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ももんたの発芽室

ももんたのつぶやきや、つたないですが、創作を掲載しています。
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25 あなたを信じて 【ウォッカ・アイスバーグ】 ④


25-④


そして、悠と会う日。

他の人がいる場所では、言いたいことも言えなくなるのではと思い、

私の部屋を指定したが、悠が、行きたいお店があると言ってきたため、

駅前で待ち合わせをする。


「とりあえず、入ろう」


そう言われて入ったのは、特徴があるわけでもない、普通の喫茶店だった。

どちらかというと、夕食の時間だったため、店内はまばらな客しかいない。

窓際の席に案内され、座る。

悠は何も知らないのだから当然なのだけれど、すぐに視線をメニューに動かした。



自分で決めてきた、自分で迷いを吹っ切った。

それなのに、こうして悠が前に座ると、あまりにも申し訳ないセリフを、

本当に出せるのかと、自信が揺らぎだす。


「アルゼンチンから戻って、急に忙しくなったよ」


悠は、いつものように仕事の話しをした。

そして、愛知に住む、ご両親のことを話す。

私は、胸が締め付けられるような思いを抱えたまま、必死に自分を奮い立たせた。

『話しがある』ということはメールで触れている。

このまま、ただ黙っているわけにはいかない。


「未央……」

「何?」


タイミングが、ほんの少し、遅かった。


「この間から、ずっと思っていたんだ。何か言いたいことがあるのかなって。
でもさ、『何があったの』といつものように聞いたら、未央が懸命に抑えているものも、
全て流れてしまう気がして」


『何があったの』、『今日はどうだった』

そう、悠は私にいつもそう聞いてくれた。

自分のことは後回しで、私がどういう日を送ったのか、いつも気にしてくれていた。


「……親に会うの……嫌だってことかな」


アルゼンチンから戻った後の悠は、いつもと確かに違っていた。

私の気持ちを聞き出すことより、自分の思いを前に出す日が多くて、

そんな強引さに少し戸惑った。



悠……



「未央から話があるって言われて、やっぱり何かがあるんだなと、思って。
今日は、きちんと聞くつもりで来た」


この人は、どうして私なんかを好きになってくれたのだろう。

これだけ、やさしさの深い人を、私は……


「悠……」

「何……」

「愛知のご両親に会いたくないとか、そういうことではないの。
今日は、あなたに全てを話すつもりで来た」


私の決意が見える顔つきに、悠の表情も変わったような気がした。

思っているよりも重い話しだと気づいたのか、喉仏が動く。


「うん……」

「全てを聞いて」


私は、啓太との出会いから、一緒に過ごしてきた日々のこと、

そして去年の秋、突然別れることになった話しも、流れてきた時間とともに、

そのまま語り続けた。

どこかをいらないと抜かしてしまったら、私の気持ちも、啓太の気持ちも、

伝わらなくなる気がした。


「悠に連絡を取ったとき、あなたは私の事情を聞くことなく受け入れてくれて。
本当に嬉しかった」


そう、あの時、悠がいてくれたことで、私は救われた。

真面目にまっすぐに『愛してもらえる』ことに、心から悦びを与えてもらった。


「自分でもわかっているの。このまま悠と一緒に過ごしていけば、
幸せになれることくらい……でも、彼がどうして私を避けたのか知ってから、
気持ちがそこから動かなくなってしまって……」


嫌いだから別れたのではなく、『愛してくれていた』からこそ、

別れようとしていた啓太のことを思うと、このまま悠との時間を、

選ぶことが出来なくなってしまった。

病気のことも、啓太自身が戸惑っていることも、隠さずに話す。


「……ごめんなさい」


これ以上、語ることがないというところまで行き、最後に出たのは、このセリフだった。

そう、何をどう話しても、どんなに複雑な事情があろうとも、

私が悠にしていることは、『最低』なことに違いない。

悠らしく冷静に、全ての話しを聞いてくれていたが、謝罪の後にも、

言葉が出てこないままになる。

互いに注文したものは届いているが、液体のひとしずくも、

今はとてものどを通る気がしない。


「ふぅ……」


そう、こうなることもわかっていたのだから、

どうしてもと話し、私の部屋に来てもらうべきだった。

こうして、他人がいる場所で話してしまうことは、不誠実な気もする。



罵られても、殴られても、仕方がないことくらい覚悟してきたけれど……

心の中で、悠がそんなことをしないことも、私はわかっていたのもしれない。

1秒、1秒が、長く辛く、そして……限りなく重い。


「そうか……」


悠の発した言葉の中に、どういう意味があるのかわからない。

私はただ、受け止めるしかない。

たとえこの時間が、数時間続こうとも、私には何も出来なくて。


悠は背中を、椅子の背もたれにつけた。

視線は、私よりも少し下に向いたまま、上がっては来ない。


「予想以上に……キツイな」


悠の絞り出すような声に、私は押さえていた涙が流れそうになる。

懸命に視線を動かし、瞬きを繰り返した。



25-⑤




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Author:momonta
育てた怪獣2匹は、すっかりかわいさを無くしたため、今や『犬愛』に目覚めたお気楽主婦です。日々のちょっとしたこと、趣味で取り組んでいる『創作』を、このブログに書いていきたいと思っています。
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