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28 心を穏やかに 【ウイスキー・マック】 ④

28-④


「そうしたいと思っている中村さんの気持ちを、受け止めてあげるのも、
大切だと思うし。少なくともお母さんはきっと、幸せだったよ……」


こんな言い方でよかったのか、悪かったのか、

いつもの通りだけれど、啓太からは明確な返事が戻らない。

産んでもらった、育ててもらった、家を出て行ったと、文字にしてしまえば、

それほどの長さにはならないが、言い表せない感情や悔しさなど、

クリアには出来ないものが、多いのも理解できる。


「未央の言うとおり、親父といるよりもきっと、幸せだったとは思う。
子供の頃……うん、高校生の頃なんかは、父親のことを絶対に許せないし、
出来たら顔もみたくはないと、そう思っていたし」

「うん」

「でも……何もしない親父だったけれど、それでも、そばにいたのはこっちだから、
母が新しい場所で生きたことを認めてしまうのは、かわいそうな気もした」


子供は親を選べない。

私はその言葉を、痛感する。


「でもさ、自分自身、色々と思いがけないことがあって、最初は未央のことも、
諦めて離れると決めていたのに、結局、そうできなくて……。
そういう自分の愚かさとかずるさとかを認めるのだとしたら、
限りある人生の中で、今を抜け出したいと思った母親の思いを、
ただ否定も出来ない気もしてね」


母である前に、一人の女性であり、人だということ。

選んでしまったことに後悔があっても、それは責められないし、

リセットして、新しいものを欲しいと願うのも、否定出来ない。

それがたとえ『人を傷つける』ことでも、ごめんなさいと言いながら、

走り出してしまうことだってある……


「レンタカー、借りたら行けるか」

「……うん」


許そうとか、認めようとかそんな大きなことではなくて、ただ、その場に立って、

どう思うのかというストレートな感情も、大切な気がする。


「明日は晴れだって、さっき天気予報で言っていたから、大丈夫」


私は食べ終えたアイスの袋をゴミ箱に入れると、外を見つめている啓太のそばに立ち、

後ろからそっと抱きしめた。

浴衣の生地だけしかないからか、背中からも啓太の温度が頬に伝わってくる。


「あの予報士、いつも外すぞ」


啓太はそういうと私の腕を取り、向かい合った。


「たとえ雨になっても、車なら大丈夫でしょう」


私がそう話しをすると、啓太の唇が私の首筋から少しずつ下へ向かい、

浴衣が少しずらされていく。 鎖骨や肩にまで唇が向かうと、

そのために乱れた胸元に、迷いのない手が、入っていく。

ひやっとした感覚が、そのまま肌に触れた。

啓太の視線が、私を見る。

隔てるものがあると思っていたのか、その口元が少し動いた。

無防備だとは思っていなかったと、そう言っているように見える。


「何?」

「いや……」


手を引かれ、すでに敷かれた布団の上に二人で座り、

あらためて唇を合わせながら、互いに帯へと手を伸ばす。

啓太の肌に触れ、その厚みのある胸に唇を乗せた。

啓太は私を受け止めるようにしながら、ゆっくりと横になる。

互いに向かい合いながら視線を重ね、再びキスを交わしながら、

少しずつ互いの身体を温めていく。

その声も、吐息も、指の動きも、全て受け入れあう間に、

気持ちはもっと先へと、勝手に動き出していく。

高鳴りを互いの指先に感じ、啓太が身体を起こすと私の両肩をつけた。

大きな柱が目に入ったのは、ほんの少しの時間で、

すぐにその場所に、啓太が入り込んでくる。

触れていた感覚は、すぐに深く大きな波に代わり、私は長い息を吐き出した。





次の日、箱根湯元の駅まで向かい、レンタカーを借りると、

まずは目的どおり、『黒たまご』を目指すことにした。

海外からの観光客も多く、中国語や韓国語も、飛び交っている。


「はい、黒たまご」

「ただのたまごだろ」

「たまごだけれど、これは名物なのよ。『ただの』なんて言わないで。
みんな食べるの」


文句を言いたげな啓太にたまごを渡し、私も殻を向いていく。


「すごいよね、地球の奥深くでは、マグマがドロドロしているわけでしょ。
今ここで爆発したら、逃げられない」


硫黄の匂いが、体全体にしみていく気がする。


「そうしたら私、啓太にしがみつこう……」

「ん?」

「せめて啓太とは、離れたくないじゃない」


センチメンタルな私の会話に、啓太はよくそんなことを考えるねと、笑っている。


「そう? もしこうなったらって、考えない?」

「あんまり……」


男と女は違うのだろうか。

私は大きな石に座っている隣同士の距離を、少しでも近づけようと、左にずれていく。


「俺は別のことを考えていた」

「別のこと?」

「旅行もいいものだなって……」


啓太はそういうと、これからお金をためて、『日本制覇』を目指そうと言いはじめる。


「日本制覇?」

「そう。北海道から沖縄まで、二人で全部旅行をするんだ。贅沢になんてしなくていい。
ただ、色々なところを、未央と見て歩きたいなと」


啓太とずっと、一緒に……


「日本人として生まれたからね、日本を全て見ておきたい」

「全てね……」


1日が10日になり、1年になっていけば、行ける場所はどんどん増えていくだろう。


「うん、そうしよう。全国制覇!」


私はたまごに塩をつけると、一口食べた。

啓太の言っていた通り、ただのたまごだけれど、青空と、決意が重なったからなのか、

ものすごく美味しいものに感じられた。



28-⑤




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テーマ : 恋愛小説
ジャンル : 小説・文学

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ありがとうございます

ナイショコメントさん、こんばんは

>発芽室10周年おめでとうございます
 これからも、楽しませてください

ありがとうございます。
覚えていてくださって、嬉しいです。
あっという間に10年。
みなさんのおかげです。

また、区切りのいいところで、
コメント、出しますね。
これからも、よろしくお願いします。
プロフィール

momonta

Author:momonta
育てた怪獣2匹は、すっかりかわいさを無くしたため、今や『犬愛』に目覚めたお気楽主婦です。日々のちょっとしたこと、趣味で取り組んでいる『創作』を、このブログに書いていきたいと思っています。
飲み物片手に、立ち寄ってくださいね。

なお、作品の無断転載やお持ち帰りはご遠慮ください。著作権は放棄していません。お願いします。

発芽室、ただいま連載中!
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