過ごしても、あなたのことが消えていかないの」


私は、心のままに訴えた。

悠に対して、中途半端に心を向けてきたわけではない。

でも、『どうしても』とか『どうにかして』という強い希望が向かうのは、

いつも啓太のことばかりだった。


「それでも、私だけの思いなら、それは啓太にとって迷惑でしかないと思っていたけれど、
香澄ちゃんが、ここで再会した日のことを話しに来てくれたり、
園田さんもここまでのいきさつを教えてくれた。二人から知る啓太は、
私が知らない啓太で……。そして谷さんからも」

「未央……それは」

「わかっている。過去のことを聞いたから、だからというわけではないの。
積み重なっていく感情が、このネックレスを見たとき、止められなくなった」


同情だとか、未練だとか、そんなことではない。


「自分の行動が、褒められないことだということはわかっている。
でも、私は、あなたのそばにいたい」


啓太のそばにいたい。

悩んで、苦しんで、出した答えはこれしかない。

私の気持ちを聞いた啓太からは、言葉が戻らない。

まだ足りないというのなら、何度でも言うつもりだけれど……


「谷さんに……謝られたよ」

「エ……」

「未央に色々と話してしまったって。もう一度、戻ってもらえないかという気持ちが、
前に出てしまったって」


啓太は落ち着いた表情のまま、私を見る。


「未央。俺のことを色々と知って、かわいそうだとお前に思われるのは……」

「違う」


啓太がかわいそうだから、そばにいたいのではない。


「そんなことじゃないの。かわいそうだからとか、そんなことではないの。
啓太と過ごしていた時の自分が、あの頃の自分が本当に好きだと思えるの。
また、あんなふうに……毎日生きていきたいから」


人生は、一度しかないから。

だから、譲りたくない。

あなたが、この世の中に生きている限り……

一番近くにいるのは、私でありたい。


「これ……つけていてもいいでしょう」


時間を戻すことは出来ないけれど、思いだけは受け止めていたいという気持ち。


「未央……」

「何?」

「俺には、自信がない」



自信……



「病気のこともあるし、体のこともある。だから自分自身の中で、
これからを決めて生きてきた。未央がしっかり前を向いたら、
別れないとならないことも、わかっていて」


『前を向く』というキーワード。

私が何度も啓太に言った言葉。


「未央のことを……俺は受け止める自信がない。だから……」

「自信なんて誰にもないよ。人と一緒にいることは、啓太、みんな苦しいことなの」


そう、人と生きていくと言う事は、誰でも苦しいことがある。

親の期待、子供の思い、家族の考え。

人は一人ではないから、苦しいのだ。


「その苦しさに負けないで欲しい、逃げないで欲しいの。病気があるのなら、
立ち向かって欲しい。私は、あなたを必要としているの……」



そう、必要としている。



「私の人生には……どうしても啓太が必要なの」



啓太を愛して、啓太に愛されていくことが、私の人生なのだと、

今、ハッキリわかる。

それでも啓太からは、言葉が戻らない。


「それなら啓太……ひとつだけ聞いてもいい?」


私は、園田さんとの会話の中で、気づいたことがあった。

あの日は、聞かされる事実を受け入れるだけだったが、時間をおいた今なら、

あらためて考えることができる。


「風邪を引いたとき、啓太は病院も薬も嫌いだとそういった。
でも、それなら、園田さんと『東陵病院』で会ったのは、なぜ? 
人と関わることなんてもう嫌で、ひとりでただ生きていこうと思うのなら、
どうして私と別れた後に、避けていた病院へ行ったの?」


そう、啓太は自分から病院に行った。

園田さんは、啓太がベテランの看護師から怒られていたところを、しっかりとみている。


「3年も何をしていたのかと、怒られていたって」


運命のまま、流れのまま生きていこうと思うのなら、避けていた病院に向かうこと自体、

ありえないのではないだろうか。


「自分の体が今、どうなっているのか、知りたいと思ったからではないの?」


自分の体が、また病に侵されているのならあきらめなければならないが、

もし、何事もなく経過がよかったとしたら……


「啓太自身も別れを後悔していて、
私と、生きていく選択肢があるのではと、考えたからじゃないの?」


全てを話して、互いに寄り添えないかと、思っていたからこそ、

啓太は病気の状況を知ろうとしたのではないだろうか。


「啓太……」


何も言葉が戻らない。

でも、それが答えである気がしてくる。


「生きていく中で、人に甘えることも頼ることも、いけないことではないよ」


啓太は黙ったまま、下を向いている。

長い間、一人で生きてきたのだから、全て覆せといっても、それは無理だろう。

私はとにかく、1歩前に進むことだけを宣言する。


「私は、そう思っているから」


私の決意を押し付けて、ここで責め立てても意味はない。

今日はこれで十分。


「突然ごめんね、押しかけて、勝手に話して。今日はこれで帰る……」


言いたいことは言えた。私はそう思いながら立ち上がる。


「未央……お前が苦しむことはないから、だからもう……」

「私の道は、私が決める」


もう戻らない。戻る道などない。


「まずはしっかりケガを治してね。また……来ます」


盗んでしまったネックレスだけれど、啓太に返せとは言われなかった。

私が苦労するからと言われたけれど、二度と来るなとは言われなかった。



そう、言われなかった。



私は、マンションの階段を1段ずつ降りていく。

そして、あらためてネックレスに左手で触れた。

私は、これをお守り代わりにして、これから悠に話しをしなければならない。

自分がしようとしていることが、許されないことだということはわかっている。

とことん責められることも、覚悟しなければならない。



それでも、前へ進むと決めた。



25-③




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テーマ : 恋愛小説
ジャンル : 小説・文学

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育てた怪獣2匹は、すっかりかわいさを無くしたため、今や『犬愛』に目覚めたお気楽主婦です。日々のちょっとしたこと、趣味で取り組んでいる『創作』を、このブログに書いていきたいと思っています。
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