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27 時の流れ 【アキダクト】 ②

27-②


ここからなら、おそらく向こうに歩くだろうという道はわかっていた。

悠のマンションの場所を考えると、使う駅もわかる。

ここから歩いてどれくらいだろう。

私は人を避けながら、必死に走る。

『ごめんなさい』と『ありがとう』を、どうしても伝えたかった。

私が、頑張れたのは、苦しくても前を向けたのは、悠がいたから……



それは間違いなく、本当のことだから……



「はぁ……はぁ……」


ヒールなんて脱げてもいいと思いながら走っていくが、

悠の姿はどこにもなくて……


尋常ではないくらいの、荒く乱れた呼吸。


周りの人が、私を見ている。

この人は何をそれほど必死に追っているのだろうと、不思議そうに。

誰か……『上村悠』を知りませんか。




『上村さん!』

『どうしました』

『ごめんなさい、私、名刺、受け取ってしまって』

『受け取ってもらおうと思い、出したものですからどうぞ』




あの日も、そう、初めて会った飲み会の後も、私はこうして悠を追いかけた。

帰り際にスッと出された名刺をもらってしまって、

でも、お付き合いなど出来ないと、返そうとした。




『僕、最初から中谷さんしか見ていなかったんですよ』

『エ……』

『ぜひ、また……』




最初から最後まで、私にはどこまでも優しかった人。


「はぁ……はぁ……」


もうダメ。

道路標識のポールを掴み、倒れそうな体を支えながら必死に前を見る。

駅まで来たが、悠はどこにもいない。



『10分位したら……』



そうか、だから10分なんだ。

悠が啓太に求めた時間差。

この10分間で悠は、自分が駅まで来られることをわかっていて、

それでその時間を要求したんだ。




もう……ここにはいないんだ。




決められた時刻に入った電車が乗客を降ろし、そして乗せ、ホームを離れていく。




会えなかった……




追いかけられなかった悔しさと、それで思い出した悠の『優しさと強さ』。

悠は今日、私とは一切会話をしないで去ろうと決めていた。

悠の思い通りになってしまった。



『悠……』



『ごめんなさい』も『ありがとう』も言うことが出来なかった。



『どうかこの先、彼に幸せが来るように』と、

私はただ、ここに来ただろうと思える人のことを考え、必死に祈ることだけしか出来ない。

永遠に許されないかもしれないけれど……



それでも、そうしなければ気持ちが収まらないから。





ホテルまでの帰り道。

必死に走っていたからわからなかったけれど、

これほどまでに距離があったのかと思えるくらい、長かった。

入り口に立っていてくれたのは、啓太。


「啓太……」

「会えたのか」


私は首を振る。


「そうか……」


啓太は小さく頷くと、少しこちらに歩き、両手を広げて私を抱きしめてくれた。

その時初めて、涙があふれた。

悠は、最初から話し合いの後、私に会うつもりはなかった。

こうして残される『辛さ』と『空しさ』が、彼の精一杯の抗議なのかもしれない。

『ごめんなさい』も『ありがとう』も、結局は私の気持ちの整理であって、

受け止めなければならない悠にとっては、迷惑なだけ。





最後の最後まで、悠は悠らしいまま……



「未央、何か、食べよう」


啓太は少し落ち着いた私に、そう言ってくれた。

私は頷きながら、一歩ずつ前に進む。

悠が何を言ったのか、啓太からきちんと聞かなければ。

ホテルから離れ、しばらく歩くと、それほど大きくはない『蕎麦』の店があった。

軽くすすれるようなものを頼み、啓太と向かい合う。

啓太は、ホテルの部屋で悠と何を話したのかを教えてくれた。


「どうして別れたのかと聞かれたから、俺は自分自身、数年前に病気をしたこと、
それによって、子供を望めないだろうと医者から言われていることも話した。
未央にとって、いや……普通の女性にとっては当たり前に望む未来を示せないのなら、
そういうことを考える前に、自分は身を引くべきだと思っていたし」

「うん」


悠に別れを告げたときにも、啓太のことは話したつもりだったが、

本人からきちんと聞きたいと思うのは当然だろう。

啓太は今、病状がどうなのか、医者からもらったものも全て、

悠に見せたという。


「5年経過のことも、わかっていたみたいで。書類を見てから、
とりあえずよかったですねと、そう言ってくれた」


『5年経過』

私は、時の流れを感じながら頷いた。



27-③




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テーマ : 恋愛小説
ジャンル : 小説・文学

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育てた怪獣2匹は、すっかりかわいさを無くしたため、今や『犬愛』に目覚めたお気楽主婦です。日々のちょっとしたこと、趣味で取り組んでいる『創作』を、このブログに書いていきたいと思っています。
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なお、作品の無断転載やお持ち帰りはご遠慮ください。著作権は放棄していません。お願いします。

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