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27 時の流れ 【アキダクト】 ⑤

27-⑤



園田さんは、お父さんとこの施設を利用している中で、偶然、一人の女性に、

絵を描いて欲しいと頼まれたことを話し始める。


「父がね、うちの娘は漫画家なんですって、言わなくてもいいことを言ってしまって。
そうしたらそのおばあさんが、囲炉裏の絵を描いてくれないかというのよ。
お断りするのもと思って、ネットとかで探して見てもそれとは違うって。
それならばと、おばあさんが言うように書き進めていったら、懐かしい、懐かしいって、
嬉しそうに絵をもらってくれて」


園田さんは、その表情がいいもので、心に響いたと笑っている。


「私、作品のためにイラストのタッチを変えたでしょう。
もちろん、あの作品はあれで納得しているの……」


啓太をモデルにした絵。

それは、私と啓太と眉村先生、そして園田さんしか知らない。


「でも、実際には描きながら、あれを仕事として続けるのは無理だと思った。
楽に描ける絵は、こっちだから。その絵を認めてもらえたのが、
嬉しかったということかな」


漫画ではないし、お金も地位も何もついてこない。

でも、嬉しいという笑顔だけは、毎回もらえたと言う。


「似顔絵も、子供たちとの絵も、レストランの絵も、とにかく描く事が楽しいの。
それでいいかなと思って」


『楽しい』と思える日々。

私はその通りだと思い、頷いていく。


「編集部では、園田さんが描いた作品も、今回の取材があるため、
もう一度スポットを当てようと話しています」

「ありがとうございます」


ダウンロードでもう一度、あの作品が蘇るだろうか。

園田さんへの取材は20分くらいで終わり、二宮さんは施設全体の写真などを撮るため、

この場を離れていった。


「園田さん」

「はい」

「啓太のこと……話してもいいですか」


私が啓太の名前を出すと、園田さんは少しだけ、驚いた顔をした。

それでも、すぐに『はい』と返事をしてくれる。


「園田さんと病院で会った日の結果を、聞きに言ったのは1年後でした」

「エ……」

「そうなんです。園田さんと病院で会った後、また全然行っていなかったみたいで。
でも、その結果も、それから1年後に受けた検査も、問題はありませんでした」


そう、啓太は『悪性リンパ腫』の病から、5年の経過を迎えた。

園田さんはそうですかと言った後、また私を見る。


「中谷さん……もしかしたら」

「はい、なんだかんだとあって、もう一度やり直すことに……」


あらためて話すのは照れくさい気がしたけれど、でも、伝えておきたい。


「そうですか」


園田さんはそれはよかったですと、笑ってくれる。

啓太といざこざがあった後、彼女の存在に心を乱されたことはあったが、

全ては自分たちの未熟さだったのだと、今、あらためて考える。


「今日、園田さんと会うことを話したら、啓太が色々と謝って欲しいと……」


啓太の言葉を伝えると、園田さんは少し照れくさそうに首を振った。


「岡野さんに謝ってもらうことなんて、一つもないもの。
私が、一方的に気持ちを寄せただけで」

「いえ……」


『岡野さん』と、園田さんは啓太を呼んだ。

あの頃のように『啓太さん』とは言わない……


私とはまた、違う温度で啓太を好きになった人。

園田さんは『よかった』ともう一度言ってくれる。


「岡野さんに、よろしくお伝えください」


私は園田さんからの言葉をしっかり受け取ると、小さく頭を下げた。



誰もがみんな、自分を愛し、そして相手を愛し生きている。

その中で、思いを伝えることが不器用で、どこかおかしくなることもあって、

それでもまた、笑顔になろうとする。



日々、修正し、そして反省し……





「ねぇ、啓太。テーブル片付けて」

「うん……ちょっと待って。今、いいところ」

「いいところ? そんなもの結果をニュースで教えてくれるでしょう」

「ライブだぞ、今だからいいんだろうが」


仕事が終わってから啓太の部屋に向かい、夕食を作る。

テーブルを片付けてと言っているのに、なんだか今日はボクシングの試合があるらしく、

あいつの目は、そこばかり向かっている。

私は自分でお鍋を運ぶと、わざと画面の前に立ってやった。


「あ、未央。どうして今そこに立つんだ、どけって」

「うるさい! やることをやりながらでも見られるでしょう」


ちょっとした口ケンカ。それもくだらないこと。

だけれど、それがまた、楽しくもなる。



「あぁ……未央があの時、前を横切ったから、チャンピオン負けたんだろうな」

「どういう意味よ、それ」


どう考えてもありえない話しだけれど、啓太は右ストレートがいまいち力がなかったと、

ひとりで勝手に分析をし始める。

私はお鍋の中にご飯を少し入れて、タマゴでも落とそうかと聞き返した。

啓太は頷きながらも、また右手で拳を作っている。


「今の人、チャンピオンなのに負けたでしょう。殴られて負けて、
お金って、もらえるの?」


殴られて負けたからタダですでは、傷も治らない気がする。


「もらえるよ、もちろん。まぁ、チャンピオンの方が取り分多いからね、
負けても結構入るはず」

「あ、そうなんだ、それならいいわよね」


負けたらゼロというのでは、困るだろう。


「よくないだろうが、次は挑戦者だからたくさん入らないし……」

「あ、そうなんだ」


私はご飯とたまごを運び、鍋に入れようとする。


「あいつの好調なときならさ、もっとパンチが利いたのにな」


啓太はそういうと、ソファーに座った私のひざに、頭を乗せて横になってしまう。

啓太の頭の重みで、身体が動かしにくくなる。


「ちょっと、邪魔」

「なぁ、未央」

「何?」

「今日は……泊まる?」

「エ……」


たった一言だけれど、啓太の言葉が心にじわりとしみ込んだ。

『泊まるのか』という、遠慮がちな問いかけ。

啓太の部屋に、私が顔を出すのはいつものことだったけれど、

こんなふうに、望まれたと思えるのは、久しぶりかもしれない。

そう……啓太と時計を戻すと決めた日から、私たちはまだ、先に進んでいない。

気持ちのズレがちゃんと整うまでと、いつの間にか互いに決めていたのかもしれなくて、

『帰るね』というと、いつも引き止められなかった。



啓太からの誘い……



素直に嬉しい。


「……うん、泊まる」

「そっか」


下を見たら、私と同じように、嬉しそうな啓太の顔があった。



28-①

《プレラブ プチ知識 タイトル写真》

27 【アキダクト】

★カクテル言葉は『時の流れ』

材料はウオッカ 4/6、アプリコットブランデー 1/6、ホワイトキュラソー 1/6、
レモンジュース 1tsp. オレンジピール





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テーマ : 恋愛小説
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育てた怪獣2匹は、すっかりかわいさを無くしたため、今や『犬愛』に目覚めたお気楽主婦です。日々のちょっとしたこと、趣味で取り組んでいる『創作』を、このブログに書いていきたいと思っています。
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なお、作品の無断転載やお持ち帰りはご遠慮ください。著作権は放棄していません。お願いします。

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