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27 時の流れ 【アキダクト】 ③

27-③


「自分自身は、付き合いの中で未央を理解しているつもりだったし、
理解もしてもらえていると、そう思っていたって。だから正直、まだ混乱していて、
どうしてなのかという思いの方が強いと、そうも話していた」


そう……理解していた。

悠との時間の中で、一度たりとも、不服だと感じたことはなかったし、

辛いとか、苦しいとか、そんな思いもなかった。

春になる前に再会し、そこから距離を近付け、楽しい時間ばかりがそこにあった。



これでいいのかと思うくらい……



「上村さんは、未央が、病気を抱えている俺に『同情』していると思っているから、
この勝負に勝てなかったのは、おそらく時間のズレじゃないかと……」

「時間のズレ」

「そう……最初に自分と会ってくれていたら、こうならなかったのではないかと、
そう言っていた。『負け』という気持ちにはなりたくないのだろうね、きっと。
まぁ、もちろん、勝ち負けではないし、俺自身、自分のあやふやさが原因で、
こうなってしまって、申し訳ないという思いもあるし」


啓太はそういうと、また蕎麦をすすっていく。

啓太よりも悠と先に出会っていたら、

私はもしかしたら、啓太を好きになろうとしなかったかもしれない。

『ブルーストーン』で出会った日の状況や、そこからの流れも全て含めて、

私と啓太の時間が、出来上がってきた。

最初から悠が相手なら、きっと、その平凡で温かい時間に満足していた気もする。


「だから俺は言った。それならその幸運を、今度こそ、一生離しませんと……」


啓太は、『悠よりも早く私に会えた』という幸運を、手離さないからと、

そう宣言したと言う。


「その時、彼が初めて少し笑ったような表情をしてくれた。
俺は、これからどう運命が動いても、未央のために、必死に生きるつもりですと、
さらに念押しして」


これから何が起こっても、逃げずに私とともに進む……


「うん……」


啓太の決意を聞いて、悠は納得してくれたのかもしれない。


「『花菱物産』の名刺、前に部屋で拾ったことがあっただろ。
『上村』って聞いて、すぐに思い出した」

「うん……」


そう、飲み会の後、押し込んでいた名刺を、啓太の部屋で落としたことがあった。

あの時は、『気にしてません』という態度を取られて、イラッとしたけれど。


「覚えていたの、名前」

「当たり前だろう。なんだよ、『花菱物産』ってと、思ったし」

「……だったら……」


私は啓太がもっとハッキリしてくれていたらと言おうとして、そこで止める。

私も啓太も、不器用で未熟な人間なのだ。

これからも、傷つけ、傷つけられ、日々を重ねていくのかもしれない。


「いい大学を出て、会社に入って、自分が生きてきた道は間違っていないと、
自信があふれている人の姿だった。男としては完璧だと、そう思わされたし」


『完璧』

確かに、悠の経歴だけを見たら、そう思うだろう。


「でもきっと、今日は彼も緊張していたはずよ。そんなに威圧感ある人じゃないもの」

「……うん、だろうけれど」


女性の気持ちが量りきれなくてと、最初の頃、よく言っていた。

ゆっくり歩くことが出来なくて、

どんどん先に進んでしまったりすることもあったけれど、

だんだんとそういう距離感が、わかるようになってくれて。



優しくて、それでいて自分というものもしっかりと持っている……

それが『上村悠』だった。



「大丈夫だって、思えるようになった」

「ん?」

「今の啓太の話しを聞いて、悠はきっと、もっともっと素敵な人と出会えて、
恋が出来るとそう思えるようになった」


そう、絶対に大丈夫。

不器用だと照れていた人だけれど、悠なら、絶対に素敵な人と出会えるはず。

あんな人が幸せになれない世の中は、絶対に間違っているのだから。

私は啓太に負けないよう、蕎麦をすすっていく。

何もかもがうまくいったわけではもちろんないけれど、それでも、

一つだけ壁を乗り越えられた、そんな気がした。





しかし、心と身体は全て同じ行動をするとは限らない。



『悠!』



突然目覚めたのは、真夜中。

目の前の世界は暗いし、外からの音もほとんど聞こえない。



私は歩き出す。

そう思って、また日々を送り出したのに、こんな夢をよく見てしまう。

人ごみの中に悠を見つけ、声をかけようと思うと、スッと消えてしまうのだ。

あの日、追いかけ切れなかったという後悔なのだろうか。

29歳の誕生日を、ずいぶん遅れて啓太とお祝いしたけれど、

部屋に泊まる気持ちにはなれず、私は自分のベッドに横たわったまま、

そばにある携帯に手を伸ばす。

人の名前をスクロールしながら、私の指は『中谷千波』の名前で止まった。





「こんにちは」

「あ、未央ちゃんだ」

「うん。カズ……お土産だよ」

「うわぁ……やった」


私は休みの午後、兄の家におじゃました。

兄は会社の同僚たちとゴルフで、朝からいないと言われほっとする。


「未央ちゃんが来ること、奏樹はダメだなんて言わないわよ」

「いやいや、お兄ちゃん思っているもの、内心。未央は、千波を利用しているって」

「利用? あはは……やだ」


しばらく和貴のお薦めビデオや、幼児教室で習った歌を聞くなどしていたが、

テンションがあがったことで疲れたのか、ソファーで眠ってしまう。

千波ちゃんはかわいい毛布を和貴にかける。


「ありがとう。未央ちゃんが相手をしてくれて助かった」

「いやいや、全然」


そこからは大人の時間。

二人で紅茶を挟み、向かい合う。

私は、『金沢旅行』で話しをした啓太と悠のことで、続きがあるからと告げ、

ここに訪ねて来た。


「彼、病気とちゃんと向かい合ってくれて、検査もしたし、今のところ、
問題がないこともわかったの」

「そう……それはよかったわね」


千波ちゃんは、元々、不真面目な人ではなかったのだからと、フォローしてくれる。


「うん。これからは私たちなりの未来に向けて、1歩ずつ進もうと思っている」

「うん」


千波ちゃんは、半分になった私のカップに紅茶を足してくれた。

香りのいい湯気が、鼻に届く。

そう、私は啓太と道を歩くと、そう決めたのだ。

決めたのだけれど……


「また今日も、でも……なのかな」


千波ちゃんは、そういうと、私の顔を見る。

私は、やはり気持ちはお見通しなのだと、小さく頷いた。



27-④




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テーマ : 恋愛小説
ジャンル : 小説・文学

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育てた怪獣2匹は、すっかりかわいさを無くしたため、今や『犬愛』に目覚めたお気楽主婦です。日々のちょっとしたこと、趣味で取り組んでいる『創作』を、このブログに書いていきたいと思っています。
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なお、作品の無断転載やお持ち帰りはご遠慮ください。著作権は放棄していません。お願いします。

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