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ももんたの発芽室

ももんたのつぶやきや、つたないですが、創作を掲載しています。
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26 決心 【ギブソン】 ③


26-③


「いや、泣いてくれたと言う方が正しいのかもしれないな」


私が覚えていない、『あの日』の私。


「あの日、前にいたのは当時付き合っていた人で、病気のことも話していなかったし、
治療のことも後から告げたんだ。元々、結婚に興味がないって言っていたのに、
なんだろう、年齢なのかな、急にそういう話をし始めたからさ。
そうしたら『信じられない、自分勝手に治療して人のことをバカにしている』って
言われて。怒って……」


啓太の前に座っていた彼女。

最初は考えていなかったのかもしれない、でも、啓太の言うとおり、年齢と時間、

彼女も気持ちを変えたということだろう。


「まぁ、そんな話になるのは薄々気づいていたから、
それ自体にショックとかはなかったんだ。そうか、俺みたいな男は、
一人で生きていけばいいんだと考えて。それで、店を出ようかと思ったら、
カウンターから未央がいきなり前に座ってきて、このお酒を飲めって言い始めた。
飲むつもりはないと言ったら、急に怒りだして。
作ってくれた人に失礼だとか、ここはお酒を飲むために入る場所だとか、
すでに酔っていたからね、テンションどんどんあげちゃうし」


そんなことはないと、言えるはずもなかった。

啓太の話を聞きながら、今、自分自身が明確に思い出している。


「それから、未央は自分が3年付き合っていた男の人に振られたと、
二股かけられた相手に子供が出来たから別れたんだと、
自分のことを話してくれた。俺は未央の話を聞きながら、
女性にとって、『子供』というキーワードは、俺が思う以上に大きいものなのかと、
そのとき初めて感じて」


偶然だけれど、私も啓太も『子供』という理由で、一つの恋を終わらせていた。


「未央は、あなたはどうして怒られたのと、今度は俺に興味を持ち始めた。
どうせ知らない人だし、もう会わないからと思って、俺は自分のことを話した。
病気になって、やっぱり治療を優先にしたかったこともあったし、
『子供』という存在に大きさを感じていなかったことも、すべて話して……。
そうしたら未央、本当に涙を流しながらうなずいていて、一緒に飲もうと……。
投げやりになってはダメだ、前向きにならないとダメだって、訴えてきた」


私は最初、お酒を飲まない啓太が許せなかった。

それから身の上話を聞き、感情を上書きした。


「俺が一口飲んだら、あと全部飲み乾して」

「全部だったの?」

「そう、もう泥酔状態なのに、さらに飲んでしまった。でも、大丈夫だ、
これであなたもまた前に進めるって、涙を流しながら繰り返していた」


その後、啓太がタクシーを呼び、私は啓太に支えてもらいながら後部座席に乗った。

その話しは、バーテンさんからも聞かせてもらったこと。


「住所はどこなのかと聞いても、何も言わなくて。
ただ、大丈夫だを繰り返すだろう。お店の人がバッグを持っていたから、
ここで長い間言い続けているのも無理だと思った。
そうしたら、未央が俺の手を引っ張ったんだ。
場所が変わったこともわからなかったみたいで、一人になったらダメだ、
ちゃんと前向きに歩けるようになるまで、一人になったらいけないって、必死に……」


啓太……笑っている。

そう、あの日も、私の励ましに、笑顔を見せたとバーテンさんが言っていた。


「とりあえず乗って、ホテルに向かってもらった。
場所を決めないわけにはいかないしさ。ホテルなら、部屋に入れて、
メモでも残しておけばとそう思ったから」


啓太の手を引っ張った記憶は、確かにある。


「車が走り出したら、未央は俺の手を握って。今日は、お互いに嫌なことがあって、
生きていることも辛いけれど、明日がくれば今日は過去になるし、
生きていることそれだけで、未来だって何度も俺に言ってきて。
明日が積み重なれば1年になって、それが10年になるって……。
それを、自分で素直に受け入れていることに気付いたとき、
そんなふうに考えることが出来る未央が愛しくて、
一緒にいたいと思うようになっていた。ホテルの前で降りて、一緒に部屋に入って、
それで……」


