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26 決心 【ギブソン】 ②

26-②


啓太が何をしているのか、どうしているのか、

全てを切り捨てられた日など、一日もなかった気がする。


「未央……」

「もう、そんな顔をしないで。大丈夫だから。そうだな……
啓太がもし先に亡くなったとしたら、私、たくましく、次の人をちゃんと見つけるから」


重苦しくならないように、精一杯ふざけたことを言ってみせる。


「私、啓太が思っているよりも……きっと、もてるから」


大丈夫だから、啓太。

あなたが私に今まで見せてくれた姿は、いつも強くて、そして頑固だった。

でも、人はそれだけではない。苦しいことも、本当は弱いところがあることも、

これからは全部見せてくれて構わない。


「中谷未央は、岡野啓太が悲しむようなことは、しないと誓います」


私は啓太の前で、手をあげて笑ってみせる。

それでも、啓太の表情は固いままだ。


「私がそばにいるからって、何もプレッシャーに感じることはないって。
また、前のように、明日ってそう思えばそれでいいんだから。
言ったでしょう、1年前に戻るの」


明日がつながることで、1年が10年になる。

私たちの『未来』はそれでいい。


「とにかくまずは病院に行こう。それが明日を作る1歩でしょう」


悠が『会いたい』と言っていたことは、別の日にすることにした。

焦ってしまっては、啓太の気持ちがまた、閉ざされてしまうかもしれない。

あれほどの決意を固めて、私との距離を開けようとしたのだ。

これ以上、責め立てるように話をしても、心の扉が固くなるだけ。

今日はここまでと自分自身で決め、私は立ち上がる。


「まったく、30も半ばになろうかという人が、病院を避けているなんて……」


私は、できる限り明るい声を出しながら、玄関に向かう。

そう、付き合っていた頃のように、言いたいことは言って……

少し前に脱いだヒールを、履くために壁に手を置いた時、

背中から、啓太の手が私の首に回った。

懐かしい啓太の香りが、私の心を動かし始める。



カチカチと聞こえてくるのは、リビングに置いてある時計の音。

耳元に届く啓太の息遣いが、私の不安定な心に、温かさを運んでくる。



この部屋を出ようとして……

今、やっと……啓太が止めてくれる。



出て行くなと……



「最低だな……俺は……」



『もう来るな』とか『関係ない』とか、啓太は言わなくなっていた。

こうして『最低』だと嘆くのは、素直になろうしているから。


「そんなことはないよ、啓太……」


私は壁に向けた手を動かし、啓太の手に触れる。

押さえ込もうとしていた気持ちが、一気にあふれ出し、

私は振り返ろうとするが、体は動かない。


「動くなって……」


少し震えるような啓太の声。

私の言葉を受け止め、切なく辛い顔をしているのだろうか。

また、一人で気持ちを処理しようとするなんて……。


「啓太……」

「ん?」

「私の心臓ね、さっきから止まりそうなくらい、速く動いているの」


そう、熱い気持ちがあふれてくるのを、受け止めようとする自分自身。

心臓が、必死に援護している。

啓太の腕の力が少し緩んだので、私は振り返る。


「……ドンドンって、すごい勢いで音を立てている……。
こんなこと、今までに感じたことがない。もしかしたら止まるかも」


あなたの息遣いが感じる距離。

あの頃のように、啓太の目に、私が映る。


「バカなこと、言うな」


私は、目の前にあった啓太の唇に、キスをする。

そう……言いたいことだけを告げて帰ろうとしたのは、

触れたら気持ちがあふれそうだったから。

このままここにいたいと、せがみそうだったから。


「啓太……」


何も解決していないのに、気持ちは揺らがずにまっすぐに前を向く。



『愛している』



私の言葉に応えるように、今度は啓太の唇が、私を迎えてくれた。





そのまま帰ろうとした私だったが、あらためて啓太と向かい合う。

それまで何もなかったテーブルに、ウーロン茶が2つ置かれた。

よそよそしかった壁はなくなり、啓太とまっすぐに向き合えている気がする。


「未央、明日『東陵病院』に行ってくるよ」

「エ……明日?」

「あぁ……。病気のことをもう一度きちんと受け止めて、それからその人と会う」


啓太はそういうと、私を見る。


「あの日、並木通り店で見た彼は、本当に真面目そうな人だった。
正直、ほっとしながらも、あのとき、これで本当に終わりだと、
そう思って未央を見ていた」


水族館の帰り、『コレック』に悠と食事をするため立ち寄った。

啓太の目が、優しく落ち着いて見えたとき、私も同じようなことを思っていた。



『これで終わり』だと。



「そんな簡単に、そうですかと納得してくれるはずはないよ。当たり前だ」


私は小さく頷く。

自分たちで複雑にしてしまった時間。

それでも、どこかに向かって人は歩みださなければいけない。


「今でも、そうこの瞬間にも本当にこれでいいのかと、自分自身で不安になるんだ。
だから、彼と会いたい。そのためには、きちんと調べてもらわないと」

「それなら、私も病院に行く」

「いいよ、未央は仕事だろう。これくらい自分で……」

「大丈夫、ついて行きたい」


受け止めるとそう決めたのだから。

どんなことになっても、そばにいると誓ったのだから。


「一緒に行きたい……」


私の呼びかけに、啓太が顔をあげる。

なんだか、捨てられた猫のように、不安そうだ。


「啓太らしくないよ、そんな顔ばかりして」


何事にも動じない啓太に、私はいつも愚痴をこぼし、笑ってもらっていた。

これからもそんなふうに過ごしたい。


「啓太は怪我をしっかり治して、病気の経過を受け入れて、それから前を向いて、
そうだ、東京を去る谷さんにも安心してもらわないとならないでしょう」


私はそういうと、ウーロン茶に口をつける。


「うん……」


啓太の神妙な顔……

何だろう、おかしいというわけではないけれど、少し心に余裕が生まれた。


「啓太が、あの日のこと、最初から全部私に話してくれていたら、
こんなにこじれなかったんだから」


少しだけ、今日は優位に立てている気がして、つい、言ってしまう。



「あの日……」



『あの日』

『ブルーストーン』で出会った日のことだろうか。



「何も知らない人だからと思って、自分の事情をあれこれ話したら、
未央が、ボロボロに泣いたからさ」


啓太はそういうと、少しだけ笑顔になる。

『ブルーストーン』で出会った日のこと。

啓太があの日のことを話してくれたのは、初めてだ。



26-③




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テーマ : 恋愛小説
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育てた怪獣2匹は、すっかりかわいさを無くしたため、今や『犬愛』に目覚めたお気楽主婦です。日々のちょっとしたこと、趣味で取り組んでいる『創作』を、このブログに書いていきたいと思っています。
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