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26 決心 【ギブソン】 ④

26-④


『東陵病院』

私と啓太は、次の日、待ち合わせをして病院に向かう。

病院の待合室に座っていても、啓太はほとんど話しをしようとしない。

もし、啓太に新しい病気が見つかっても、そう、たとえ過去の傷がまた、

うずきだしていたとしても、私は逃げも泣きもしないと決めてきた。

人の命には限りがあることもわかっているのだから。

啓太の人生に、私が入っていけるだけで、幸せだと思えるのだから。


「岡野さん」

「はい」


啓太は立ち上がると、バッグを私の膝の上に置き、ひとりで診察室に入った。

一緒に入ろうかとも思ったが、それはやめることにする。

どういう状況なのか、状態なのか、啓太が出て来てくれただけで、おそらくわかる。

啓太が中に入ってから数分後、一度出てきたが、レントゲンを撮るために、

看護師と一緒に目の前を通り過ぎていった。

緊張はしているようだったが、決して悲観した顔ではなかった気がする。

『1年間もまた放り出していて、君は真剣に治すつもりがあるのか』など、

医者に怒られたのかもしれない。

私は啓太のバッグを握り締めたまま、戻ってくるのを待ち続ける。

時計の針が1つ進むのがあまりにもゆっくりに思えて、時々大きく息を吐いた。





啓太の検査が終わったのは、それから1時間後だった。

今日の結果が出るのが、2週間後だと言われ、とりあえず会計を済ませる。


「お腹、空いたな」

「うん……」


私は啓太を見る。


「医者に言われたよ。ここまで何もしていないのに、奇跡だって」

「奇跡?」

「前の箇所の再発はないし、今のところ、新しいものもないって」



……よかった。



自分でどうなってもと覚悟を決めたはずなのに、急に心臓がドキドキし始め、

ものすごく大きな出来事を乗り越えた気がしてしまう。


「まぁ、最終的には今日の結果だけれど」

「最終的?」

「うん……今回、きちんと結果が出たら、5年経過なんだ」


『5年経過』

病気の治療に100%はないのだけれど、とりあえず再発の可能性が高いのは、

5年以内だと言われていて、その5年を過ぎることは、ほぼ治療の終了を意味している。

そういえば、園田さんも、乳がんから5年が経過したと、そう言っていた。


「うん……」


そう、完全に払拭できたわけではないけれど、それでも、気持ちは前向きになれる。


「おかしなものだな」


啓太の言葉に、私は『どういう意味』と聞き返す。


「いや……今まで本当に不安が多くて、だからこそ、自分自身が避けてきたんだ。
最悪のことが起こっても、何も守るものも、残すものもなければ、いいんだって」


啓太の生き方。

今までの行き方、感じ方は、確かにそうだろう。

幼い頃から親に頼ることもなく、自分の足元だけを見つめ続けた流れが、

これからも続くと、考えていたはず。


「それがレントゲンを撮りながら、全く別のことを考えていたんだ」

「別のこと?」

「そう……もし、再発していて、また治療だ薬だと言われたら、
その時はそれを受け入れて生きようと思っていた。出かけたことのない場所に行くとか、
食べたこともないものを食べようとか、なんだかそんなことをね」


『旅行』のこと。

付き合っていた頃には、そんなものは不要だと言っていたのに。


「もちろん、一緒に行くのは私よね」


私の言葉に、啓太は少しだけ笑ってみせる。


「どういう笑いなの、それ」

「わかっているんだから、いちいち聞くなよ」


遠慮なしの本音が、言葉に出てくるようになった。

私たちは少しずつ、時計を戻している。



いや、戻しているわけではない。また新しい日々を作ろうとしているのだ。



「ねぇ、谷さんの奥さんの実家って、どこなの?」

「あぁ……えっと、飛騨高山だ」

「へぇ……いいところね。よし、お店がオープンしたら、行かせてもらわないと」


昔、ドラマで見たことがある。

歴史のある街づくりと、伝統が根強く残っている場所。


「来年の春だぞ、オープン」

「うん」

「もう少し、早くどこかに行きたいな」


啓太……


「でも、まずは彼に会わないと」


私はその言葉にしっかりと頷き返す。

啓太に言われたため、私は悠と3人で会えるように、連絡を取った。





「うーん……」

「ダメですか」


編集長の口が、曲がったままで動かない。

私はその表情を見た後、『NG』を予感したため、視線をそらす。

二宮さんが編集長に戻された企画書を持ち、ため息をつきながら、席に戻ってきた。


「ダメだって言われました」

「そう……」


次号の特集記事。

幅広い女性を応援しようという雑誌のテーマに沿って、

『輝いている女性』を題材にすることが決まっている。

今回の担当は二宮さん。


「ねぇ、どんな人をあげたの?」


二宮さんは、編集長から戻された企画書を私の前に出す。


「『親子3代で幼稚園教諭をしている女性』です」


おばあさんが作った幼稚園を、母と孫娘が継いでいるという都内の幼稚園。


「歴史もあるし、評判もいいんですよ」


確かに、『輝いている女性』ではあるけれど、親からの受け継ぎだと思ってしまえば、

恵まれている人だと思われかねない。


「うーん……」

「エ……その『うーん』は、中谷さんもダメ出しですか」


二宮さんは、いいと思うのにと机に顔をつけてしまう。

私は他にどんな候補者がいるのと、彼女の横にあるノートを取った。

他に書かれているのは、『主婦から猛勉強して弁護士になった人』や、

『有機栽培の野菜を育て、地元で評判のお店を経営する女性』など、

その人の経歴や名前、住所が並んでいる。

どの人にも苦労はあるし、色々とたどり着くまでのエピソードもあるだろう。

しかし、編集長が首を縦にしないというのも、どこかで判る気がしてしまう。

『弁護士』や『経営者』そして『園長』など、その人の努力に、

何か冠がついている気がして、一般の読者からすると、

自分と『同等』と考えるのは難しそうだ。


「悪くはないけれど、読者の身近な気がしないと言うか……」

「中谷さん、これ」


取材から戻ってきた塚田君が、私に封筒をくれた。

編集部宛に届いた手紙だと言う。



『園田亜矢子』



園田さん……

私はすぐに封筒を開いた。



26-⑤




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テーマ : 恋愛小説
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育てた怪獣2匹は、すっかりかわいさを無くしたため、今や『犬愛』に目覚めたお気楽主婦です。日々のちょっとしたこと、趣味で取り組んでいる『創作』を、このブログに書いていきたいと思っています。
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なお、作品の無断転載やお持ち帰りはご遠慮ください。著作権は放棄していません。お願いします。

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