そう、私たちはいつの間にか意気投合していた。

互いに振られて、落ち込んでいたはずなのに、お互いの話しと境遇に、

どこからか、新しい恋を始めていた。


「寝かしてあげようと思っていたのに……自分の気持ちが止まらなかった。
嫌なことがあったことも忘れて、まるで最初からここに来るつもりだった気になって。
先へと、勝手に身体が動いていた」


記憶がないけれど、私もきっとそうだったはず。

お店の中に、他にも数名いた男の人のことなど、何も気にならなかったのに、

啓太のことだけは、最初から目に入っていたから。


「啓太……」

「ん?」

「初めてだね、『ブルーストーン』のこと、これだけ話してくれるのは……。
ありがとう。あなたとこうして向かい合えていることが、私は何よりも嬉しい」


『愛してもらっていた』とわかるだけで、どんなことにも耐えられる気がする。

私はあらためてウーロン茶を飲む。


「ごめんな……未央」

「どうして謝るの」

「いや……なんとなく」


私は黙って首を振る。

最初からこうして語り合っていたら、ここまで複雑にはならなかったのかもしれない。

でも、わかりあうためには、必要だった気もしてしまう。


「幸せそうに眠る未央を見ていたらさ、今はこうしていても、きっと、
月日が経てば、話していた内容を思い出せば、去って行った人と同じように、
『それは』と言われるだろうと思っていた。でも、正気に戻った未央は、
『ブルーストーン』で話したことをすっかり忘れていて」


抱きしめ合った後、啓太の話を信じた私。


「うん……」

「正直嬉しかったんだ。思い出して泣かれるのも嫌だったし、でも、
『それはひどい』と避けられるのも怖くて……。だから、『ブルーストーン』での時間を、
振り返りたくなかった。心のどこかで、未央が思い出したら、普通の未来を求めたら、
俺は……」


俺は……


「去らなければいけないと、振り返りたくないくらい、消したい思い出になろうと、
何度も心に言い聞かせて」


私が『普通の未来』を求めたら、そのときは終わりの時。

啓太はそう決めて、私と会い続けてきた。


「突然母親がいなくなった時も、飲んでばかりいた父親が死んだ時も、
『ブルーストーン』で罵られた時も、失うことに慣れていたのか、
乗り越えられないとは思わなかった。毎日、生きていくことだけを考えていたし。
でも、未央と別れてから、『生きている意味』ってなんだろうと、急に……」


『生きている意味』

息をして、ただ動くだけではない。


「別れることも、その方法も自分自身で決めていたのに、
いや、いろいろと嫌な思いもさせて、それでもこれが正しいと思って過ごしてきたのに、
最後の最後で……ごめん」


私を突き放し切れなかったと、謝っている啓太。

どれだけ苦しかったのかと、胸が締め付けられていく。


「啓太、もう謝らないで。私たちは先に進むって決めたんだよ」


私は、あらためて啓太にそういうと、帰るために立ち上がった。

今はこれ以上、聞いていることが出来ない気がした。

苦しくて、哀しくて、切ない思いに、私が潰されてしまう。

啓太が見たくないといった、ボロボロの泣き顔を見せてしまう。

心配の種を増やすのは、嫌。


「うん……」


啓太は心配だから駅まで送ると言い、初めてその日、優しく微笑んでくれた。



26-④




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Author:momonta
育てた怪獣2匹は、すっかりかわいさを無くしたため、今や『犬愛』に目覚めたお気楽主婦です。日々のちょっとしたこと、趣味で取り組んでいる『創作』を、このブログに書いていきたいと思っています。
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