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26 決心 【ギブソン】 ①

26 決心
26-①


「未央です」


この間と違い、名前を名乗りガラスを見つめていると、数秒後に扉が開いた。

私は大きく息を吐き、そのまま中に入るとエレベーターに乗る。



『303』



部屋の番号を確認し、あらためて扉を叩く。

しばらく待っていると、扉が開き、啓太が顔を出した。


「入ってもいい?」


その問いかけに、小さく頷いてくれる。

私は玄関に靴を脱ぎ、リビングへ進んだ。

私はバッグを置くと、この間と同じように、啓太と向かい合うように座る。


「悠と……話をしてきた」


お付き合いしている人の名前を教えたわけではないが、

『話をした』と言ったことで、啓太には全てが伝わったように見える。


「谷さんと会ったときにも、自分の気持ちはきちんと話したつもり。
私は、覚悟を決めたの。だから、啓太からもきちんと話を聞かせてほしい。
いいからとか、無理だとか、そういう言葉ではなくて、聞きたいことを教えてほしい」


私は勇気が出るように、ネックレスに触れる。


「私は、どういう形でもあなたのそばにいると決めたの。
だから……今、わかっていることを、ちゃんと教えて」


何もかも知って、それで啓太を愛したい。

悠の言うとおり、『同情』があるのかもしれないが、それごと受け止めたいのだ。


「東陵病院の方には、園田さんと会ってから、通ったの?」


園田さんと会ってからだって、もう1年近く経っている。

最初に病気がわかってから、もう何年になるのだろう。

啓太の口は重たいままで、何も出てこない。


「男でしょう。しっかり自分を見なさいよ。病気なら戦うべきだし、
ひとりでは難しいことも、一緒ならもっと……道が広がるはず」

「なんて言われた」


啓太の顔が、私を見る。


「未央の相手は、『並木通り店』に一緒に来ていた人だろ」


悠のこと……

啓太は悠の顔を見ている。


「うん……。啓太との出会いから、今までのことを全て話した。
何もかもを話して、私は……」



私は、啓太のそばに戻ると……



「別れて欲しいと……そうきちんと言った」



そう、別れて欲しいと切り出した。

私に一目ぼれをしたと、照れ笑いしてくれたあの日。

そして、連絡先を消さずに取っておこうと言いあい、

それにふと気持ちが引き込まれた日。

悠は、最初からいつも、優しかった。


「すごく優しい人で、本当に申し訳ないと思っているの。でも、自分で決めたから。
誰になんと言われても、私はもう、振り返らないと決めたから」


どんなに罵られようとも、私は自分の道を進むと決めた。

『決断』しなければ、傷は深くなる。


「逃げずに歩くと、決めたから」


すぐに下を向いた啓太の顔があがり、視線が重なった。

その目に見つめられていた日を、あっという間に思い出していく。

これでも、私の行動を迷惑だと言うだろうか。


「ふぅ……」


緊張して張り詰めた空気が、啓太のため息に、混ざり合っていく。


「彼に何を言われた」

「何って……」

「そんな話を、そのままそうですかなんて受け取る男はいないだろう。
未央は何を言われたんだ」


啓太の目。

いつもマイペースな人なのに、

時々、どうしようもないくらい哀しそうな顔をすることがあった。


「啓太の病気のことを、気にしていた」


私の気持ちの変化を、『同情』だとそう言っていた。

啓太は『そうだろうな』という意味なのか、小さくうなずいている。


「園田さんと東陵病院で会った日、確かに看護師にはさんざん怒られたけど、
久しぶりに検査をして、その時までは大丈夫だった」

「本当?」


よかった……あの日までは、何もなかったんだ。


「でも、結局、それからの通院日は守っていない。あれからも1年だ、
だから今はわからない」


相変わらずだと思いながらも、私はしっかり頷き返す。


「それなら、今度は病院に一緒に行こう、そしてまた検査をしてもらおう」


避けていればいいものではないから。

大変なことでも、立ち向かえば乗り越えられる。


「あれから1年経っている。今回も結果がどうなるのかなんてわからない。
たとえいいとしても、悪性リンパ腫になって、これからも再発とか、
また別のところにとか、色々と心配しなければならないことがあるんだ」


確かにそうだろう。

病気におけるゼロとイチは数字の『ひとつ差』ではない。

圧倒的に、プレッシャーが違う。


「その治療のために、俺は子供が望めなくてもいいという選択肢を自分で選んだ。
だから、未央が夢見るような家族を、作ることも出来ない。
そういうハンデもある」


わかっている……それは、『ブルーストーン』での日を思い出す中で、

私自身が、受け入れてきた。


「だから……お前は犠牲になるな」


『私を犠牲にしたくない』

啓太の心の中にあったのは、ずっとこの思いだった。

心の奥底にあった声が、どうしようもない感情に押し出される。


「犠牲だなんて、思うわけがないでしょう。私が望んでいるのは啓太なんだよ」


そう、どんな状況になっても、啓太がそこにいることには変わりがない。


「病気になることなんて、誰にだってこれから起こることだよ。
今は何もなくても、私だってこれからわからない。
それに、人は永遠に生きられないでしょ。だったら、私は啓太と支えあって生きたい。
いいよ、病気になってしまっても。それでも、啓太がここにいるのなら、
他の人には渡したくないし、ひとりで戦っていると知ったら、放っておけないもの」


『岡野啓太』がこの世にいる限り、私はその存在を心から消し去れない。

それは悠との時間を重ねても、ハッキリと浮かび上がる事実だった。



26-②




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テーマ : 恋愛小説
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育てた怪獣2匹は、すっかりかわいさを無くしたため、今や『犬愛』に目覚めたお気楽主婦です。日々のちょっとしたこと、趣味で取り組んでいる『創作』を、このブログに書いていきたいと思っています。
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