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25 あなたを信じて 【ウォッカ・アイスバーグ】 ⑤

25-⑤


「今の話、それはようするに、未央の気持ちの中に、
彼への『同情』がプラスされたってことだよね」


『同情』と言われ、そうだろうかと思うものの、否定は出来ない。


「ないとは言えないかもしれない。でも、それだけではないの」


『同情』だけだったら、ここまで気持ちは引きずられない。

今も、考えるだけで胸が苦しくなるような出会いも、

1分1秒すべてが色づくような日々も、これから二度とないだろうと思えてしまう。


「はぁ……」


大きなため息をともに、悠の顔が上を向く。

私は、ただその場にいることしか出来ない。


「未央は……」


悠の表情が、その日、一番きつくなった気がした。

『どういうことなんだ』と、人をバカにしているのかと、言われても仕方がない。


「いや……うん」


悠は、啓太の病気は、どういう状態なのかと、そう言った。


「詳しくはわからない。別れてから、それほど深く話していないし」


そう、園田さんが『東陵がん研究センター』で会ったと言っていたが、

それもすでに1年前だし、この間会ったときにも、結果がどうだったのか、

聞いていない。


「でも、結果がどうであっても……」

「会わせてくれないかな、その人に」




悠が啓太に会う……




「悠……」

「岡野さんと会って話しがしたい。今の話しでは、
彼も今、本当に未央を必要としているのか、それがわからないだろう」



啓太が私を必要としているのか……



「それは……だから、今話しをしたように、人に甘えることが難しくて……」

「未央の言い分はわかった。でももし、彼の病気が進行しているのなら、
それをわかっていて未央を手放せなんて、あまりにも身勝手だ」



病気の進行。

この間も、その前も、そこは聞き出せなかった。

私は啓太がどんな状態にあっても、そばにいたいと思っているが、

悠の立場からしてみたら、そんな不安定な状態を認めろというのも無理だろう。


「悠……啓太は……」

「会わせて欲しい」


私は返事が出来なくなる。

正直、『1年前に戻る』ことを宣言したが、啓太からは『自信がない』という言葉しか、

聞けていない。


「会って……どうするの」

「その人の決意を聞きたい。それに、病気のことも聞いておきたい」

「悠」

「なぁ、冷静になれよ未央。彼の過去を聞いて、同情して、そばにいても、
君はずっと心配して、震えて生きることになるかもしれないんだぞ。
全てをわかって、彼は君を避けたんだ。離れていくことを望んだ。
今更、君が流されても……」


病気の再発もあるかもしれない。

一般的に言われるような、未来も、築けないだろう。


「ただ、流されてというのは、一番ダメじゃないのか」


悠の言葉はもっともだった。

仕事でもいつも編集長に言われている。感情で記事を作り出すな。

どこか客観的にものを見る目がないと、難しいと。


「彼の境遇や人生は、君が、あえて背負うようなものだとは思えないけれど……」


優秀な大学を出て、一流と言われる企業に入って、前を向き、まっすぐ進むことが、

当たり前に出来る人には、あちこちにぶつかりながら、迷いに迷って、

必死に息をしている私のしていることも、啓太がしていることも、

おそらく理解など出来ないだろう。



でも……



「悠……生きることがとても大変で、楽しいことばかりではないことも、
幼い頃から知っている人だからこそ、1日を踏みしめて、愛しく思いながら生きているの。
私は……そんな不器用な人に、寄り添ってあげたい」


不恰好でも、周りから見たらおかしなことでも、

私と啓太にはそれで十分なのだ。

何をどう言っても、どう説明しても、結局は心の中まで伝えきれない。

時間とか、感覚とか、間とか、視線とか……

これほどまでに完璧な悠より、どうして啓太なのか、

『説明』は、これ以上、つけられない。



何も言われない時間、何も言えない時間が、1秒ずつ積み重なっていく。

この場所に、吸える空気がなくなるのではないかというくらい、

息苦しさも増していって……



「……とにかく、岡野さんと会わせてくれ。
でなければ、僕は到底頷くことなど出来ないから」


悠はそういうと、軽く唇をかみ締めた。

私たちは、頼んだものにほとんど手をつけないまま、店を出る。

悠の背中を見ながら、私はその距離を保ち続けた。





『会わせて欲しい』



部屋に戻っても、その言葉が何度も何度も回ってきた。

啓太を支えると決めたのだから、悠に別れを告げるのは仕方のないことなのだけれど、

わかっていても、気持ちは重たかった。

陽平が私に別れを告げたあの日。

もしかしたらあいつも、言い表せないくらいの、重い気持ちを引きずりながら、

家に戻ったのだろうか。



『悪いのは、相手ではなく100%自分』



あの時には『振られた』と腹を立てていたが、

こんなことなら、『振られる』方がよっぽど楽だ。

人を傷つけることは、自分が傷つくことよりも辛いのだと、あらためて思い知る。



何ひとつ、ほんの1%も悪くない悠に、別れの言葉を吐き出した私は、

これからどれほどの罪を背負わされるのだろう。



ただ、啓太にはそれがいかないようにと、祈るくらいしか出来なくて。

ベッドに入っても、目を閉じても、眠ることなど少しも出来なかった。





寝不足になると、私はいつも目が腫れぼったい。

それを化粧で隠して、仕事をこなすと、啓太に連絡を入れた。

『悠に別れを切り出した』ことを打ち込むと、すぐに返信がある。



『家にいるから』



仕事はまだ、本格的に戻っているわけではないらしく、

『家にいる』とわかり、少しだけほっとする。

夜7時くらいまで編集部に残っていたが、

そろそろだと席を立ち、そのままマンションを目指す。



『303』



ボタンを押し、反応を待つ。

数秒後に、『はい』と啓太の声が聞こえた。



26-①

《プレラブ プチ知識 タイトル写真》

25 【ウォッカ・アイスバーグ】

★カクテル言葉は『あなたを信じて』

材料はウオッカ 60ml、アニゼット 1dash





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育てた怪獣2匹は、すっかりかわいさを無くしたため、今や『犬愛』に目覚めたお気楽主婦です。日々のちょっとしたこと、趣味で取り組んでいる『創作』を、このブログに書いていきたいと思っています。
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