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27 時の流れ 【アキダクト】 ④

27-④



「未央ちゃんから電話をもらって、
声のトーンから、もしかしたらそんな感じかなと、正直思っていたの」

「あ、千波ちゃん。でも私、後悔しているわけではないんだ」


千波ちゃんは、それはわかっていると、返してくれる。


「おかしな言い方かもしれないけれど、私自身、これでいい、
間違っていないと思っているのに、なんだろう、前のように、
ただ彼だけを見ることが、まだ出来ていなくて」


啓太との以前の日々。

仕事の帰りにそのまま部屋へ向かい、思いのままに求め合っていた。

終電がなくなるなんてどうでもよくて、明日の仕事に支障があることすら、

その後の出来事のようになっていた。


「啓太を選んだことは、自分で決めたことだし、また一緒にいられるのだと思うと、
本当に嬉しいのだけれど……」


そう、嬉しいのだけれど、以前のように向き合えていない。


「未央ちゃん」


千波ちゃんは、『素敵な人だったのよ』と笑ってくれる。


「エ……」

「それは、お別れした彼も、とっても素敵な人だったとそういうこと。
未央ちゃんが、なんとなくお付き合いしたわけではなく、きちんと向き合っていた証拠」


向き合っていた証拠。

悠が、とても素敵な人だったということ。

私は、千波ちゃんにそう言われて、心の底から嬉しくなった。


「そう、本当に素敵な人だったの」


私とは結びつく運命ではなかったけれど、もっともっと幸せになれる人なのだから。


「人生は長い。焦らずに大丈夫よ、それでも気持ちはつながっていく」

「気持ち……」

「うん。戸惑いの時間も、よそよそしい時間も、肌が触れていなくても、
それは、二人の気持ちがしっかりとつながっていくための過程。違うかな」

「過程か」

「そうよ。夫婦とかってそういうものなのよ。だから、違和感があるのも、
そのうち消えるはず。あ、まだ夫婦ではないけれど……」


千波ちゃんの言葉に、私の中にあった小さな疑問符が、溶けていく気がした。

前のように、激しく啓太を『愛したい』と思えない気がしていたのは、

心のどこかで悠への申し訳なさがあるのかと思っていたが、今の一言で、

心の方向が一気に変化する。


「気持ち……か」

「そう……まぁ、世の中的にはマンネリとか、嫌な言い方をする人もいるけれど、
いつでもそばにいてくれる、振り向けば顔が見られるという安心感?
空気のように当たり前にあるもの、それが心地よくなるのよ、男も女も」


いつでも啓太と会える。

確かにそうかもしれない。

あの頃も、啓太といつでも会えると思っていたが、その反面、

いつ会えなくなるのかと、常に不安でもあった。

会う目的が決まっていると信じていたから、それがずれてしまったらと、

毎日、緊張感もあった。


「そっか……マンネリね」

「ごめん、言い方おかしいわ」

「ううん、いい、それでいい」


そう、それでいい。

私の相手は啓太。啓太の相手は私。

私たちは、『心の指輪』をしっかりとはめた。

そして1日、1日を、これからあらためて積み重ねていく。


「やっぱり千波ちゃんだ。ここに来てよかった」

「そう?」


幼い頃は、兄がいてもつまらないと思っていたけれど、兄がいれば、

姉が出来るのだと言うこと。

そして、その姉が、私にとってはとんでもないくらい素敵な人で。

この人を選んでくれた兄に、感謝しなければ。


「お父さんたちには、紹介するの?」

「もう少し……してからかな」

「そう」


それからもしばらく兄の話しや、和貴のお友達の話しなどを聞き続け、

気付くとゴルフに出かけていった兄が戻る時間まで、おじゃましていた。

私は帰るからと言ったのに、兄は当たり前のように夕飯を食べていけといい、

その日はとことん『中谷家』に世話になった。





「おはようございます」

「おはよう」


季節がまた一つ冬に向かうという日、

私と二宮さんは、東京の郊外にある建物に向かうことになった。

もちろん、取材相手は園田さんだ。


「久しぶりですね、園田さんにお会いするの」

「うん」


二宮さんはあのお別れ会以来だと言い、タクシーを捕まえている。

私が会うのは、啓太のことを聞いた日以来になる。

二宮さんは施設長さんからも話しを聞くことになっていたため、

私はその時に、啓太のことを話そうと決めていた。

私が付き合いを復活したということより、啓太の病気がどうなっているのか、

きっと、園田さんは気にしてくれている。



『いっぽ』



園田さんが、今日似顔絵を描くために来ているのは『いっぽ』という施設だった。

足跡のイラストがそばにあるのを見て、それが『一歩』という意味だとわかる。


「すみません、本日取材をお願いしていた二宮です」

「あ、はい」


車椅子を押していた女性が私たちに気付き、中へと入れてくれた。

日当たりのいい施設には、今日も利用者が結構、訪れている。


「はい……どうぞ」


通された場所の奥には、かわいらしい子供たちの声が響く。

園田さんの手紙にも書かれていたが、

この施設の奥には、同じ経営者の『保育園』が入っている。

子供の声が、お年寄りのいい刺激になればと、保育園の園長先生は話してくれた。


「こんにちは」


施設の奥から出てきてくれたのは、園田さんだった。

先生のアシスタントをしていた頃よりも髪は短かい。


「髪……」


二宮さんがそうつぶやくくらい、髪型が変わった。


「あ、そうなの。バッサリと切りました」


園田さんは、そう言いながら髪の毛に触れる。


「驚きましたよ」

「そう? 農作業とかをするでしょう。荷物を運んだり、畑を耕したり。
動きやすさを考えたら、短い方がと思ったの」


園田さんのかけていたポシェットには、何やらペンがたくさん入っている。

今日は保育園でイラストを描いていたのだと言うと、

壁に書かれた大きな飛行機の絵を指差してくれる。


「うわぁ……」

「すごいでしょう。子供たちの飾りをここにつける予定なの」


子供たちの未来へ向かう飛行機。

普通のジェット機とは違い、色々なものがくっついている。


「実際にはこれ、重たくて飛びそうもないですね」

「あはは……そうね、確かに」


園田さん、なんだか明るくなった。

そこからは二宮さんが取材を進めるため、私はそのフォローとして、

少し後ろに下がり、話しを聞き続けた。



27-⑤




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テーマ : 恋愛小説
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Author:momonta
育てた怪獣2匹は、すっかりかわいさを無くしたため、今や『犬愛』に目覚めたお気楽主婦です。日々のちょっとしたこと、趣味で取り組んでいる『創作』を、このブログに書いていきたいと思っています。
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なお、作品の無断転載やお持ち帰りはご遠慮ください。著作権は放棄していません。お願いします。

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